2016年10月1日から、公費による定期の予防接種となる「B型肝炎ワクチン」。実は、WHOに加盟する194カ国のうち184カ国が全ての乳児を対象に接種を行うなど(2014年時点)、世界的に予防対策が重視されている病気であることをご存じだろうか。

今回の定期接種化は、0歳児を対象にしている点がポイント。製薬会社MSDが主催したセミナーで、済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科 部長 乾あやの医師が「乳幼児におけるB型肝炎予防の重要性」をテーマに講演した内容をお伝えする。

済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科 部長 乾あやの医師

保育園でも感染の可能性がある

B型肝炎ウイルスは、感染するとキャリア化し、人生のどこかで慢性肝炎を引き起こす可能性のあるウイルス。その後、肝硬変や肝ガンへ進行することもある。しかし、一過性の感染で、急性肝炎となったあと、無治療で治ってしまうこともあり、乾医師は「感染する側の免疫状態と、もらったウイルスの量によって、感染の経過が決定される」と説明した。

その点、特に注意したいのは年齢の低い子どもたちだ。

台湾で行われた疫学調査によれば、0歳児に感染した場合、95%がキャリア化し、その後、重い症状の発症へとつながる可能性が高くなる。データを見ると、年齢が低ければ低いほどキャリア化しやすいことが分かる。乾医師は「5歳くらいまでの子ども・もしくは免疫不全の人たちが、ウイルス量の多い人から感染した場合、キャリアになりやすい」と分析。これが、早いうちに予防接種を受けることが得策と言われるゆえんだ。

またB型肝炎というと、既に保険適用による予防策が取られている、母子感染のイメージが強い、という人もいるかもしれない。しかし、実は小児の慢性B型肝炎患者のうち35%は、父親や兄弟などから感染したという研究データもある。

さらに乾医師は感染経路について、尿や唾液、涙、汗にも多量のウイルス量があると指摘。「現代では0歳児から保育園に通う子どもも増えている。子どもはたくさん唾液を出したり、泣いたり、汗をかいたりするので、それが小さな傷口に入り、感染するということもあり得る」と接種の必要性を主張した。

4月うまれの赤ちゃんは注意して

加えて、気をつけたいのは接種時期だ。対象となるのは、2016年4月以降にうまれた0歳児で、国が推奨しているのは、生後2カ月、生後3カ月、生後7~8カ月と3回の接種となっている。

乾医師によると、2016年4月うまれの赤ちゃんが0歳のうちに定期接種を終えるためには、10月に1回目、11月に2回目、3月に3回目というのが想定される流れであり、非常にタイトなスケジュールとなる。「インフルエンザや風邪が流行したりすると、ワクチンがスケジュール通りに打てない」との懸念もあるため、早めに小児科医に相談した方が良さそうだ。

しかし横浜市など、出生時期によっては、0歳を過ぎても、2017年7月31日までは無料で接種を行う市もある。他にも57の市町村で助成が実施・予定されているとのことなので、対象時期を過ぎてしまった場合には、お住まいの自治体に確認してみよう(有料ではあるが任意接種はいつでも可能)。

全世界で約3億人、日本では推定130万~150万人の感染者がいると言われるB型肝炎ウイルス。日本からの海外渡航者数や訪日客が増加する中、感染のリスクはさらに高まっている。その上、感染キャリアの多くは自覚症状がないため、気づいた時には既に病気が発症していたり、他の人に感染を広げていたりする可能性もある。

「感染率を下げていくためには、人生に1回、キャリアになりやすい低年齢のうちに、ワクチンの接種をするのが最も重要な対策となる」と乾医師。子どもの生涯にわたる健康を守り、感染を広げないためにも、ぜひ接種を徹底してほしい。