劇場版『空の境界』主題歌プロジェクトとして2008年にデビューした、Hikaru(ヒカル)、Keiko(ケイコ)、Wakana(ワカナ)からなる3人組ヴォーカル・ユニット、Kalafinaのアリーナライブツアーファイナル公演「Kalafina Arena LIVE 2016」が2016年9月17日、日本武道館で開催された。

当日は1万人の観客が彼女たちの歌声を聞くため武道館へ集結。皆お気に入りの楽曲を楽しみにしている様子だった。そんな彼女たちがファンを魅了する「Kalafina World」とはいったいどのような世界なのか、ステージ模様を一挙紹介する。

左からHikaru(ヒカル)、Keiko(ケイコ)、Wakana(ワカナ)

明るく照らされた日本武道館のステージにKeikoがきらびやかな和の衣装で登場し、オープニングナンバー『アレルヤ』をアカペラで披露。Kalafinaのボトムのポジションでもある彼女の歌声が場内の空気を揺るがし、オーディエンスの視線を一点に集中させ、コンサート会場さながらの存在感を見せつける。かと思いきや、次の瞬間に場内の照明が落ち、数秒の暗闇がオーディエンスの視界を包みこんだ。そして、再び明かりが灯ったときには、Hikaru、Wakanaもステージ中央で立ち構えており、ピアノの伴奏と共に3人のコーラスが武道館に集まるファンの耳へ送られる。そのまま次曲の『believe』へと進展し、ステージバックを覆っていた黒幕が効果音と同時に下ろされた。背後から目に飛び込んできた場景は、Kalafinaの楽曲を演奏する楽団たち。彼らの生演奏に合わせ、3人の歌声が武道館中に鳴り響いた。

MCではKeikoからの「ようこそKalafina Worldへ」のひと言と同時に、3人が胸元に片手を添えて、ひざを折ってかしずく。その光景はまるで演者の挨拶を想像させるようだった。その姿を見ると、会場に集まったオーディエンスを導いてくれるかのような雰囲気を感じさせる。そう、今回のKalafinaライブのテーマは“心の旅”。彼女たちが織り成す歌声で、観客たちの心を響かせることを目標としていた。「自分たちの歌がお客様の心に残って、皆様が自身の心と向き合う時間になってほしい」という願いが、3人の立ち居振る舞いから伝わってくる。そして、ここからKalafinaの世界観が描かれていった。

続いて『storia』へ移り、リズミカルなサウンドにのせて3人がそれぞれの歌声を躍らせる。それに合わせて、3人も左右にステップを踏み、両手を広げ、観客を惹き込むかのようなダンスで圧倒させた。歌い終わったかと思ったら、荘厳さを連想させる『花束』へと進展する。ここで注目したいのが彼女たちの表情だ。まるで何かに問いかけるかのような面持ちで、観客たちへ美声を響かせる。途中、嘆きをイメージするかのような顔ばせに、思わず感情移入してしまった。類まれなる演出から抱く感情は人それぞれ。けれども、楽しさを期待する興奮と感動でオーディエンスの心を射止めたことは言うまでもない。

豪華絢爛なモダンテイストの和装から一転、白ワンピースをイメージした衣装へチェンジした3人は『君の銀の庭』を繰り出した。ここからは彼女たちの視線にも着目したい。これまで“響かせる”を前面に出してきた歌声が、聞いてくれる観客の耳へ“届ける”声へとシフトしていった。ステージから客席を見渡す3人は、遥か遠くを見ているかのような感覚を覚えさせる。それは目の前の人だけでなく、会場へ来てくれたすべての人へ歌声を届けたいという気持ちの表れのように感じた。

Kalafinaのライブは歌だけでなくパフォーマンスにも目を引かれる。『胸の行方』ではKeikoの独唱からはじまり、WakanaとHikaruが彼女の主旋律をサイドからサポート。3人の息の合ったアンサンブルと爽快な歌声のハーモニーに、心をときめかせたファンもいたかもしれない。サビや間奏で演じたなびかせるようなハンドパフォーマンスから、目の前で描画しているかのような錯覚を起こした。

「それぞれの楽曲にはストーリーがあるんです」 MC中に語ったKeikoの言葉に思わず心を動かされてしまう。Kalafinaは自分たちのライブを“音楽の旅”と呼んでいた。3人がステージに立って歌をうたって、どうやってファンに響かせるのか。“音楽がお客様の心まで届いてほしい”という想いで展開していく。オーディエンスによっては立って聞いたり、座って聞いたり、それぞれの楽しみ方で彼女たちの歌声を堪能していた。その中で変わらなかったことは、最後までステージから客席へ伝えようとする彼女たちの素顔。彼女たちの歌に対する気概が、客席側からいても感じることができた。

終盤では前半の幻想的な音色とは打って変わり、爽快なアッパーチューンの音源に力強い歌声で武道館を激震させる。特に注目したいポイントは、3人が曲中にステージサイドまで行き、観客の近くで歌い、手を振るなど、交流を図るシーンだ。オーディエンスと一緒にライブを作り、盛り上げ、一体感を得ようとする心持ち。会場全員でサビをシンガロングするワンシーン。自分たちの歌で会いに来てくれた人たちと同じ時間を共有し、大盛り上がりを見せてくれた。誰よりも相手のことを考えてステージに立つその姿に、多くのファンが心を惹かれたのではないだろうか。

そんな驚きと感動を届けてくれたKalafinaのメンバーにインタビューを敢行した。

――あらためて本日のステージの見どころをお聞きしてもよろしいでしょうか?

Hikaru これまでいろいろな楽曲を歌わせていただきましたが、どれも自分たちの声の特徴を意識してきました。それぞれに持ち味の出る楽曲をピックアップして、各パートで2人の引き立てた演出をしようと思いました。お客様がパッと見ただけで分かるようなパフォーマンスで盛り上がって、心にグッとくるような演出になっていたら嬉しいです。

――もし、アリーナツアーを迎えた今の状況を、デビュー当時の自分たちに話すとしたら何と言いますか?

Wakana 「まだまだ私たちは歌い続けることができるんだよ」と伝えたいですね。実は武道館公演の前に行った神戸ワールド記念ホール公演は、8年前にKalafinaが初めてステージに立った場所なんです。そして今回、去年のワンマンライブで立った日本武道館のステージに戻ってくることができました。

――神戸と武道館で凱旋ライブを2回開催するようなイメージですね。

Wakana そうですね。武道館は初めて訪れたと思える場所でもあります。ですので、新しい旅をこの場所からスタートするような気持ちになれました。ここまでのライブを通して、意味のある旅になったと思っています。

――最後に、日本武道館のステージから眺めた光景はいかがでしたか?

Keiko 凄くお客様との距離が近く感じました。1年前に見た景色とはまた違う距離感だったんです。リハーサルのときから3人で話していたのですけれど、お客様がライブで一体感を持てると思いました。昨日のアンケートでも「ライブハウスで見ているような近さだった」と答えていただいた方が多かったんです。“お客様の近くへ行きたい”という私たちの想いが届いたことに喜びを感じました。

音楽の聖地である日本武道館に再び立つことができたKalafina。自分たちが楽しむことではなく、ライブに来てくれたファンを楽しませる圧巻の展開を繰り出した。楽曲にストーリー性を持たせ、聞く人が何かを感じ、それぞれの考えを持って楽しむ。そんなファンの笑顔を作るために歌を届ける彼女たちだからこそ、観客の心に響かせるステージを見せることができたのではないだろうか。想いを歌声にのせて相手に伝えることができる3人のヴォーカリスト。それがKalafinaの魅力なのだと実感した公演だった。

「Kalafina Arena LIVE 2016」セットリスト

M-01 アレルヤ
M-02 believe
M-03 storia
M-04 花束
M-05 君の銀の庭
M-06 胸の行方
M-07 ring your bell
M-08 夏の朝
M-09 追憶
M-10 red moon
M-11 Magia[quattro]
M-12 to the beginning
M-13 blaze
M-14 destination unknown
M-15 identify
M-16 signal
M-17 音楽
M-18 into the world
【ENCORE】
M-19 overtrue ~in your eyes
M-20 One Light
M-21 ひかりふる
M-22 未来
【W-ENCORE】
M-24 sprinter

photo
(1~4枚目)=上飯坂 一
(5枚目) =野島 亮佑