六本木ヒルズ展望台・東京シティビュー(森タワー52F展望フロア内)では、9月24日から11月13日までの期間限定で『大都市に迫る 空想脅威展』が開催されている。この展覧会は、東京の過去・現在・未来を見つめる「Tokyo City View Lounge」の特別企画であり、空想特撮映像(怪獣映画)の中で描かれる「大都市」の姿をいくつかのテーマごとに切り分けて紹介。製作・企画を行った森ビルが誇る精密な都市模型(1/1000スケール)を存分に用いて、怪獣映画における醍醐味のひとつである「巨大怪獣が都市を蹂躙するスペクタクル」の世界を会場内に再現し、東京という大都市を通常と異なる角度から見ることが試みられている。

23日の内覧会では、森ビル・メディア企画部の矢部俊男氏によるギャラリートークが行なわれた。怪獣映画といえば、この夏12年ぶりの新作が作られて日本中を巻き込む大ヒット作となった『シン・ゴジラ』が一番に思い浮かぶが、この「空想脅威展」は『シン・ゴジラ』が公開される以前から、すでに構想されていたという。

本企画では、KADOKAWA(ガメラシリーズ)、円谷プロダクション(ウルトラマンシリーズ)、東映(仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズなど)、ダイナミックプロダクション(デビルマン)の協力を得て、日本特撮・怪獣映画の歴史や、時代とともに移り変わる作品の方向性などを詳細に解説。1954年に公開された『ゴジラ』(東宝)から始まった「怪獣映画」の変遷を知ることができる。1960年代に入り、東宝の怪獣対決路線(キングコング対ゴジラ、モスラ対ゴジラなど)の好評を受けて邦画各社でもこぞって怪獣映画を制作した時期があったが、大映が1965年に製作・公開した『大怪獣ガメラ』はまさにそのような怪獣人気を当て込んで作られた作品だった。

ゴジラが東京を蹂躙したのと同じく、ガメラもまた北極の氷の中から東京へ飛来し、東京のシンボルというべき東京タワーほか、数々のビルを壊して人類に脅威をもたらした。『空想脅威展』ではこの『ガメラ』シリーズを大フィーチャーして、入口付近には1995年公開の「平成ガメラ」第1作『ガメラ 大怪獣空中決戦』の名シーンを再現した「折れた東京タワーに巣を作るギャオス」のジオラマを展示。うれしいことに、この催しではすべての展示物が写真撮影OKで、来場者は自由に大怪獣や都市のミニチュアを撮ることができる。

最初のフロアでは、森ビルが独自の製造法で造り上げた精密な1/1000スケールの都市模型が目をひく。これは通常、森ビルが行政関係者に向けて「東京の未来図」をプレゼンテーションするために使われる模型だが、本企画に際して地区ごとに切り離した「塹壕(ざんごう)」型の展示が試みられた。これは『ガメラ 大怪獣空中決戦』などで特技監督を務めた樋口真嗣氏のアイデアで、子どもたちの目線に合わせた高さに模型を置くことで「自分が巨大怪獣になったような感覚」になってほしいという狙いがあったという。

地面の高低差まで実物どおり再現された緻密そのものの都市模型は、来たる2020年の東京オリンピックに使用される予定の「新国立競技場」なども完成した状態で置かれていたりするので、ここで「未来の東京」の姿をいち早く確認してみるのも一興かもしれない。今回の展示では一切姿が見られない「ゴジラ」だが、新宿・歌舞伎町のTOHOシネマズ新宿にある「ゴジラヘッド」として例外的にその姿を造形物で観ることができるのも、怪獣ファン向けの密かな楽しみといえるだろう。

壁面パネルでは、大都市を破壊した歴代怪獣映画の変遷についての他に、『月光仮面』(宣弘社/1958年)や『仮面ライダー』(東映/1971年)などでヒーローを脅かした「悪の軍団」の変遷についても詳細な解説が行なわれている。戦後の混乱期を経た高度成長時代に人々の新たな娯楽として登場したテレビの世界では、時代の移り変わりとともにさまざまなかたちの"悪"が誕生し、それに対抗するヒーローの在り方も柔軟に変化していったことがわかる。

奥へ進むと、昭和と平成、2体のガメラがお出迎え。ここは絶好の記念撮影スポットとなるに違いない。この「ガメラ」フロアでは、昭和、平成のガメラシリーズ全作品の予告編上映や、歴代作品のポスター、画コンテ、デザイン画といった貴重な資料が展示されている。同フロアでは「緊急シミュレーション・最終防衛線2016」と題し、映画『ガメラ2 レギオン襲来』に登場した宇宙大群獣レギオンを相手に「もし劇中でガメラが出現せず、レギオンを人類で撃退する事態になったら」と想定して、Google Earthの全面協力を得た詳細なシミュレーション映像を上映。森ビルとKADOKAWAで独自に考案したというリアリズムを重んじた戦略ストーリーが楽しめる。

子どもたちが「空想脅威」の世界を体験できるコーナーも設けられている。東京市街地のミニチュアセットと背景、そして奥に設置されたカメラを使って、自分が巨大な怪獣となって都市を襲っているというユニークなビジュアルが容易に再現できる。ここでは、子どもたちだけでなく大人も童心に戻って、凶暴な巨大怪獣になりきってほしいところだ。

次は、円谷プロと雑誌『東京人』、そしてGoogleの協力による、「怪獣出現地」の案内図をご紹介しよう。古き良き昭和の東京がフィルムに残されている『ウルトラマン』(1966年)では、実在の場所に怪獣が現れるケースが多かった。横浜にゲスラ、晴海にガヴァドンが出現し、旧国立競技場ではアボラスとバニラの2大怪獣が激戦を繰り広げた。詳細な解説パネルとGoogle Earthによる地図が連動して、ウルトラ怪獣たちのユニークな個性と、バラエティに富んだ活躍の場所を知ることができる。

さらに足を進めると、ふたたび東京の都市模型をメインとしたフロアが登場。ここでは森ビルの都市模型本来の姿というべき「パノラマ的展示」となり、奥のスクリーンには、漫画家・永井豪の代表作『デビルマン』(1972年)そしてその前身となった『魔王ダンテ』(1971年)の一場面が映し出されている。横のスクリーンでは、2003年に六本木ヒルズのオープニングイベント「世界都市展」で公開された映像作品『東京スキャナー』が上映。世界に名だたる映画監督・押井守氏が監修を務めた『東京スキャナー』は、ドローンを使ったハイビジョン空撮映像の先駆的作品で、「神の視点から東京を見つめる」というコンセプトで作られている。『デビルマン』の悪魔王ゼノンは、東京全体を覆い尽くすほどの巨大な姿を全人類に現し、悪魔・デーモン族の人類襲撃を宣言した。コミック史上屈指のトラウマシーンというべきこの一場面が、都市模型とスクリーンによって見事に立体再現された。沿岸部の模型をよく見ると、最近いろいろな意味で話題となっている豊洲市場(予定地)付近にガメラが上陸しているのがわかる。

出口近くには、『ガメラ2 レギオン襲来』で観客を恐怖のどん底に陥れた「実物大」のソルジャーレギオンと、『ガメラ3 邪神(イリス)覚醒』でガメラを苦しめた怪獣イリス、そしてギャオスの飛行形態ミニチュアが展示され、お客様をお見送り。『シン・ゴジラ』のヒットによってゴジラにふたたび注目が集まる中、ゴジラばかりが怪獣じゃないとばかりに『ガメラ』を猛烈プッシュしたこの『空想脅威展』は、「大都市」と「怪獣」という切っても切れない関係に改めてスポットを当てた好企画。熱心な怪獣ファンからファミリー層まで、大勢の人たちに足を運んでいただきたい。

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