東京都心から電車でわずか1時間の神奈川県鎌倉市は、「思い立ったらすぐ行ける」観光地として人気が高い。市内には、歴史ある寺社や史跡のほか、周囲を海と山に囲まれた立地から豊かな自然も残されており、都会の喧噪(けんそう)を離れ、"癒やし"を求めて訪れる人も多い。

鎌倉駅東口改札を出て小町通り商店街へ。入口には大きな鳥居が立っている

今回紹介するのは、鎌倉駅の周辺を2~3時間で歩く散歩モデルコース。短時間の散歩ながら、鎌倉ならではのグルメ、歴史、自然など"古都鎌倉"の情緒を十分に味わうことができる、忙しい人にもオススメのコースだ。

新しい「鎌倉丼」登場!

鎌倉駅に到着したら、まずはランチを食べに行こう。東口改札を出たら左手に見える「小町通り商店街」入口に立つ大きな鳥居をくぐり、創作そばと懐石料理の店「鎌倉 峰本 小町通り店」を目指す。

同店で食べてみたいのが「鎌倉丼」(税別1,300円)という丼料理だ。すっかり鎌倉や湘南の名物となった「しらす丼」と比べると知名度が低いが、鎌倉のいくつかの店で提供されているメニューである。

「鎌倉丼」はカツ丼のカツの代わりにエビを使ったような料理だ(税別1,300円)

江戸時代、鎌倉沖で獲れるエビ「鎌倉エビ」は、「伊勢エビ」と並ぶブランドだったが、鎌倉エビの漁獲量がめっきり減り、伊勢エビだけが名前として残った。この鎌倉エビに由来して、エビを使った鎌倉丼という丼物が、いつの頃にか誕生したそうだ。鎌倉丼には明確なレシピや定義はなく、店によって、使うエビの種類や調理方法、味付けもさまざま。

峰本の鎌倉丼は、卵でとじた衣に包まれたエビが3本のった、食べ応えのある丼で本当においしい。ちなみに、ひとくち食べると口の中にスパイシーな風味が広がるのは山椒だ。エビの衣やごはんに染みこんだつゆは、さすが、そばの専門店だけのことはあると思う味だが、小町通り店店長の柿島祐一さんによれば、"そばつゆ"だけではなく、もうひとつ、店に伝わる"ある料理"に使う秘伝のつゆを使って風味を出しているとのこと。企業秘密だから、ここに書けないのが残念だが、やはり美味しいものには何か隠し味があるものだ。

「義経牛たん御膳」(税別2,100円)もオススメしたい

また同店では、2016年夏より販売を始めた「牛タン」も食べておきたい。鎌倉と関わりがある土地の、さまざまな"うまいもの"を紹介したいとの思いから考案したのが、源頼朝の弟・義経が亡くなった地である奥州名物の牛タンをメインに、五穀米やそば、茶碗蒸しなどが付いたボリュームたっぷりの定食「義経牛たん御膳」(税別2,100円)だ。

かなり肉厚の牛タンを強火の炭火でサッと焼き上げ、旨味をしっかり閉じ込めており、かめばかむほど肉汁があふれ出す。単品での注文も可能なので、夜はこれをつまみにすれば、おいしいお酒が飲めること間違いないだろう。

●information
鎌倉 峰本 小町通り店
住所: 神奈川県鎌倉市小町1-7-1
営業時間: 11:00~L.O.21:00(日祝は、10:30~)
定休日: 年中無休
アクセス: 鎌倉駅東口徒歩2分

初秋の萩の名所を訪ねて

ランチを堪能したら、小町通りから路地を抜け、1本東側のバス通りに出よう。この道は「若宮大路」と呼ばれる鎌倉の市街地を南北に貫くメインストリートだ。現在の鎌倉の街の原型をつくったのは源頼朝だが、頼朝は鎌倉の街造りを進めるにあたり、平安京(京都)を参考にしたとされ、若宮大路は平安京のメインストリート「朱雀大路」に匹敵する。

鶴岡八幡宮の正式な参道「段葛」

若宮大路の中央には、一段高く盛り土された歩道がある。この道は「段葛(だんかずら)」と呼ばれる鶴岡八幡宮の正式な参道で、歩いていると、正面に鶴岡八幡宮の三の鳥居が次第に大きく見えてくる。

「横大路」を行く観光人力車

鶴岡八幡宮を参拝したら、三の鳥居に向かって右手の方へ歩いて行こう。この道は「横大路」と呼ばれている。こうした何気ない道にも、歴史的呼び名が残っているのは、古都鎌倉らしい。横大路を歩くこと150mほどで、正面に見えてくるのが、鎌倉で"萩寺"と呼ばれる宝戒寺(ほうかいじ)だ。初秋の9月中旬から下旬にかけて、美しい石畳が敷かれた参道や、境内いっぱいに萩の花が咲く。しかも、そのほとんどが珍しい白萩で、同じ頃、白い曼珠沙華の花も咲く。

9月中旬から下旬にかけて、宝戒寺境内は白萩でいっぱいになる

白萩と同じ頃に咲く白い曼珠沙華

続いては、かつて武家屋敷が並んでいただろう小町大路から「幕府跡」を巡ろう。その後は、情緒ある蔵カフェで一息するのが、いい散歩のお手本だ。