データは売上を産み出す源泉として、今やあらゆる企業活動の原動力となりつつある。この新たなトレンドを踏まえ、プライバシーやデータセキュリティの問題に配慮しつつ、いかに早く顧客インサイトを得るかが、マーケターが取り組むべき課題となっている。

前編では、マーケティングでデータドリブンアプローチが求められる背景や、これからマーケティング部門が取り組む上での留意点について説明した。後編では、データドリブンマーケティングの実践で得られる効果と成功のためにするべきことについて、解説することにしたい。

データドリブンマーケティングで得られる効果

データはマーケティング部門にとって大切な資産である。マーケティング専用のデータ分析基盤を構築し、企業はデータドリブンマーケティングからどのような効果を得られるのだろうか。

変化が激しく、競争の激しい市場環境では、製品・サービスそのものではなく、製品・サービスを通して提供する優れた顧客体験こそが、差別化の源泉という意見が聞かれる。

優れた顧客体験を提供するために不可欠なドライバーは、Time to Insight(顧客インサイトを得るまでのスピード)を短縮することと筆者は考える。なぜならば、最新のテクノロジーを導入すれば、事前調査、必要なデータの明確化と抽出、データの分析にこれまでかけていた時間が短くなる。その分、意思決定の機会と売上に転換するためのテストと学習にかける時間が増加し、顧客の好みに対するアクションの精度を高めることが可能になるからだ。

つまり、データドリブン・マーケティングの最大の利点は「学習機会の増加」にあり、意思決定のPDCAサイクルを早く回せば回すほど、学習効果は大きくなる。だから、顧客インサイトを通して顧客体験の最適化を行うことができるよう、ライフサイクル全体をサポートするデータ基盤を作らなくてはならない。

言い換えれば、データ分析を単なる可視化のためのものと考えるのではなく、データ分析は最適な顧客体験を提供するための学習に役立つと理解する必要があるわけだ。

データドリブンマーケティングを成功させるための秘訣とは?

前編でも説明した通り、データドリブン・マーケティングとは、パーソナライズした快適な顧客体験を提供するためのアプローチである。データドリブン・マーケティングは、顧客インサイトを得るためにどのようなデータが必要かを検討するところから始まる。

では、顧客インサイトをどのように顧客体験の最適化、すなわち顧客の好みの継続的学習に役立てるべきか。その秘訣は、科学者のようにいくつかの実験を通して仮説検証のプロセスを繰り返すことにある。

成果を評価するための指標を決める

四半期、年度といった比較的長い期間の成果を評価する財務分析とは異なり、マーケティングではもっと頻繁に評価指標を確認しなければならない。

例えば、実施期間の決まっているキャンペーンでは、開始直後の反応が好調でも、中盤の中だるみの再活性化、終盤のラストスパートで必要になる施策が変わってくる。だから、期間中の顧客の反応をトラッキングし、必要に応じてテコ入れができるように、評価指標を設定しておく必要がある。

また、評価指標は、マーケティングチーム内の会議でのコミュニケーションでの共通言語にもなりうる。特に、大企業では複数のキャンペーンを同時に展開しているので、状況に応じて予算配分の見直しが必要になることもある。こうした場合に備え、関係者全員がデータを監視できるようにしておく必要がある。

顧客の反応についての仮説を立てる

パーソナライゼーションをあまり考えていないマーケターがついやってしまいがちなことが、万人受けを狙ったコンテンツや総花的な説明コンテンツを、特定のチャネルに限定して提供することだ。メールの一斉配信が代表例である。

データを分析して得られた顧客インサイトは、顧客がどのようなキーワードに、どのように反応するか、コンテンツの方向性を決めるために利用できる。例えば、データを分析した結果、ある顧客セグメントが特定の悩みを抱えている傾向を把握できたとする。その解決方法を紹介するコンテンツを用意し、その中に含める内容を決めることは仮説立案にほかならない。

仮説が正しいかどうかを検証する

顧客がどのように反応するかは、当然ながら実際にやってみないとわからない。だから、テストを行う。A/Bテストは、複数の選択肢を用意し、どれがより成果につながるかを判断するものであり、Webページやバナー広告のデザインやレイアウトの良否を判断する際によく利用されている。A/Bテストには、良案と判断する理由が不明という欠点の指摘があるが、理由を推測することも仮説検証の一部であるし、データではっきりと結果がわかるという利点がある。

豊富なコンテンツの準備が必要となるが、このやり方をコンテンツマーケティングに応用し、ブログ記事やメールマガジンのようなコンテンツの内容、伝えたいメッセージを顧客に選んでもらうのは有力な仮説検証方法となる。