現在、訪日外国人の増加に伴い、さまざまな企業で取り組みを進めている。その中でも、ヤマハでは2014年に次世代アナウンスシステムとして「おもてなしガイド」を開発し、現在では空港や路線バス、鉄道といった交通機関、商業施設、テーマパークなどの観光地、自治体などで実証実験を行っている。

ヤマハ 新規事業開発部 SoundUDグループ チーフプロデューサーの瀬戸優樹氏

「近年、国内外で自動翻訳のさまざまな技術が進んでいるが、公共施設や商業施設などのアナウンスや観光地におけるガイダンスなどの音声情報の多言語化は依然として難しいという課題がある。訪日外国人が困る状況やバリアフリー化が必要とされるケースを考えた時、会話をリアルタイムに自動翻訳するソリューションは開発が進んでいたが、一方で列車の遅延や飛行機のゲート変更、防災放送などの『アナウンス』への対応はなかなか進んでいなかった。というのも、自動翻訳機を使ってアナウンスを翻訳しようとしても、周囲の環境音の影響で正しく音声を認識できなかったり、そもそもアナウンスが流れてからでは翻訳が間に合わないという問題があったからだ。そこで、自動翻訳機を使用する会話ベースの技術を使わずに、アナウンスの翻訳情報を提供する技術があれば、こうした課題を解決できるのではないかと考え、取り組みをスタートさせた」と語るのはヤマハ 新規事業開発部 SoundUDグループ チーフプロデューサーの瀬戸優樹氏だ。

おもてなしガイドは、これまで自動翻訳機ではカバーしきれなかったアナウンスやガイダンスを対象としたサービスで、言語、聴力などの違いに関わらず、音情報へのアクセス権(知る権利)を守ることが可能。同システムはスピーカーから流れている音声を1~2秒、スマートフォンに聴かせるだけで、ユーザーが普段使っている言語の文字で、その内容が文字になって表示される。

左から日本語、英語、中国語、韓国

瀬戸氏は、おもてなしガイドの技術について「ヤマハが蓄積してきた複数の技術を組み合わせており、このために開発した技術もあれば、10年前に開発したものもある。アナウンスと一口に言っても、電車のアナウンス、空港のアナウンス、商業施設のアナウンスはそれぞれ放送設備が違うため、さまざまな技術を複合的に組み合わせなければ幅広く対応ができない。そこでわれわれが音響事業で培ったさまざまな技術を応用している」と説く。

おもてなしガイドの技術的な特徴は、対応言語数に制限はなく、正しい翻訳が可能であること、さらに音で情報通信を行うためインターネットなどが不要で圏外・機内モードでもアプリが使用できることだ。一般的なスピーカーなどの放送設備からでも音声通信ができるため導入・運用が容易かつ低コストであり、メーカーを問わない。音声通信には、フィンガープリントやエンベロープ、メロディ認識、音声認識など、ヤマハが培ったさまざまな技術が利用シーンに応じて複合的に使用されており、このうちのどれかを聞き取れば内容が表示される。

おもてなしガイドの実証実験の感触について同氏は「多くの企業や組織に協力いただいており、確実にその重要性は認知されてきていると感じている。また、技術的な改良も進み、イオンモールやJR東海などとの実験では、NICT(情報通信研究機構)が開発した音声認識技術を活用して、リアルタイムに行う肉声アナウンスの翻訳情報の提供にもトライしており、技術検証にもめどが付きつつある」という。

また、「単一の施設だけではなく、複数の施設と連携することにより、共同でアナウンスの多言語情報を提供するインフラを構築する取り組みも始めている。例えば、初の自治体との連携となる京都Sound UDプロジェクトでは、京都府、京都市、そしてさまざまな企業と協力し、おもてなしガイドの実験を行っている。鉄道やバスといった交通機関、商業施設、文化観光施設など、さまざまな場所でおもてなしガイドが利用できる。今後、全国におもてなしガイドを広めていく際のモデルケースとして位置づけており、業界を横断した取り組みを展開することでインフラ化の加速を図っている」と述べた。

さらに「空港や商業施設ではBGMにトリガー情報を組み込むことで、受信時にフリーWi-Fiの設定方法を表示している。これはアナウンスの翻訳情報以外を伝える取り組みで、以前にユーザーから要望があったものを実現化したものだ」とユーザーからのニーズの一例を紹介した。

一方、テーマパークなどでも興味深い実証実験を行っている。「キャラクターショーやパレードは日本語で行われるため、外国人客向けにおもてなしガイドを使い、翻訳情報を提供している。これまでにも同時翻訳のような取り組みはあったが、必ずしも字幕の内容や表示タイミングが正確ではなかったが、おもてなしガイドはズレが生じないようになっている」とキャラクターショーなどで活用が見込まれるシアターモードについて説明した。

キャラクターショーなどではガイダンスモードに切り替える