オートデスク主催で年に一度行われるイベント「Autodesk University Japan 2016」が、今年も9月8日に都内で開催された。

米オートデスク社 ワールドワイド・セールス・サービス担当上級副社長 スティーブ・ブラム氏

基調講演には、来日した米オートデスク社ワールドワイド・セールス・サービス担当上級副社長のスティーブ・ブラム氏が登壇。「The Future of Making Things ―創造の未来」と題し、同社が提供する技術やサービスを活用した、ものづくりの現場における最新の事例を紹介した。

ものづくりは「つながる」

ブラム氏によると、現在、ものづくりの現場は"コネクティッド"な世界に突入しているという。クラウドコンピューティングが代表的な例だが、「これまではつながっていなかった技術が様々なかたちで接続し、融合されることでコラボレーションが増え、いろいろな新しいビジネスが生まれている」と話す。そしてそうした現場は、大きく分けて"Make(つくる)"、"Design(デザインする)"、"Use(使う)"の3つの領域に分けることができるという。

"Make"の事例で代表的なのは、建築・建設現場における活用だ。そして「ビルを作ることと、製品を作ることはもはや同じだ」とブラム氏が紹介したのが、ConXtechという米国に拠点がある建築会社。この会社は3DCADを使って困難とされる水平溶接の作業スピードが30%向上し、1万平方フィート(約929平方メートル)もの敷地の建物を1日で作ることができるという。精度も1/1000という水準で可能だ。

ConXtechの事例

次に"Design"の領域では、小さなスタートアップの企業から老舗の大会社まで、ありとあらゆる活用がなされている。その一例が「Future Makers」というアイルランドのデザイン企業。この会社が英国のデザイン誌『dezeen』とオートデスクと共同で開発したのが「Fabulous Beasts」というゲームだ。ブロックのような模型をiPadなどのデジタルデバイスとBluetoothで接続し、デジタルと物理的な世界を融合させてプレーするという、リアリティとバーチャル体験を統合するユニークな試みで、アメリカのクラウドファンディングサイト「KICKSTARTER」において、1カ月で16万8,360ポンドの支援を集めた。

現実のブロックとデジタルデバイス上のデータが連動するゲーム「Fabulous Beasts」

フォード、エアバスなど大手企業の先進事例

一方、大企業ではアメリカの大手自動車メーカー・フォードがARのラボを立ち上げ、「FIVE (Ford Immersive Vehicle Environment)」というプロジェクトで、オートデスクのソフトウェアを活用し、バーチャル空間で自動車開発を行っている。ヘッドマウントディスプレイを身につけ、エンジニアリングの整合性の確認などのシミュレーションを行ったり、バーチャル空間で実物大のモデルで試験を行ったり、デザイン、エンジニア、マーケティングの各部門がリアルタイムでプロセスを共有し合い、従来よりも早いペースでの製品を可能にしているという。

昨今注目されているヘッドマウントディスプレイを活用し、シミュレーションや情報共有を行っている

2011年に航空機メーカー最大手のエアバス社が"2050年のビジョン"として発表した未来の航空機のデザインも、オートデスクのソフトウェアで設計されている。乗客の座席と乗務員のキッチンを隔てる"バイオニック パーテーション"は、生物の細胞構造や骨の成長過程を模したデザインを生成する独自アルゴリズムにより設計され、従来の工程よりもより強固な構造でありながら、45%にあたる約30キロの軽量化に成功し、CO2排出量の大幅な削減を実現できるとのことだ。

"バイオニック パーテーション"はキャビンアテンダントが腰掛けるシートも備えるパーツだが、独自アルゴリズムによる設計で軽量化と強度の確保に成功している

また、米・ボルチモアを本社とするスポーツ用品メーカーのUNDER ARMOUR社が2016年に創業20周年を記念して制作したスポーツシューズ「3D Architech」には、3Dプリンタで製造された軽量で安定性の高い靴底のクッションが採用されている。

クッション部分が3Dプリンタで作られたスニーカー「3D Architech」

この他にも、メディア・エンターテイメント世界においても多くの制作会社が同社のソフトウェアを採用。例えば映画『ザ・ウォーク』『スター・トレック イントゥ・ダークネス』などの製作で知られるアメリカのATOMIC FICTIONという映画プロダクションもその1つで「小さな会社だが、各拠点でクラウド上でレンダリングを行いコラボレーションをしている」と紹介した。

人工知能が車を設計

そして最後に"Use"の事例として紹介されたのが、「HackRod」というプロジェクトだ。人工知能によって自動車を設計するという試みで、車体に何十個ものセンサーを組み込んだ自動車で世界中のドライバーが試験走行を行って得られたデータをデザインツールに落とし込み、究極的な車種として作られた神経システムを搭載した自動車だという。

「HackRod」プロジェクト

ブラム氏は「人間がデザインしたものだが、人間の創造力だけではできないデザインだ。このような素晴らしい次世代の革新をすべて理解できる企業は世界中でもオートデスクしかない」と締めくくり、同社の技術がもたらす、ものづくりの現場の将来性の高さを聴衆に示した。