大塚家具がリユース事業で変えるものとは? 代表取締役社長の大塚久美子氏が語った

大塚家具は9月8日から、家具のリユース事業を本格的に始動。買い取り・下取りキャンペーンを全国で開始した。同事業について「日本のインテリア業界そのものに好影響を及ぼしたい」と記者の前で語ったのは、同社代表取締役社長の大塚久美子氏。その詳細と、同社が描く"家具業界の未来"を紹介する。

新体制後も「サービスは一貫」

2015年の社長交代が話題となり、同年7月には「幸せをレイアウトしよう。」をスローガンとする新たなブランドビジョンを発表した大塚家具。会員制を廃し顧客の間口を広げた新方針に関して、大塚氏は「ここ1、2年の間、『(現在の取り扱い商品は)高い価格帯なんですか、安い価格帯なんですか』と聞かれることが多くありました。しかし、私たちにとっての質の高い家具の定義は、"安心して人が使いつづけられる耐久消費財としてのクオリティーを備えている"ということです。高い安いという問題ではありません」と語った。

また、会員制を廃したことによるサービスへの影響についても、「実際には今もソフト面を大事にしています。当社では、店頭のスタッフが『インテリアコーディネーター』や『スリープアドバイザー』などの資格を平均して1人につき2つ以上持っています。住まいのプロフェッショナルであるスタッフが、家具をどう配置すれば本当に自分らしい暮らしができるか、ということをお客さまに提案する。これは創業以来一貫して行っていることです」と述べ、「暮らしのソリューションカンパニー」としての姿勢を強調した。

新体制後も、商品やサービスに対する考え方は創業時から一貫していると強調した

「新品以上の価値」を持つリユース家具

それでは、今回本格的に始動した「リユース事業」は、一体どのようなものなのだろうか。一般的に家具のリユースというと、キズや汚れなどがついた"難あり"の家具を安く販売する業態をイメージする人が多いかもしれない。あるいは、「アンティーク」や「ヴィンテージ」と呼ばれる域まで価値が高まった古い家具の販売もその部類だろう。

しかし大塚氏は、同社のリユース事業は「そのどちらでもない、新しいカテゴリーのもの」だという。

大塚家具が考える「質の高い家具」の定義は、前述の通り"耐久消費財としてのクオリティーを備えている"ことだ。その品質基準としては、
1. 耐久性と安全性
2. 倫理性
の2つが挙げられている。ソファを例にとると、子どもが上で跳ねても問題なく長期間の使用に耐える構造を持ち(耐久性)、有害な化学物質などが排除されており(安全性)、製造の過程で環境破壊や児童労働の使用などが行われていない(倫理性)ようなものが品質基準を満たしていることになる。

逆に言えば、この品質基準をクリアしていれば、価格の高低やその家具の出自は問わないというのが大塚家具の姿勢だ。もちろん、リユース品も例外ではない。同社のリユース品は、自社工房で職人の手によるクリーニングや修繕、加工が行われてから出荷される。そのため店頭に並ぶ商品は、大塚氏の言葉を借りれば「新品と同等か、経年による風格が出て新品以上の価値を持った」品質の高いものとなるのだ。

記者発表会の会場に展示されていた、リユース家具の修繕前(写真手前)と修繕後(写真奥)の比較

このほど都内で行われた記者発表会では、半分だけクリーニングと修繕・加工を施した革張りのアームチェアが披露された。念入りなクリーニングで汚れを落としきった上で、キズが目立ちやすい革の部分には専用の塗料を塗布し、退色とキズを補修したという。補修した部分は撥水(はっすい)性も復活するなど、筆者の目には新品とほとんど遜色ない仕上がりに映った。

手前のアームチェアに注目。向かって左半分が加工前、右半分が加工後となる

革の撥水性も復活

リユースで業界全体のパイを増やす

この"新しい"リユース事業が、消費者やインテリア業界にとってはどういった意味を持つのか。大塚氏はまず、同社の調査による「家具の買い替えとリユースに関する調査レポート」(n=1,000人)の結果を示した。

同調査によれば、「家具・インテリアを替えれば生活も変わる」と感じている人は約7割(69.6%)だが、「今ある家具・インテリアを買い替えたいのに替えられない」と感じている人も約半数の48.5%いる。さらにその理由を聞くと、「買い換えるお金がないから」(68.2%)、「処分するのがもったいない」(36.7%)の2つが上位となっている。

「今ある家具・インテリアを買い替えたいのに替えられない」と感じている人は48.5%

買い替えられない理由としては、「買い換えるお金がないから」(68.2%)、「処分するのがもったいない」(36.7%)が上位に

「予算」と、もったいないという「手放す際の抵抗感」。この2つの課題を解決するのが同社のリユース事業なのだという。大塚氏は、「大きな家具をゴミにすることには罪悪感がありますが、誰かが使い続けてくれるということであれば、手放す際の抵抗感を解消できます。また、製造にかかるコストは最初の持ち主が支払ってくれている形になりますので、低予算で良質な家具を市場に供給できます」とそのメリットを説いた。実際に同調査では、「今ある家具・インテリアを買い取ってもらえる制度があったら、新しい家具を買いますか」という質問に63.5%が「はい」と回答している。

「今ある家具・インテリアを買い取ってもらえる制度があったら、新しい家具を買いますか」には63.5%が「はい」と回答

「良質な家具を買ってからそれを手放すまで、品質の劣化による買い替えでは仮に15年かかるとしますと、15年に1回しか家具を買わないことになります。しかしリユースの仕組みがあれば、(結婚や転居など)生活が変わるタイミングで、生活の変化に合わせた家具の買い替えが、例えば5年に1回できるようになります。単純に考えれば、家具業界全体のパイが3倍になるわけです。

現在、住宅着工が少なくなってきており、市場も縮むと言われていますけれども、こうしたリユースの循環によって、市場の拡大が現実のものとなっていくのではと思っています」

大塚氏は、リユース事業による大塚家具の売り上げ高の目標は「1年後に全体売り上げの1%」としながらも、良質な家具の買い替えのたやすさや市場の拡大など、消費者や業界全体に今までになかったメリットを与える可能性があることを説明。「新しい価値を作るサービス」であることを強調した。

このほかにも、工房での職人の雇用により、その技術を後世に継承するという恩恵もあるとのことだ。実際に、同社の工房では若い世代も働き、日本の家具職人が持つ高い技術を学んでいるという。

価格はおおむね半値以下に

さて、「価格の高低にはこだわらない」という大塚家具だが、リユース品がどれだけ安く手に入るかは気になるところ。聞けば、新品の販売価格からの下げ幅は、おおむね半値以下が相場だそうだ。

例えば、同社のソファ「ピーク」は新品での販売価格13万9,320円に対して、リユース品は5万9,800円。10万円を超えると購入を諦めるが、5万円台ならなんとか手が届く、という人は少なくないのではないだろうか。

リユース品のソファ「ピーク」(5万9,800円)。同タイプを新品で購入すると13万9,320円

リユース品のソファ「L/S セレブ-01」(ヘッドレスト付き・27万円)、新品販売価格は68万4,720円

イタリア「カッシーナ」のダイニング7点セット・27万円(大塚家具での新品販売はなし)

大塚家具はこのリユース事業を推進するため、10月16日まで全国で「買い取り・下取りキャンペーン」を行っている。期間中は買い取り・下取りともに金額を1.5倍に増額するほか、引き取り時の訪問作業料も無料。査定金額がつかない場合も、買い替えによる購入額が10万円以上になる場合は一律1万円で下取りを行い、10万円に満たない場合も、購入品と同種同用途の不要家具を無料で引き取るという。

また、10月15日からは、リユース品の販売を行う新たな大型拠点も展開する。大阪府に「IDS OTSUKA アウトレット&リユース 大阪南港」をオープンするほか、同時に神奈川県横浜市・鶴見の店舗をリユース品販売店に業態転換するとのことだ。

使用者を交代しながら「いい家具を長く使い継ぐ」という大塚家具のリユース事業。将来的には「自動車販売市場における中古車市場のように、家具販売市場全体の4割を占める姿を描いている」と大塚氏は語る。消費者にとっても事業者にとっても、大きな可能性を秘めていそうだ。

※記事中の情報は2016年9月取材時のもの。価格はいずれも税込