登校しぶりの原因は?

学校には行くものの、朝ぐずったり、体調不良を訴えたりする、いわゆる「登校しぶり」。夏休み明けにも増えるというが、なぜ子どもたちは学校に行きたくなくなってしまうのか。

約40年にわたり、病院の心理室やグループ相談室で子育てや不登校の相談を受けてきた心理カウンセラーの内田良子先生に話を聞いた。

登校できても教室にいられない

文部科学省の発表によると、2014年度の小学生の不登校児は約2万6,000人。ここでいう「不登校」とは、病気や経済的な理由以外で、年間30日以上欠席した人を指す。しかし、不登校の定義には当てはまらないものの、「学校へ行きたくない」と泣いたり、体調が悪くなったりして、元気に学校に通えていない子は少なくない。

「登校しぶりの子は学校には行っているので、具体的な人数は見えてきません。でも、少なく見積もっても不登校となっている子どもの数の5~6倍はいると思います」と内田先生。登校しぶりをする子は、登校しても教室にいられず、保健室に行く場合も多い。生徒数の多いところでは、30~40人の子どもが保健室にやってくる学校もあるという。

登校しぶりや不登校が増えるのは、新年度が始まって他の子が学校に慣れたころ。特にクラス替えや担任が変わる学年に多いという。あとは連休明けや夏休み明け、お正月休み明け。実はこれらは、自殺が増える時期とも一致している。

内閣府による18歳までの過去42年間の日別自殺者数のグラフを見ると、9月1日や4月上旬など、学校の長期休み明け直後に、自殺が増える傾向があることがわかる。登校しぶりや不登校が直接的に自殺につながるわけではないが、「ここで休むことができた子は生きています。休むことができなかった子が、自殺に至ってしまっているのです」と内田先生は指摘する。

平成26年度自殺対策白書のデータを元にグラフ化したもの

学校内で子どもが感じるストレスはさまざま

「子どもをとりまく学校環境は、昔より厳しくなっています。登校しぶりや不登校の子が出やすいのも、環境要因を考えれば必然かもしれません」と内田先生は指摘する。

理由の1つは、団塊の世代の教員が退職し、若い世代の教員が多くなっていること。若い教員は学級運営の経験が浅く、クラスをうまくまとめられないことも少なくない。最近は、小学1年生から学級崩壊しているクラスも珍しくなく、毎年クラス替えをする小学校も増えている。子どもたちは進級のたびに新たな環境や人間関係にさらされ、学校や教室が落ち着ける場所ではないと感じる子も増えている。

その他の理由として、小学校低学年では「担任の先生が怖い」という理由で、登校しぶりをする子も多いという。「自分が怒られなくても、"誰かが怒られているところを見るのが怖い"と言う子は多い。むしろ、"先生が怖い"と心身症状が出る子は、本人はまじめで怒られないような子がほとんど。虐待と同じで、見ている人も傷つくんです」。言ってみれば、会社で上司が朝から晩まで誰かを怒鳴っていたら、ストレスになるのと同じ。学校にいる間、ずっと緊張を強いられてしまうのだ。

また、先生を中心にクラスがまとまっていないと、いじめも起きやすい。「今の小学校では、いじめが日常となっているところが多いと感じています。幼稚園や保育園でも、いじめの相談を受けるようになりました」と内田先生。低学年のいじめは、単純な「仲間はずれ」が多いという。

勉強ができすぎて、登校を嫌がる子どもも

意外にも勉強のよくできる子が、登校しぶりになることもある。最近は、幼児のうちから塾に通ったり、幼稚園で早期教育を受けたりしている子も多い。それが小学校に入学すると、また読み書きを一から習う。すでにできる子にとっては勉強のレベルダウンであり、さらにしかられる子を見て心が痛み、「学校がつまらない」と感じる原因になることもある。

逆に、クラスにできる子が多いと、初めて習う子は苦労する。「こんなこともわからないの? 」という友だちの何気ないひと言で自信をなくし、学校に行きたくなくなる子もいるとのことだ。

学校の様子を丁寧に聞いて

基本的に、登校しぶりの原因は学校にある。「"ママと離れるのが嫌"と言う子もいますが、それは理由のための理由。母子分離の問題というより、行った先、つまり学校が子どもの安心と安全を守ってくれる居場所ではないということです」と内田先生は分析する。

不登校・登校しぶりの原因を知るには、日頃から子どもの話によく耳を傾け、何でも話せる親子関係になっておくことが大切だという。

家事や仕事に追われ、何かと慌ただしい日常の中、子どもとコミュニケーション不足になってはいないだろうか。今一度振り返ってみてほしい。

※写真と本文は関係ありません

内田良子プロフィール

心理カウンセラー。子ども相談室「モモの部屋」主宰。40年以上にわたり、東京都内の保育所や保健福祉センター、民間病院の心理室などで、子育てや不登校の悩み相談を受けてきた。著書に「登園しぶり 登校しぶり」「子育てはなぞとき」等。