CA Tech Kidsは、同社が運営する小学生のためのプログラミングスクール「Tech Kids School」に通う小学生プログラマーと卒業生たちが、プログラミングの楽しさを紹介するという「キッズプログラマーが描く未来」をApple 銀座にて開催した。

同イベントは、Tech Kids Schoolに通う小学生プログラマーと卒業生が、自身の開発によるアプリケーションを紹介しつつ、アプリ開発のきっかけやアイディアの源、プログラミングの楽しさについて語り合うというもの。

CA Tech Kidsの代表・上野朝大氏

冒頭、CA Tech Kidsの代表である上野朝大氏から、同社の取り組みとプログラミング教育のついての現状報告がなされた。現在、プログラミング教育が必修となっているのは、今年から始まったフィンランドを含め、ロシア、インドなど、計5カ国。一部で始まっているのが、イタリア、スウェーデンなど4カ国。導入を検討している、決まっているのが日本を含む4カ国とのことだ。何故、プログラミング教育が必要なのかというと、産業構造と社会状況の変化を挙げたところで、身の回りの殆どのものがコンピュータで制御されている時代に突入しているからだと説明した。あらゆる産業で成長のためにテクノロジーの活用が必須であると続け、技術革新によるさまざまな職業の消滅の可能性を指摘し、コンピュータやアプリを「使う」だけでなく、自らそれを「創り出す」力が必要であると説いた。

2年生男子のプレゼン。「勇者の冒険」と題したゲームアプリを紹介してくれた

上野氏のイントロダクションのち、小学生プログラマーのプレゼンに突入。最初に登壇したのは2年生の男の子。「あなたの人生に冒険は足りていますか?」という問いかけのち、バトル、アクションなど、さまざまなゲーム要素を取り入れた「勇者の冒険」と題したアプリを紹介した。軽いジョークを織り交ぜつつ、恙無くプレゼンを終えた。プログラムはObjective-Cで書かれたようだ。

6年生男子のプレゼン。「モグラたたき」をモチーフにしたアプリを紹介。

続いて6年生の男の子が登場。「お母さんにWiiを買ってと言ったら、ゲームが欲しいなら自分で作ればいいじゃない!と言われた」ことがプログラミングを学ぶきっかけとなったという。当時、彼は2年生だったとのことだ。「モグラたたき」をモチーフにしたアプリは、ランキング表示にこだわり、ソースコードは300行に亘るものとなった。現在はバージョン5まで進化し、Swiftでプログラムを書いている。プログラミングの学習は、誰にでも遊べるゲームとして結実し、友人、家族や親戚縁者の間でも好評だとのこと。また、統計学の実習にも役立てているという(小学校6年生!)。さらに、夏休みの宿題を強制的に選ぶ籤を作ってことで、効率よく課題をこなせるようになったと伝えた。

中学1年生男子のプレゼン。「アプリ甲子園2015」で優勝、また「U22プログラミングコンテスト2015」で経済産業大臣賞に輝いた「allergy~世界中のアレルギーの人のためのアプリ~」を紹介

キッズプログラマー、最後にプレゼンを行ったのは、Tech Kids Schoolを卒業した中学1年生の男の子。Swiftを使って書いた「allergy~世界中のアレルギーの人のためのアプリ~」というアプリで、「アプリ甲子園2015」で優勝、また「U22プログラミングコンテスト2015」で経済産業大臣賞に輝いている。これは世界中の食物アレルギーに悩む人々のために開発したというもので、作った本人も卵アレルギーだと明かす。旅先で外食する際、間違ってアレルギンを食べてしまうのを避けるため、正確な翻訳で食べられないものを伝えられるのが特徴のこのアプリ、視覚的なデザインを取り入れたことで、知識のない人でも食物アレルギーの人を補助、支援できるという。世界の8大アレルゲンに、蕎麦を足した、9つのアレルゲンを選択でき、9言語に対応している。翻訳サービスを使っても、結局、当該語が運用できなければ、正しく翻訳されているのかどうかも分からないことから、開発に着手することになったとのことだが、食物アレルギーに悩む人にとっては、事情を正確に伝えられないのは命に関わる問題なのだと切実に訴えた。今後は全体的なデザインに変更を施し、さらに対応言語を増やしていくとのことだ。

「モンスターストライク」の開発に携わるエンジニア・角龍徳氏

キッズたちのプレゼンが終わると、特別ゲストである「モンスターストライク」の開発に携わるエンジニア・角龍徳氏が登場。自己紹介のち、エンジニアの仕事がどのようなものなのか、プログラミングとは何なのか、エンジニアになるには何をするべきなのか、といったことを説き、ともあれ、学校の勉強は大事、適度に学び、適度に学ぶのが肝要だという考えを示した。また、ゲームが好きと言った時、それは大抵、ゲームで遊ぶのが好きということを指すのだろうが、エンジニアになるには、ゲームを作るのが好き、でなければならないと明言し、さらに、大事なのは「情熱」を忘れないこと、「行動」することであると力説した。

パネルディスカッションでは、大人が舌を巻くような発言も

角氏のプレゼンの後、パネルディスカッションへと突入。司会進行を務めたTech Kidsの上野氏はまず、角氏へ子供たちのプレゼンを見ての感想を聞いた。角氏は、スライドが多くて内容も充実していたことに感銘を受けたという。充実の理由は、これまでもコードを沢山書いてきたからことと関係しているのだろうなと所見を述べた。

最初にプログラミングを始めたのかは何時かという質問に対しての子供たち返答は、一番遅い子でも4年生からということで、大学に入学してからスタートした角氏は少々、面食らった様子であった。

子供たちから角氏へ質問が投げられる場面もあった。「デザインはどうするの?」だとか「使用言語は何ですか?」など、これまた専門的な内容であったが、プログラマーとデザイナーで分業を行っていることを説明したり、ひとつひとつ角氏は丁寧に答えていた。「モンスターストライク」についてはC++で書かれているそうだ。

会場からも質問が飛び出した。「企業で採用を担当している」という紹介の台詞が哄笑を誘ったのち、来場者は、将来、フリーとして活動したいのか、それとも企業の中でエンジニアとして働きたいのかと子供たちに聞く。流石に、小2の子は「分からない」という答えで、小6の子も「未だそこまで見通しが立ってない」と返答したが、最後にプレゼンを行った中学校1年生は、エンジニアではなく、個人で宇宙開発の仕事に携わりたいと夢を語ってくれた。ちなみに、上野氏の子供の頃の夢は、タクシー運転手、角氏は料理人だったそうだ。

今後の抱負について聞かれると、小2の子は「プログラミング頑張りたい」、小6の子は「プログラマーになりたいと漠然と思っているけど、今日の紹介文で『プログラマー』って書かれると、もう達成したような気になってしまう」とジョークを飛ばし、中学校1年生の彼は「スクールに通う時間がとれなくなってきてるけど、競争相手に負けたくないから頑張りたい」と気概をあらわにした。最後に角氏からメッセージが寄せられ、「ゲームをしていて何が楽しいか、自分が楽しいと思ったら、それを実際に組んでみるといいんじゃないか、情熱を持って頑張ってほしい」とエールが送られた。

イベントの冒頭、上野氏から説明があったように、産業構造と社会状況は大きく変化している。プログラミングを学ぶということは職業の選択肢を広げることであり、生きる力を育くむことでもあるのだ。そんな中、Appleはまもなく、iPadを使ってゲーム感覚でSwiftの基本やプログラミングのコンセプトを学習できる「Swift Playgrounds」をリリースする。2020年より始まる文部科学省の新学習指導要領では、プログラミング教育の必修化を盛り込む方向で議論が進められているが、この状況下、Appleがどういった形で教育推進に関わっていくのか注目したいところだ。