400年にわたって時を街に知らせる鐘

まず、明治時代の町並みというのは、川越を代表する景観「蔵造りの町並み」である。土蔵のようなどっしりとした構えの家々は、明治26(1893)年の川越大火で、旧市街のおよそ4割が焼失したものの、土蔵だけが焼け残ったのを教訓に、地元商人が耐火性に優れる蔵造りの店舗をこぞって建築したことでできあがったという。

川越を代表する景観「蔵造りの町並み」

この蔵造りの家々の一角には、400年にわたり城下町に時を知らせてきた川越のシンボル「時の鐘」がある。この時の鐘は2015年7月~2016年12月までの予定で耐震工事中で、2016年10月頃までは工事用の幕に覆われ、その姿を見ることができない。

現在、耐震工事の時の鐘。2016年12月には耐震工事は終わる予定

町並みはさらに大正から昭和へ

大正時代の風情は、時の鐘から南へ200mほどの場所にある「大正浪漫夢通り」商店街で味わうことができる。この商店街はかつては「銀座商店街」というアーケード商店街だったエリアで、必ずしも大正時代の街並みがそのまま残されているわけではない。

シマノコーヒー大正館。レトロな雰囲気の店内では、サイフォンで抽出されたおいしいコーヒーが楽しめる

しかし、商店街の入り口に建つ「川越商工会議所」の建物(旧武州銀行川越支店 昭和3年/1928年築)や、かつては呉服屋だった「シマノコーヒー大正館」の建物(昭和8年/1933年築)などレトロな建物が、モダンな大正時代の雰囲気を彷彿(ほうふつ)させる。ちなみに、川越の大正時代を代表する建物といえば、大正浪漫夢通りからもほど近い、「埼玉りそな銀行川越支店」の建物(旧第八十五銀行本店: 大正7年1918年築)がある。

埼玉りそな銀行川越支店(旧第八十五銀行本店)の洋館

そして、昭和の風情が味わえるのは、駄菓子などを売る小さな商店が軒を並べる「菓子屋横丁」だ。ここは、テレビでもよく紹介されるので、ご存じの方も多いだろう。昔懐かしい駄菓子のほか、川越のオリジナルの菓子なども販売されており、子供のみならず大人も楽しめる。学校の帰りに"買い食い"した駄菓子などを見つけ、懐かしくなる人も多いのではないか。

菓子屋横丁では昔懐かしい駄菓子などが売られている

埼玉が誇る「埼玉S級グルメ」の鰻も見逃せない

川越は歴史ある鰻(うなぎ)屋が多い。海のないこの辺りでは、かつては鰻は貴重なタンパク源だったのだ。そういえば同じく埼玉県の浦和(さいたま市)も、江戸時代から鰻が有名だったと聞く。

数ある川越の鰻屋の中で、今回は、大正浪漫夢通りにある、江戸時代の文化4(1807)年創業という「小川菊(おがぎく)」で「うな重 上」(香の物・吸い物付、税込3,400円)をいただいた。学生の頃は、いつかこんな店で鰻を食べてみたいと思ったものだ。なお埼玉県では、地元・伝統食材を用い料理人の工夫や店舗の雰囲気で埼玉らしさを伝える飲食店を「埼玉S級グルメ」に認定しているが、同店は2014年にこの「埼玉S級グルメ」に認定されている。

ふっくらした鰻と秘伝のタレが抜群の「小川菊(おがぎく)」の「うな重 上」(香の物・吸い物付、税込3,400円)

川越の旅、いかがだっただろうか。川越の観光エリアはそれほど広くないので、今回歩いたコースも半日あれば十分歩いてまわれる。また、観光スポットをめぐる「小江戸巡回バス」というレトロバスも運行されているので、上手に利用すれば、より快適に観光を楽しめるだろう。

なお余談だが、川越城本丸御殿の裏手にある筆者の母校・県立川越高校では、映画『ウォーターボーイズ』のモデルとなった"男のシンクロ"が、毎年9月、同校の学園祭「くすのき祭」で行われるのもご案内しておこう(2016年は9月3日~4日開催)。

※記事中の情報は2016年8月時点のもの

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト、オールアバウト公式国内旅行ガイド。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に取材・撮影を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。