福岡でブームを巻き起こした豚骨ラーメンの変化系、"焼きラーメン"をご存じの方は多いかもしれない。しかし、福岡にはもうひとつ、おなじみの変化系ラーメンがある。その名も「ラーソーメン」だ。ラーメンでもなくソーメンでもない、居酒屋発のメニューで、冷たい麺のさっぱりとしたのど越しと、まるでシロップのような甘口つゆが特徴。一度食べたら忘れられない味だ。早速、その魅力を紹介しよう。
1人替え玉2~3玉は当たり前! 月間2万食を誇るラーソーメン
グルメ都市福岡には、もつ鍋、博多一口餃子、豚骨ラーメンなどさまざまな名物があるが、もうひとつ、ご紹介したい名物が「ラーソーメン」(486円)。博多や天神、中洲など福岡市内で8店舗を展開する博多創作居酒屋「ふとっぱら」発の人気メニューで、大盛りの氷で冷たくしめたラーメンの麺をつゆにつけて食す。
「なーんだ! そうめんと同じじゃないか」と思った方には申し訳ないが、味わいはソーメンとは全く異なる。口の中がマヒするほど冷たい麺は、ほんのり甘い小麦の味が引き立ち、びっくりするほどコシが強い。それを、しょうがが香る超甘口のつゆが一層引き立てていて、食べている途中に、替え玉(162円)を決意してしまうほどのおいしさだ。
博多駅筑紫口中央街店の店長・権藤弓人さんは、自身のアルバイト時代を振り返ってこう語る。「若い頃は『麺をゆでただけのメニューなのに、お客さん、よく食べるなぁ』と思っていたのですが、年をとってお酒の味が分かるようになると、ラーソーメンのうまさが身にしみます」。
全8店舗での替え玉最高記録は1回12玉。博多駅筑紫口中央街店では、平日120玉、週末200玉以上のラーソーメンが出るという。権藤さんがアルバイトをしていた7~8年前に比べると、人気はさらにうなぎのぼりとなっているそうで、現在では全店舗あわせて月間2万食を誇る不動の人気メニューに。他の居酒屋でもラーソーメン風のメニューが次々とお目見えし、商標登録済みのブランド麺にまで成長した。
老舗が作る専用の麺と無添加つゆは、伝統の製法が生み出すおいしさ
ラーソーメンが誕生したのは、昭和55(1980)年。当時、飲んだ後は豚骨ラーメンで締めるのが一般的だったが、「女性でもさっぱり食べられるものを」という声を受けて、試行錯誤した末に考案されたという。
自慢の麺は、ラーメン専用に開発された福岡県産の小麦・ラー麦を採用。博多の豚骨ラーメンならではの細麺を最初に作ったとされる老舗製麺所・真鍋食品が、毎日製麺している。そしてつゆには、糸島市の老舗・北伊醤油で作られた杉樽仕込みの無添加つゆを使用。シンプルなメニューの中にも、こだわりが詰まっているのだ。
博多のラーメンには、"バリカタ"、"カタメン"など、麺の固さにバリエーションがあるが、ラーソーメンは通常のラーメンの2倍以上の時間をかけて、羽釜でゆでる。そしてゆであがった麺は、大量の氷でしめるのが特徴だ。「山盛りの氷をゆでた麺にどっさりかけ、流水で一気に洗い、さらに山盛りの氷を追加してキンキンに冷やします」と権藤店長。
この季節は、ラーソーメンの注文が入ると最高に気持ちのいい仕事ができるというが、常に厨房(ちゅうぼう)の氷が無くならないか内心ひやひやなのだとか。週末になると製氷機が注文に追い付かなくなり、近隣の姉妹店から氷を取り寄せることもあるという。それだけ氷を使っているから、口の中の感覚がマヒしそうなほど冷たいのだ。
ホークス選手やお笑い芸人がブームの火付け役!
冷たすぎるラーソーメンだが、季節を問わず人気は1年中変わらない。「お笑い芸人さんやホークス選手、ミュージシャンの方が福岡のオススメグルメとして紹介されることもあるようです」と権藤店長。認知度も全国区へ拡大中で、最近では大手旅行代理店の博多観光ツアーに組み込まれることもあるという。
しかし一番のお得意さまは、博多駅かいわいで働くビジネスマンで、客の9割がお酒のシメにラーソーメンをオーダーする。グループでの注文も多く、器は大・中・小の3サイズがあり、最も大きなラーソーメン専用の器は、5~6玉が入る超ジャンボサイズ。権藤店長によれば、大方の客が、山盛りのラーソーメンを3~4人で囲んでしめるというが、替え玉の注文が次々と入って、なかなかしめられないグループも多いとのことだ。
居酒屋が本業の同店には、ラーソーメンに限らず、明太子を使った創作メニューや、注目の炊き餃子、もつ鍋といった120種類以上のメニューが充実している。まだまだ暑さが続く福岡を訪れた際には、博多名物でスタミナをつけ、体感温度が3度は下がるCOOLなラーソーメンでしめてみては?
※記事中の情報・価格は2016年8月取材時のもの。価格は税込