ON Semiconductorは2016年8月25日(米国時間)、同社が進めているFairchild Semiconductorの買収について、米国における不公正な取引を監視し独占を禁止する連邦取引委員会(Federal Trade Commission:FTC)の承認を条件付きで得られたと発表した。その条件とは、ON SemiconductorがFairchildの買収を完了する前に、車載電子イグニション回路用プレーナ型ゲート絶縁バイポーラトランジスタ(IGBT)事業を売却するということである。FTCは、ON SemiconductorとFairchildの当核事業のマーケットシェアの合計が6割を超えるため、独占禁止の立場からこのような条件を付けたようだ。

即座にイグ二ッションIGBT事業を売却

ON Semiconductorは、FTCが要求したこの条件を満たすため、即日、米LittelfuseにイグニションIGBT事業を売却することで最終合意に達した。また、IGBT TVS(トランジェント電圧抑制回路)ダイオードやスイッチングサイリスタなどの製品群も一緒に売却する。売却額は1億400万ドルで、2016年8月末までに売却を完了させるという。ON SemiconductorはFairchldの買収完了の時期を明示していないが、Littelfuseへ一部事業売却後、すぐに行われる見込みである。

ON SemiconductorのFairchildの買収額は以前発表された通りの約24億ドルである。ON Semiconductorの2015年売上高は約35億ドル、Fairchildの売上高は約14億ドルだったので、新生ON Semiconducorは2016年、50億ドル規模の半導体企業となり、世界ランキングトップ20入りを果たし、順調に行けば15位前後にランクされる見通しだ。パワー半導体に限れば、三菱電機を抜いて、トップのInfineonに次ぐ世界2位に躍り出る。それが狙いの買収だろう。なお、ON SemiがFTCの指示で売却するイグ二ッションIGBTは、2500万ドル未満で、売り上げ全体の7%未満にすぎない。

Fairchild買収発表直後に中国勢が横取りを企図

今回の発表にいたるまでの動きを振り返ってみよう。まず、2015年秋に、パワー半導体世界トップシェアの独Infineon Technologiesとパワー半導体では中堅のON SemiconductorがFairchild買収で競い合っているといううわさが米国半導体産業界に流れていた。そんな中、ON SemiconductorがFairchildを24億ドルで買収することで合意したと発表したのは、2015年11月18日(米国時間)のことである。買収完了は、2016年第2四半期になるとしていた。

翌月12月8日(米国時間)に、Fairchildは中国勢が、ON Semiconductorの買収額を上回る26億ドルで敵対的買収をかけてきたことを明らかにした。Fairchildは中国勢が何者か明かさなかったが、後に中国の国営企業であるChina Resources Holdingsや投資企業Hua Capital Managementなどを含む中国系投資家グループであることが明らかになった。Fairchildは年が明けてすぐの2016年1月5日(米国時間)、同社取締役会が、法律/財務アドバイザーと協議した結果として、中国企業から提示された買収案の方が、ON Semiconductorにより提示された買収案よりも「優位である」との結論に至る可能性が高いことを表明した。これで、中国勢による買収が決まったかに見えた。

中国勢のFairchild買収は白紙に

しかし、ここで再び事態が一変する。2016年2月16日(米国時間)にFairchildは、中国勢による買収提案は、対米外国投資委員会(CFIUS:Committee on Foreign Investment in the United States)の監査に通らないだろうとの予測から、中国勢による買収提案は「優位ではない」と発表した。事実上、中国勢の買収提案は拒否された格好だ。CFIUSは、米国への外国からの直接投資を精査し、米国の国家安全保障に脅威を与える可能性があるかを審査する連邦政府の委員会で、特に共産主義国家からの投資には厳しく目を光らせている。

2015年、中国清華大学傘下の国有ハイテク投資グループ紫光集団(Tsinghua Unigroup)は、半導体メモリメーカーのMicron Technologyに買収提案をしたり、大手HDDメーカーであるWestern Digital(東芝のNAND型フラッシュメモリの共同出資企業であるSanDiskを買収し、東芝の新たなパートナーとなったことで日本でも知られる企業)に資本参加しようとしたが、CFIUSの影がちらつき、いずれも白紙に戻ってしまった。

それでも中国は先進半導体技術を入手する

CIFUSが目を光らせている限り、中国勢が米国の先進ハイテク企業を買収したり、資本参加するのは不可能に近い。しかし、これをもって、中国勢は、米国からの半導体技術取得はできなくなったので、中国での半導体製造は無理に決まっているなどと誤解している向きがあるが、米国ハイテクメーカーの中国進出は禁止されてはいないどころか、グローバルビジネス展開の観点から奨励されている。Intel、TI、GLOBALFOUNDRIES(GF)はじめ多数の半導体企業が中国進出し、AMDやSpansionが先端半導体技術を中国勢に供与していることは公知である。先端プロセス研究を推進するベルギーimecも14nmプロセス技術を中国SMICに提供する