エメラルドグリーンの海とサンゴ礁と言えば、どこを思い浮かべるだろう。インバウンド旋風もあり、全国各地で埋もれた地域資源の掘り起こしが盛んに行われている。しかしいまだ世に知られていない絶景やパワースポットは少なくない。今回紹介するのはそのひとつ、徳之島だ。

徳之島北部・徳之島町にある「畦プリンスビーチ海浜公園」。見事なまでのエメラルドグリーンである

徳之島は鹿児島県奄美群島のひとつで、鹿児島から南西約480kmに位置。東京からの直行便はなく、鹿児島から空路なら1時間、船なら沖縄から9時間半、鹿児島から15時間を要す。離島ブームの中でもまだまだ知名度は低く、脚光を浴びるに至っていない。だが実はこの島、いろんな意味でスゴい島なのだ。今回はその魅力をたっぷり紹介しよう。

人々は長生きし、子宝にも恵まれる

徳之島は周囲約80km、「日本の島面積20傑」(国土地理院)では17位に入る。琉球と薩摩から影響を受けた独特の文化や言語を有し、島内には希少な動植物やアマミノクロウサギなど島固有の生物が生息しており、奄美群島国定公園に指定されている。

島は徳之島町、天城町、伊仙町の3つの町からなり、人口は約2万6,000人。奄美群島は100歳以上の長寿の人が多い"長寿の島"で、合計特殊出生率で全国上位を占める"子宝の島"としても知られるが、中でも徳之島はその数値が飛びぬけて高い。

鹿児島県はその要因として居住環境や生活文化等を挙げるが、人口10万人当たりの100歳以上の長寿者数は全国平均139人、奄美地区は398人。これに対し、伊仙町は710人、徳之島町は601人、天城町は527人とダントツだ。合計特殊出生率(平成20~24年人口動態保健所・市町村別統計)は全国平均1.38に対し、伊仙町2.81(全国1位)を筆頭に3町全てが全国トップクラス入り、徳之島全体で2.43という数値を示している。

伊仙町の犬田布海岸を島内ガイドの富山和美さんと探検。オススメポイントを案内していただいた

そんな、長寿や子宝の秘密を求めて島に行くのもいい。だが徳之島は、観光地としても沖縄や奄美大島など他の離島に劣らない独自の魅力がある。今回は徳之島ガイドの富山和美さんの案内で島内を巡ることにした。

戦艦大和の慰霊塔の岬にて

今回はまず、島南部に位置する伊仙町から紹介しよう。ここには奄美十景のひとつ、「犬田布岬」がある。岬の突端には太平洋戦争の末期、救援物資を運ぶため沖縄へ向い、東シナ海で1,000機以上の航空機から爆撃を受け、撃沈された戦艦大和の慰霊塔が建立されている。合掌する人間の手をかたどった慰霊塔の高さは24m。慰霊碑には艦隊戦没者の名が刻まれている。

犬田布岬からは琉球石灰石の海食崖が続く、断崖絶壁を見渡すことができる

足元には巨大な碇や大和地蔵尊が安置されており、訪れた人は祈りを捧げ、平和への思いを強くする。その岬からは琉球石灰岩の海食崖が続く、切り立った断崖絶壁の絶景を見渡すことができる。青い海と緑の草原を眺め、吹く風に身を任せていると、さまざまな思いが去来する。神聖かつスピリチュアルな場所だ。

奄美十景のひとつ「犬田布岬」から眺める切り立った断崖絶壁。岬の突端には巨大な戦艦大和の慰霊塔があり、その足元には巨大な碇の形をした大和地蔵尊も

1億年もの歴史が織り成す景観

その側の犬田布海岸では、恐竜がいた時代の深海の地層が隆起したという「メランジ堆積物」を見ることができる。メランジはメレンゲと同義、その名は大小さまざまな砂岩が引きちぎられるように混ざって見えることに由来する。

犬田布海岸にて

犬田布海岸のメランジ堆積物は約1億年以上前の地層と考えられており、それを約10数万年前に形成された隆起サンゴ礁が覆っている。海岸一帯に広がる独特の景観は見るものを圧倒し、太古に迷い込んだような錯覚も覚える。

メランジ堆積物(写真提供: 徳之島虹の会)

犬田布岬から約6km先には、伊仙町阿権にはケンムン(精霊)が宿るとされる樹齢300年ガジュマルと平家の石垣がある。かつて付近一帯の地主だった平家の屋敷を囲む石垣は、サンゴ礁の石を使い緻密に組み上げられており、城(ぐすく)を思わせる風格を漂わせている。なお、民家のため、屋敷内への立ち入りはご遠慮いただきたい。

精霊が宿るとされる樹齢300年ガジュマルと平家の石垣

絶景でアクティビティを、ソテツトンネルで冒険を

伊仙町の次は、島の北東部・徳之島町に回ってみよう。徳之島町にも他にない絶景、海水浴やシュノーケリングなどのアクティビティが楽しめる美しいビーチが点在している。

エメラルドグリーンの海、白砂が美しい「畦プリンスビーチ」(徳之島町)

サンゴ礁に囲まれた白い砂浜が1.5kmにわたって続く「畦プリンスビーチ海浜公園」は、昭和47(1972)年に現在の天皇陛下が皇太子時代に美智子妃殿下と一緒に散策されたことからその名がついた。園内にはキャンプ場、多目的広場を有し、遠く加計呂麻島を見渡す展望台、野外ステージ、芝生スライダーも備える。リーフの内海にはサンゴ礁が広がり、色とりどりの熱帯魚を見ることもできる美しいビーチはシュノーケリングにも最適だ。

また今回は、穴場としてガイドの富山さんオススメの「黒畦(くろあぜ)」と呼ばれるスポットを教えてもらった。ダイビングや釣りをする人の中では知られた場所だが、一般な観光地ではないため、島の中でも知る人は少ないというが、そのダイナミックで美しい景観はまさに隠れた名所と言える。

畦プリンスビーチの「黒畦」。ダイビングや釣りでは人気スポットだが、島内でも知る人は少ない。美しいビーチはもちろん、切り立った隆起石灰岩のダイナミックな景観も魅力

畦プリンスビーチから約7km、島の北東端には「金見展望台・ソテツトンネル」がある。展望台に向かう道の両側には約200mに渡りソテツが植えられている。ソテツは約350年前のものとみられ、人の背よりも高く伸びている。ソテツトンネルに覆われた道はうっそうとしているが、展望台には東シナ海と太平洋の2つの海がぶつかり、交じり合う雄大な海や緑豊かな山々の絶景が待っている。

金見ソテツトンネルを越えて

金見展望台。向かって左が東シナ海、右が太平洋

これまでは、伊仙町と徳之島町の魅力を紹介してきたが、島北西部の天城町にも知られざるネーチャーワールドが広がっている。続いては天城町で特にオススメしたい、3つの絶景スポットを紹介しよう。