市場動向調査企業である台湾TrendForceは8月15日、同社の半導体メモリ調査部門DRAMeXchangeの調査結果として、世界モバイルDRAM市場の2016年第2四半期(4~6月期)の売上高が前四半期比17.2%増の39億2900万ドルとなったと発表した(表1)。

表1 2016年第2四半期の世界モバイルDRAM市場ランキングトップ5。表の左から、順位、企業名、2016年第2四半期売上高、2016年第1四半期売上高、2016年第2四半期売上高の対前期比成長率、2016年第2四半期および第1四半期のマーケットシェア (単位:百万ドル、出所:DRAMeXchange)

これは、中国の老舗スマートフォン企業であるHuaweiおよび新興のOPPOやVivoなどがけん引する中国ブランドのスマートフォン(スマホ)の出荷数量が急増しており、これに伴いモバイルDRAM市場へのビット出荷量が増加しているためである。DRAM不振といわれながらも、モバイルDRAMに限れば中国のスマホフィーバーに支えられに今後も2桁成長を続けそうだ。

グローバルのモバイルDRAM市場で、韓国メーカー勢のシェアは86.6%(Samsung ElectronicsとSK Hynixの合算値)と非常に高いが、前期比では0.7ポイント減となっている。一方の米国メーカー勢(Micron Group)のシェアは11.4%と、前四半期比で1ポイント上昇したほか、台湾勢のシェアは1.9%と、前四半期比で0.4ポイント減となり、過去の活気を感じることはできない(図1参照)。

図1 モバイルDRAMのメーカー本社所在国別マーケットシェア (出所:DRAMeXchange)

第3四半期のモバイルDRAMの売り上げはさらに増加の見込み

DRAMeXchangeの調査担当ディレクターであるAvril Wu氏は、「第3四半期(7~9月期)に向けて、Appleが次世代のiPhoneの発売に備えた作りだめをしており、Samsungも同様に最新旗艦モデルGalaxy Note 7の発売に向けて準備を進めている。それに加えて、中国ブランドのスマホが成長を続けている。さらには、例年、第3四半期はクリスマス商戦を控え、半導体売り上げのピークシーズンであることなどから、モバイルDRAM市場もさらに拡大することが見込まれる。DRAMeXchangeの予測では、第3四半期のモバイルDRAMの平均販売価格は3%低下するが、もしも、DRAMメーカーの第3四半期の販売戦略が成功すれば、DRAM業界全体の業績は向上し始めるだろう」と分析している。

トップ3社はモバイルDRAM比率をさらに高める

モバイルDRAMのトップ3社(Samsung Electronics、SK Hynix、Micron Technology)のグローバル・マーケットシェアは合計で98%(第2四半期)を占めており、3社による寡占状態にある。第4位は台湾Nanya、5位は同じく台湾のWinbondだが、マーケットシェアはそれぞれわずか1.1%、0.8%にすぎない。

全DRAM売上高に占めるモバイルDRAMの売上高(第2四半期)は前四半期比で43%増となっており、各社がモバイルDRAM生産に集中的に注力していることがわかる。中国ブランドのスマホの出荷量が増加し続けているので、全DRAMに占めるモバイルDRAMの売上比率は、今後さらに増加するものと思われる、

今後は低電圧低消費電力LPDDR4で勝負へ

Samsungは、モバイルDRAMのマーケットシェアでも売上高でもライバルに大差をつけてトップの地位を守っている。20nm DRAM製品は、製造歩留まりが安定しており、幅広い品ぞろえ、とりわけ低電圧低消費電力のLPDDR4ではダントツのマーケットシェアを誇る。

筆者注:LPDDR4は低電圧・低消費電力のLPDDR仕様の1つで、2012年に発表されたLPDDR3の後継規格として2014年に発表された。低電圧、低消費電力が求められるスマートフォンやタブレットを主な対象にしている。

Wu氏は、「SamsungはPC向けDRAM生産量を減らして、モバイルDRAM生産能力を増やし続けてきた。このため、Samsungの利益は、PC用DRAMに力を入れてきた他のDRAMメーカーよりもはるかに大きい」と述べている。

2位のSK Hynixは、2016年に入って21nmプロセスへの移行に力を入れており、これによりモバイルDRAM市場におけるLPDDR4の存在感が高まることが見込まれるが、残念ながら、第2四半期には21nm DRAMの生産量は十分な量には達しなかったという。ただし第3四半期は、需要の増加に伴い、生産量も顕著に増えることが見込まれ、その結果、同社のモバイルDRAMの売上高は第3四半期以降に増加することが期待されるという。

同様に3位のMicronも20nm DRAMへの移行に向けた重要な時期を迎えている。Wu氏は「Appleは次世代iPhoneのリリースに向けて電子デバイスの在庫を増やしており、これにともない、Micronも、広島の工場(旧エルピーダメモリ)かパートナーの台湾DRAMメーカー(Inotera)のいずれかも活用してLPDDR4生産を増やそうとしている。この結果、Micronにとって、DRAM売り上げに占めるモバイルDRAMの割合は近い将来増えると見込まれる。これにより、赤字体質の同社の業績改善が期待できるだろう」と、モバイルDRAMが同社の浮沈の鍵を握るとする。

台湾勢はシェアを落とし続けており、かつてのような活気はない。台湾NanyaのモバイルDRAMのほとんどは、価格低下が続くLPDDR2であり、2017年に新しいファブで20nm LPDDR3をサンプル出荷するようになるまで業績改善は見込みづらい。同じく、Winbondは38nmプロセスでモバイルおよび特定用途向けDRAMを2017年から量産開始する予定であるが、それまでは苦戦が続きそうである。