米Intelが英ARMと提携し、ARMアーキテクチャのSoCを製造することを発表した。なかでも注目されるのが、Intelとの関係も深いApple Aシリーズの製造をIntelが受け持つかどうかだ。噂されているようにAシリーズの製造をIntelが担当する可能性はあるのか、あるとしたら、何がどう変わるのだろうか。

どうしてIntelがARMを製造するのか

そもそも、なぜIntelはARMの製造に踏み切ったのだろうか。以前Intel自身がARMプロセッサのライセンスを取得して独自設計のCPU(StrongARMとXScale)を製造していたことがあるにせよ、多くの人にとって最大のライバルであるARMを製造するのは不自然に見えるだろう。

だが、Intelにとっては自社設計のCPUが売れてほしいのと同じくらい、巨額を投じた製造工場がフル稼働し続けることも重要だ。工場は何も製造しなければ利益を生まないので、受託でもいいから何かを作っていたほうがずっと経済的というわけだ。実際、Intelは2013年から他社の設計した半導体の製造受託を行っており、今回そこにARMプロセッサの製造が加わった、というだけにすぎない。

Intel全体の戦略としても、モバイル向けのAtomを諦めることを明らかにしたばかりであり、直接競合することもなくなったモバイル向けのARMプロセッサの製造は、ビジネス的にも理にかなっている。ARMプロセッサを製造できるファウンダリは非常に多いが、ARMはモバイルやIoTで圧倒的なシェアを持つため、Intelとしてはまだまだ十分な数を受託できると見込んだのだろう。

IntelのAtomプロセッサ

IntelとARMの提携では、「10nm Fin-FET」プロセスでの製造ラインが採用される。現在のARM SoCでは16~14nmプロセスが採用されているが、これが10nmになることで、製造コストは若干高くなるが、そのぶんチップの小型化と省電力・低発熱化が見込める。2017年以降のARM SoCは10nmプロセスに移行するとみられており、最初からそのトレンドに乗ることができるわけだ。

もうひとつの重要なポイントは、半導体のパッケージング技術だ。現在主流の「PoP」(Package on Package: CPUの上にもう1層基板を置いてそこにDRAMを積層する方式)はチップの背が高くなるため、薄型化の進むモバイル機器向けには限界がある。そこで今後注目されるのが「Fan-Out」技術を使った「WLP」(Wafer Level Package)だ。WLPはウェハーレベル、パネルレベルで部品を埋め込んでしまう技術で、基盤そのものが不要になり、薄型化を実現できる。

Fan-Out技術はもともと、独Infineon Technologiesが開発したeWLP技術が元であり、IntelはInfineonから買収したベースバンドプロセッサー部門(現Intel Mobile)で同技術を採用している。TSMCなどのライバルも独自のFan-Out技術(TSMCの場合はInFO)をARMプロセッサに採用してくると言われているが、IntelもまたSoC向けに同技術を展開するのは可能だと見られる。初めてでもスタートラインは他社と同等レベルから始められるというわけだ。