Appleが2016年9月にリリースするとみられるApple Watch向け新OS「watchOS 3」では、車椅子ユーザーの活動量の計測に対応する。

特別な追加機器、例えば車椅子の車輪に取り付けるセンサーなどを使うことなく、ほかのユーザーと同じように、手首にApple Watchを装着して日常を過ごすことで、日々の消費カロリーや移動距離などを測ることができるようになる。

WWDC 16の基調講演ではフィットネス&ヘルステクノロジー担当ディレクター のジェイ・ブラニック氏がプレゼンを担当

身につけることができる汎用的なウェアラブルデバイスが、車椅子ユーザーのカロリー計算を実現する初めての事例だ。

筆者は、Appleで、Apple Watchの車椅子対応プロジェクトに携わったロケーション&モーションテクノロジーソフトウェアエンジニアリング担当ディレクター 、Ron Huang氏に話を聞いた。

Huang氏がまず強調していたのは、Apple Watchがウェアラブルデバイスの「ファーストクラスの体験」であるということ。手首に装着しながら通知を受けたり、コミュニケーションをとることができ、そして、特別なデバイスを必要とすることなく、日々の消費カロリーや心拍数を計測でき、ワークアウトをすることができる。

こうした体験を享受できる人々を拡げようということで、車椅子対応への取り組みが始まった。車椅子利用者の数から考えると、必ずしも多くの人々をカバーできるわけではないが、エンジニアリングとしては非常に興味深い取り組みだったと言えよう。

皆さんは車椅子の漕ぎ方に種類があることをご存じだろうか。車椅子を使ったことがない人にとっては、なかなか知ることができない世界だ。

Huang氏によると、Apple Watchは、「Semi-circular」「Arc」「Single loop over」という3種類の漕ぎ方を検出することができるという。そのことを知るきっかけは、病院を車椅子で退院する際に手渡される、車椅子初心者のためのハンドブックだったとのことだ。

Apple Watchで「Semi-circular」「Arc」「Single loop over」という3種類の漕ぎ方を検出

Semi-circularは、ホイールを漕いで、そのまま手を下を通して回転させる。逆にSingle loop overは、漕いだ手をホイールの上方を通して返す。そしてArcは、ホイール沿いをたぐり寄せるように漕ぐ。加えて、路面の状況や傾斜によって、ホイールの漕ぎ方が変わる。

こうした細やかな手の動きを、片方の手首に装着しているApple Watchのモーションセンサーのみで検出するためのアルゴリズム作りが必要だった。このアルゴリズムによって、その人が何回車椅子のホイールを回したかを「プッシュ」という単位で計測することができるようになる。

そのプッシュの長さ(強さ)に応じて、運動強度を割り出し、カロリー計算や移動距離の算出ができるのではないか、というアプローチだ。