通話定額の重要性を高めたユーザーニーズの変化

これまでのMVNOを支えてきたユーザー層は40代前後の男性が主体で、キャリアのメイン回線を持ちながらも、データ通信用のSIMをタブレットやSIMフリーのスマートフォンなどに挿入し、サブ用途で利用する人が主であった。そうしたユーザーはあくまで、データ通信を安価に利用することを目的としていたことから、通話サービスはあまり重視していなかったのだ。

しかしながらここ1、2年でMVNOを取り巻く環境は劇的に変化。「格安スマホ」「格安SIM」などのワードでMVNOが注目を集めるようになり、市場競争が加速したことでサービスの充実度も高まったことから、最近では20~30代といったより若い世代が、メイン回線としてMVNOのサービスを選ぶ割合が高まっているのだ。

しかもそうしたユーザーはメイン回線として契約するため、データ通信だけでなく音声通話も利用する。それゆえ大手キャリアと比べ、通話定額サービスがなく通話料が高いことがユーザーの不満要素となっていたことから、MVNO側が不満解消のため音声通話サービスの改善に力を入れるようになったといえるだろう。

MMD研究所が7月27日に実施した記者向け勉強会より。音声通話付きSIMの契約数は6割に達しており、そのうち6割以上が番号ポータビリティで乗り換えているという

しかしながら、先にも触れた通りMVNOとキャリアとの枠組みは変わっておらず、そのままでは通話定額も実現できない。そこでMVNO側は、SkypeやLINEの有料通話サービスなどと同様にIP電話を活用したり、キャリア以外のネットワークを経由して電話回線網に接続する中継電話の仕組みを採用したりするなど、通話料を少しでも下げる仕組みを活用することで、通話定額を実現しているのだ。

それゆえMVNOの通話定額サービスは、専用のアプリを使う必要がある、番号通知や音声品質などに制約があるなど、キャリアの通話定額サービスと全く同じ内容や使い勝手というわけではない。それでもデータ通信だけでなく音声通話も安く利用できることは、メイン回線として契約するユーザーにとっては重要な要素となっているようで、楽天モバイルなどは5分間かけ放題の開始後、音声通話対応SIMの契約が8割に達したとしている。

1月に5分間かけ放題の提供を開始した楽天だが、5月には音声通話対応SIMの契約が8割に達するなど、その効果は大きいようだ

今年に入ってから、総務省の施策によって端末の実質0円販売が事実上禁止されたことから、今後端末価格の高額化を嫌い、メイン回線としてMVNOのサービスを利用したいというユーザーは一層増えるものと考えられる。それだけに、通話定額サービスを提供するMVNOも今後一層増えると考えられるし、通話に力を入れるMVNOとそうでないMVNOとの間で、ユーザー獲得に差が出てくる可能性も大いにあり得るのではないだろうか。