この写真を見せられたら、「『インディ・ジョーンズ』の地下宮殿のシーン? それとも、ピラミッドの内部? はたまたRPGのダンジョン? 」などと思ってしまうだろう。実はこの巨大な地下空間は、「餃子の街」として知られる栃木県宇都宮市にある"大谷(おおや)石"の地下採掘場跡「大谷資料館」で、館内(地下)は真夏でも気温12度前後と涼しく、夏旅にもオススメのスポットなのだ。早速、涼を求めて宇都宮へ出掛けてみよう。

映画の地下宮殿のシーン? それとも、ピラミッドの内部?

"地下宮殿"までは都心から約2時間

目指す大谷資料館へは、車なら東北自動車道の鹿沼ICから約20分、宇都宮ICからなら約12分ほどの場所にある。また、JR宇都宮駅、東武宇都宮駅から路線バスも利用できる。都心から行くなら、片道約2時間となる。

駐車場に車を駐め、資料館への道を歩いて行くと、道脇に昔懐かしいボンネットトラックが駐まっていた。かつて、切り出した石材を運んだトラックのようだが、なんだか昭和の時代にタイムスリップしたような気分になる。

道脇に駐まる昔懐かしいボンネットトラック

資料館の建物に入り、受付を済ませたら、まずは大谷石の採掘に使われたさまざまな道具などが展示されている展示室を見学しよう。大谷石は、うすい緑色の凝灰岩で、耐久性・耐火性に優れ、軽くて加工しやすいことから、広く建材として使用されてきた。江戸時代の中頃から本格的に採掘が始められ、昭和35(1960)年頃に機械化されるまでは、ツルハシで手掘りしていたという。

大谷石の採掘に使われた様々な道具などが展示されている展示室

展示室の見学後、その先の階段を下りていくと、いよいよ目の前に巨大な空間が現れる。

地下宮殿には秘密の「教会ゾーン」あり

地下に下りて、まず驚くのは空間の大きさだ。広さはおよそ2万平方メートル(140m×150m)、深さは最深部で地上から約60mにもなるそうだ(公開エリアは深さ30mの地点まで)。圧巻なのは、まるで宮殿か神殿の建物のような、大きな柱が天井を支え、柱と柱の間を横に向かって、さらに奥へと掘り進められた空間の構造だ。

階段を下りていくと現れる、巨大な地下空間

今回、館内の案内をしてくださった大谷資料館館長の鈴木洋夫さんに、なぜこのような空間が生まれたのかをたずねると、「崩落(ほうらく)を防ぐために、10m掘ったら、10m残す、ということを繰り返したために、このような空間が生まれました」とのこと。また、岩壁に注目すると、規則的な模様が刻まれているように見えるが、これは石材を切り出すときについた、電動ノコギリの跡だという。

岩壁に刻まれている模様は電動ノコギリの跡

石段を下りていき、奥へ進むと、普段は非公開の秘密の部屋があり、今回は取材のため特別に案内していただいた。ここは、「教会ゾーン」と呼ばれる空間。天井と、隣接する採掘場との間の壁の一部が崩落し、地上からの光が差し込む。この部屋自体が、光と影が織りなす大きなアート作品のようで、何とも言えない神秘的な雰囲気が漂っている。

神秘的な雰囲気が漂う教会ゾーン

今のところ年間に数組だが、ここで実際に結婚式が挙げられることもあり、また、映画や映像作品の撮影にも使われることもあるそうだ。この教会ゾーンは、2015年は冬季限定で一般公開となったが、2016年は未定とのこと。

館内にはこのほか、コンサート等に使われるステージや、映画の撮影に使われたセットがそのまま残されている場所、地底湖のように雨水が溜まった場所など、さまざまな見どころがある。グルッと一周するのに、40~50分ほどかかる。

映画撮影のセットがそのまま残されている場所もある

年間38万人が訪れる資料館になるまで

大谷資料館館長の鈴木洋夫さん

そもそも、この大谷石とはどのようなものなのか、鈴木さんに話をうかがった。

「大谷石は、古くから採掘が行われてきましたが、大谷石の名が一般に広く知られるようになったのは、二十世紀建築界の巨匠、フランク・ロイド・ライトが帝国ホテルの旧本館に使ってからです。帝国ホテルは完成直後に関東大震災(大正12年9月)に見舞われましたが、大きな損傷を受けることがありませんでした。これにより、大谷石の耐震・耐火性の優秀さが認められたのです」。

また、大谷資料館についてうかがうと、

「現在、大谷資料館となっているこの地下採掘場は、大正8(1919)年から採掘が始まり、戦時中は中島飛行機(現・富士重工)の戦闘機『疾風(はやて)』の部品工場などとして使われたこともありました。その後、昭和54(1979)年から資料館としての公開を開始しました。

夏には館内に霞(かすみ)がかかり、冬には"石の華"と呼ばれる、夏の間に結露で湿った岩肌が乾燥して噴出してくる塩の結晶を見ることができます。このような、地下世界ならではの四季の風物が楽しめるのが当館の一番の魅力ですので、ぜひ季節ごとに足を運んでいただけたらと思います」とのことだ。

霞が発生するのは、外気との気温差が大きい夏ならではの現象

大谷資料館は、映画やドラマ、映像作品の撮影のほか、コンサートや美術展、演劇場などとしても注目を集めている。2015年には114件の撮影が行われ、年間来場者数は38万人となり、その数は年々増えているという。

映画撮影にセットが組まれた様子(写真提供: 大谷資料館)

なお、館内(地下)の気温は真夏の日中でも12度前後しかなく、少々肌寒く感じるので、上着を用意しておくといいだろう。また、結露で地面が滑りやすくなっている場所があるので、滑りにくい運動靴で来館するのをオススメする。

●information
大谷資料館
栃木県宇都宮市大谷町909
営業時間: 9:00~17:00(最終入館は16:30まで)
休館日: 年末・年始
入場料: 大人700円、小・中学生350円、未就学無料
※館内のガイドツアーを依頼する場合は、約一週間前までに連絡・予約が必要(有料、ひとりから対応可能)

大谷石の岩山に磨崖仏あり

大谷資料館を訪れたなら、ぜひとも立ち寄りたいのが、大谷石の岩山に掘られた横穴に包まれるように建てられた大谷寺(おおやじ)という寺院。大谷資料館から500mほどの場所にある。

大谷石の岩壁に抱かれるように建つ大谷寺のお堂

本堂内にまつられる本尊は、岩肌に刻まれた磨崖仏(まがいぶつ)の千手観音で、言い伝えによれば、平安時代初期に彫られたもので、弘法大師の作という。また、境内の宝物館では、約1万1,000年前に埋葬されたとされる縄文人の人骨を見ることができる。

やっぱり食べたい「宇都宮餃子」

宇都宮に来たなら食べたいのが「宇都宮餃子」だろう。宇都宮市内には、JR宇都宮駅周辺を中心に、多くの餃子専門店がひしめき合っており、各店ごとに特色のあるさまざまな餃子を味わうことができる。

宇都宮は、満州からの引き揚げ者が多いことや、夏暑く冬寒い内陸型気候のため、スタミナをつけるために餃子人気が高まったとも言われている(写真は宇都宮餃子館のランチ「餃子セット」1,000円)

そして、忘れてはならないのが、JR宇都宮駅前に立つ「餃子像」だ。餃子の皮に包まれたビーナスをモチーフに、大谷石を使って製作されたもの。過去2回ほど場所が移転されたが、現在はJR宇都宮駅西口の2階デッキ(広場)に設置されており、絶好の記念撮影スポットになっている。

「餃子像」は現在、JR宇都宮駅前にある

さて、大谷石と餃子尽くしの宇都宮の旅、いかがだっただろうか? 真夏でも涼しい大谷資料館を見学し、餃子を食べてスタミナをつけ、「餃子像」前で記念撮影すれば、かなり充実した夏の日帰り旅行になるのではないだろうか。

※記事中の情報は2016年8月時点のもの。価格は税込

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に撮影・取材を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。