本来であれば、Windows 10無償アップグレードは2016年7月29日で終了するはずだった。日本マイクロソフト関係者も延長することはない、という説明を以前から行ってきた。

Windows 10を入手する (GWX)を起動すると、キャンペーン終了を示すメッセージが現れる

だが7月30日以降も、障がい者向け支援技術利用者にはWindows 10無償アップグレードを提供し続けている。海外の一部IT系メディアは本施策を「Windows 10へ無償でアップグレードできる抜け穴」という表現で紹介しているが、それはあまりにも皮肉な見方だ。米Microsoftは5月6日の時点で、障がい者向けには無償アップグレードを続けていくことを公式ブログで明言していた。

「障碍者向け支援技術製品をご利用のお客様向けWindows 10アップグレード」を知らせる画面

古くからMicrosoftはWindowsのアクセサビリティ機能強化に努めてきた。Windows VistaからWindows 7にかけては、デスクトップ上の文字列を音声で読み上げる「ナレーター」が使えなかったが、後にWindows 7対応日本語音声合成エンジンを配布している。Windows 8.xおよびWindows 10では「Microsoft Haruka Desktop」という日本語音声合成エンジンを標準搭載しているため、特別な手段を用いる必要はない。

デスクトップ上の文字列を音声で読み上げる「ナレーター」。Windows VistaやWindows 7には日本語用音声合成エンジンが用意されていなかった

本稿執筆にあたって再確認したところ、日本マイクロソフトは「簡単操作センター」の各機能を説明する「Windowsのアクセビリティガイドブック」を用意している。Satya Nadella氏がMicrosoft CEOに就任した後は、「Empower every person and every organization on the planet to achieve more (地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする)」をビジョンに掲げて、この分野へますます注力するようになった。今回紹介したガイドブックにWindows 10版は含まれていないが、いずれ用意されることだろう。

Windows XPからWindows 8.xまでの「簡単操作センター」の各機能やショートカットキーなどを紹介する「Windowsのアクセビリティガイドブック」

さて、主題である障がい者向けWindows 10無償アップグレード施策だが、一つだけ気になる点がある。本来は対象外のユーザーでも、ライセンス認証が完了してしまうのだ。今回Hyper-V上のライセンス認証済みWindows 8.1上で動作を確認したところ、そのままデジタルライセンスによって認証が完了した。

ダウンロードした「Windows10Upgrade24074.exe」を実行すると、Windows10へのアップグレードが始まり、そのままライセンス認証が完了した

冷静に考えれば、Windows 10無償アップグレードと障がい者向けアップグレードで用いられるプロダクトキーを区別することは難しい。そのためライセンス認証におけるチェックルーチンもそのまま流用する形となる。今後、Microsoftがライセンス認証サーバーのロジックに手を加えるか不明だが、現状では実質的に無償アップグレードが続いている。

本件について日本マイクロソフト広報へ尋ねたところ、「障がいを持つ利用者の場合、期間が限定された中でアップグレードするのが難しいケースも考えられることから、期間を設けずに提供している」、と米国と同じく終了時期は未定であるとの回答を得た。また、「障がい者向け支援技術製品をご利用のお客様『だけが対象』」と強調している。

海外IT系メディアが本施策を「抜け穴」と指摘するのも一理あるのは確かだ。しかし、Windows 10のシェア拡大を目的に障がい者支援という言葉でカムフラージュしている、とまで深読みするのは、あまりに良心に欠けた見方ではないだろうか。

阿久津良和(Cactus)