インターネットの普及は、ビジネスや生活に大きな恩恵をもたらした一方で、新たな問題も生じさせた。その1つが、いわゆる「炎上」である。この炎上問題について、計量経済学を用いた定量的な研究に取り組むのが、慶應義塾大学 准教授・国際大学GLOCOM 主幹研究員の田中辰雄氏と、国際大学GLOCOM 助教・専任研究員の山口真一氏だ。両氏による共著『ネット炎上の研究:誰があおり、どう対処するのか』の出版を記念して、炎上事例と分類、炎上参加者のプロフィール、炎上参加者はどのくらいいるのか、どのように予防・対処すればよいかといった観点から、最近の調査と知見が披露された。両氏の講演内容から炎上について考察していく。

炎上はFacebookよりもTwitterに多い、その理由とは?

最初に登壇した山口氏は、「炎上の分類・事例と炎上参加者属性」というテーマで講演を行った。同氏は炎上について「ある人物や企業が発信した内容や行った行為について、ソーシャルメディアに批判的なコメントが殺到する現象」と定義。これまでの代表的な炎上事例として、一般人が店舗のアイスケースに入った写真をアップロードして炎上したケースを紹介した。この時には、商品に関する返金や店舗のアイスクリーム類の全撤去、ケースの清掃、消毒といった金銭的被害が発生した。同様の事例は複数発生しており、閉店を余儀なくされたコンビニも存在するという。

国際大学GLOCOMの助教・専任研究員 山口真一氏

“ネット炎上”は2011年に急増し現在では年間400件以上発生しているとされる。平均すると1日1回以上発生していることになる。

「2011年に増加したのは、Twitterなどの利用が普及したのに伴い、それまでソーシャルメディアを利用していなかった層が利用し始めたのが要因ではないか」と、山口氏は分析する。

実は、FacebookよりもTwitterの方が炎上発生件数がはるかに多いという。その理由について山口氏は、「Twitterの方がよりオープンなためだと考えられる」としている。

また従来からあったマスメディア報道などによる批判集中との違いを挙げると、1つは拡散力の違いがある。ソーシャルメディアなどで拡散されることで潜在的不満者の目に止まりやすくなったのである。2つ目は誰でも簡単に情報を発信できるという情報発信の容易化だ。3つ目は批判の可視化で、追随的参加者を生みやすくなった。そして4つ目はサイバーカスケードの存在である。サイバーカスケードとは、インターネットが持つ、同じ思考や主義を持つ者同士を繋げやすいという特徴から、集団極性化を引き起こしやすいことなどを指す。

実は少ない炎上参加者

続いて山口氏は、炎上の原因となった人物が「何をしたか」によって炎上のタイプを1型から5型の5つに分類。それぞれの分類に沿って過去の事例を紹介した。同氏が1型炎上として分類したのは、反社会的行為や規則・規範に反した行為によって炎上を引き起こすケースだ。また2型炎上は、何かを批判するまたは暴言を吐く、3型炎上は、自作自演、ステルスマーケティング、捏造の露呈、4型炎上はファンを刺激(恋愛スキャンダル・特権の利用)、5型炎上は、他者と誤解されて誤って炎上、となっている。

「全てのタイプに共通しているのは、“インターネットユーザーの間にある規範に反した行為”を行っているということ。ただしその規範というのは犯罪や反社会的行為に限らないし、またユーザーも多数派だけではない」と山口氏はコメントした。

炎上になりやすい話題としては、食べ物、宗教、社会保障、格差、災害、政治、戦争関係の話などがある。

「あらかじめ炎上しやすい話題を知っておくことは、企業の広報などが炎上を予防するには特に有効かもしれない。それぞれのコミュニティ特有のマナーなど、インターネットユーザーの規範を知っておくことも必要だろう」(山口氏)

そしてもし炎上が置きてしまった場合の対処方法としては、“炎上の規模を考えること”、“炎上参加者は実は少ないことを知っておくこと”、そして“本当に謝罪が必要かどうか冷静に判断すること”がポイントとなる。炎上には一定のステップで拡大していくという流れがあり、まとめサイトなどに紹介される段階までいかなければ、致命的な炎上ではないと考えてもまず問題はないという。また少数の参加者が複数回発言しているだけの小さな炎上に過敏に反応し、発信を控えるようになったり、すぐに謝罪対応を行ったりする必要もない。

「批判が殺到する中でも、少なからず擁護コメントもあるようであれば、ある層のネットユーザーの規範に反してしまったものの、行為としては特に誤りではない可能性も高いと考えていいだろう」と山口氏は語った。