以前、「2016年は民営化元年」として今後の空港民営化について分析を行ったが、ここに来て民営化のシナリオが各空港において独自の展開を見せている。国管轄空港においては仙台空港民営化シナリオを基本的に踏襲して進行するものとみられていたが、民営化後の空港運営主体をめぐって各空港の思惑が交錯し、それぞれの地域で複雑な様相を見せている。今進んでいる4エリアを中心に、現状と問題点を整理してみたい。

空港民営化は空港・地域によって抱える問題が異なる(写真は新千歳空港)

個々の事情で方針が分かれる民営化要件

2016年に入って関空・伊丹、仙台空港が相次いで民営化されたのに続いて、現在、国が公表する民営化プロセスが進められているのは高松、静岡(主管は県)、福岡、北海道(複数一括)などである。神戸についてはここに含んでいないが、関空のコンセッションとの兼ね合いでデリケートな問題がありそうだ。今後の地方空港民営化は仙台を標準事例として進められるとみられており、基本的な事業移管の骨格は変わらないのだが、ここに来てそれぞれの空港や地元の思惑から、事業主体のあり方については考え方の違いが出てきているように思われる。

違いが出てきている要素としては、(1)地方自治体の出資・関与、(2)空港会社を含む地元企業の出資・経営参画、(3)航空会社の出資・関与があげられる。

これまでの関空・仙台の民営化においては、地方自治体や航空会社の出資は結果的に行われず、関空ではマジョリティーを持つオリックスとVINCIの他に、多くの地元企業が奉加帳的にマイノリティーで参加した。中には事業内容のシナジーがなく競合さえあり得るとして、不参加を決めたJR西日本のような事例もある。

また、仙台のビッドにはANAが大手デベロッパーやゼネコン等とコンソーシアムを組んで応募した経緯はあるが、最終的に選定されなかった。東急グループの事業運営案が最も高く評価された結果であることは間違いないが、複数の国内航空会社が乗り入れる空港において特定の航空会社のみが経営参画することから派生する、将来的なコンフリクトを回避する思惑も働いたとの見方もあるだろう。

関空ではオリックスとVINCIを筆頭に、多くの地元企業が参加した

このような中で、上記4空港の民営化プロセスがどのような違いを見せはじめているか整理してみたい。

県主導で動く高松、地元企業の参画に期待

7月8日に国から高松の民営化実施方針が示された。2015年のマーケットサウンディング(投資意向調査)時の骨格と大きな変更はないが、高松特有の要件として話題になった「航空会社の経営参画を実質的に排除=新運営事業者(SPC)は航空会社の関連会社になれない」はそのまま踏襲。「関係自治体(香川県)が25%未満の出資と常勤取締役を派遣」は県と航空局との調整の結果、「10%まで、取締役は非常勤」という若干穏やかな形に収まった。

7月6日には高松に香港エクスプレスが就航した

高松はここ数年、外国航空会社の新規就航を次々と実現させ、日本の空港の中でも有数の旅客数の伸びを示している。これは、香川県の年間5億円という他県に比して非常に大きな規模の誘致施策費用の支出やトップセールスの成果とみられている。しかし、外交誘致活動を今後進める上で、利便性のいい時間帯のスポットや周辺施設が不足し、この調整に国内大手エアラインの協力が得られないことへの空港・県側の不満が大きくなっている。このことが、SPCによる空港運営への航空会社影響力の低減方針に向かわせたとの見方が強い。

県のSPCへの資本参画については、今後の高松へのエアライン誘致を進める上で、県の予算上の支援が不可欠であることから理解されうる。しかし、本来の民営化の目的である「新たな民間からの資本・資源・アイデアの導入による空港運営の活性化」を図るためには、SPCに相応の主導権を担保する必要があるとの考えから、出資比率は現在の10%レベルに落ち着いたと言える。

高松では民営化を進める上で、地元企業の参画意識が乏しいとの声も聞かれるが、民営化時期は福岡や静岡より1年早い。候補となり得る一通りの著名企業群はラインナップに名を連ねているようだが、本格的な興味を示しているのは一部の上場中堅企業くらいとの情報もある。今後の焦点は、どれだけ多くの有力な企業群が「今後の民営化全国展開のとっかかり」として高松に応募してくれるか、にかかっていると言える。

静岡も県主導、先行きはまだ不確定

一方、静岡の民営化基本スキームは5月19日に静岡県が公表している。最速で平成31年度からの事業継承となっており、オリンピックイヤーまでに新運営権者による空港運営を落ち着かせたいとの県の意向がうかがえる。応募要件等を見てみると、航空会社および関連会社の参画を実質的に不可(SPCはエアラインや親会社の関連会社にならないこと)としている点は高松と同様だが、最終的に県を含む既存空港会社の株主がSPCに参画する形になるのか、資本関係とは別の連携関係を構築するのか、まだ明確でない。

県の示した基本スキームでは、新運営権者は地元企業との良好な連携関係をどう築くかを提案することが求められているが、現時点では上記制約からフジドリームエアラインズの親会社である鈴与は、SPCの主導権を取ることができない状況にある。実施方針が出されるのは2017年4月頃と言われるが、このまま鈴与がマイナーポジションしか取れないのか、静岡鉄道やスズキ等の地元企業がどのように参画を企図するのか、福岡とほぼ同じタイミングでプロセスが進められる中で県外の有力企業が応募してくるのかどうかなど、今後注視が必要な状況にある。

静岡がベースのフジドリームエアラインズ。その親会社である鈴与は現在の基本スキーム案では主導権をとることができない状況にある

県主導の両空港に比べ、ここに来ての福岡と北海道はやや状況を異にする。続いては、福岡と北海道の現状と問題について考察していきたい。