半導体市場調査会社である米IC Insightsは2016年7月末に発行した「The McClean Report 2016年年央更新版」において、中国政府の1999年以来15年余りにおよぶ半導体産業強化策について分析を行った。

中国政府は、過去20年にわたり、ICの輸入と自国内でのIC生産との間のギャップに欲求不満になっている。ここ数年は、中国の半導体輸入額がついに石油輸入額を超えてしまったと中国内外でマスコミにもセンセーショナルに取り上げられている。

IC Insightsは、1990年後半から本格的に開始された中国政府の半導体産業強化策を以下のような3段階にわけて調査を行ったという。

第1段階:ファウンドリ集団の構築は不成功

1990年代後半に中国政府は、国内IC産業を育成しようと本腰を入れ始めた。まず、1997年に上海華虹と日本のNECとの合弁企業半導体メーカー「華虹NEC」の設立を支援した。中国政府は、第10次5カ年計画(2000-2005年)の一環として、有力な中国ベースのICファウンドリ産業を構築することが当時の優先事項だった。その結果、ファウンドリ専業のSMICとGrace Semiconductor Manufacturing(後に上海華紅と合併し、現在は華虹半導体)の2社が2000年に設立され、3番目のファウンドリとしてXMCが2006 年に誕生した。

IC Insightsは、1990年代後半以降のファウンドリ産業構築の努力を、中国のIC産業強化戦略の第1段階と分類している。残念ながら、中国では、この時期に、国際的に競争力ある有力ファウンドリ集団は育たなかったというのが、IC Insightsの評価である。

図 中国半導体市場規模(赤印)と中国半導体生産規模(青印)の推移。中国半導体市場における中国製半導体のシェアは2009年で7.8%(実績)、2015年で12.7%(実績)、2020年が20.9%(予測) (横軸が西暦、縦軸が10憶ドル) (出所:IC Insights)

第2段階:ファブレス集団構築も不成功

2000年代初頭には、国内ファウンドリの売り上げを高めるだけでなく、世界規模のファブレスICサプライヤの成長の波に乗るために、中国政府は中国のファブレス企業の創出のための環境を整備しようとする試みを始めた。現在、中国のトップ10ファブレスICサプライヤの内8社は2001年から2004年の間に創業し、中でも7社は、2015 年の世界ファブレス企業売上高トップ50に入っている。中国のIC産業戦略において、IC Insightsはこの段階を第2段階として捉えている。

この間、中国に世界で通用するような有力なファブレス集団が構築されたとは言い難い。

第3段階:国際的な企業や知財権の買収は進行中

強力な中国IC産業を構築する政府の試みの第3段階は、第13次5カ年計画(2015年から2020年まで)の開始直前の2014年に始まったとIC Insightsは考えている。この段階は、中央政府の巨大な「軍資金」を使って国際的なIC企業とそれに関連する知的財産を買収することを意図している、同時に、中国の既存のICメーカー(例えばSMICやXMCなど)に追加的な資金を提供したり、新しいICメーカー設立に補助金を提供するためにも使われる。第3段階は現在進行中である。

表 中国政府の3段階の半導体強化戦略。第一フェーズのアプローチ(手法)は「強力な国内ファウンドリ専業集団を構築する」(不成功)、第二フェーズのアプローチは「強力なファブレスICサプライヤ集団を構築する」で、現在進行形の第三フェーズのアプローチは「創業、買収、合併などにより有力国内半導体メーカーの基盤を構築する」といったところとなる

米国政府の介入が中国IC自給自足を促進

2016年第1四半期に、米国商務省は米国のICサプライヤが自社のICを中国大手通信機器メーカーZTEに輸出することを禁止する決定を下した。これは、米国政府が貿易制裁発動中のイランにZTEが通信機器を出荷した疑いがあるためとされている。米国メーカーのIC輸出禁止措置が完全に実施された場合には、ZTEの通信機器(携帯電話を含む)の販売に壊滅的な影響を与えるだろう。しかし、米国商務省がさらに詳細に調査するとの理由で、輸出禁止措置の実施は、2016年8月30日まで延期されている。

ZTEを取り巻くこのような状況や米国政府による米国製IC輸出規制に関する2016年初めの突然の発表は、中国政府だけでなく、中国の電子システムメーカー全体に衝撃を与えている。この時点で、このような中国の有力エレクトロニクス企業に対して米国政府がとった衝撃的な制裁は、半導体の自給自足体制を一刻も早く構築したい中国政府の決意を新たなモノにしている。