会社の中で多様な人材が働き続ける上で、どんな課題があるのだろうか。そのヒントを探しに、女性活躍推進における課題解決を研究する「JALなでしこラボ」の研究発表会に行ってきた。

「JALなでしこラボ」1期生ラボプロジェクト研究発表会

日本航空(JAL)グループでは昨年9月、有志社員3チーム(各5~6人)からなる「JALなでしこラボ」を設立。女性をはじめとした多様な人材が生き生きと働き続けるためにはどうすればよいのか、通常業務と並行しながら定期的に集まり議論を深めてきたという。

この取り組みについてJALなでしこラボ事務局の中丸亜珠香氏は、「職種や会社ごとに抱える課題が異なる中、誰もが働きやすい環境を整え社員が生き生きと輝けるようにするためには、皆で知恵を出し合って解決策を考える必要があるのではないか、また社員一人ひとりが自分ごととして考え取り組みを進めていかなければ真のダイバーシティは実践できないのではないかと考えました」と話す。

7月7日に行われた研究発表会では、1期生がそれぞれ課題に対する打ち手を会社の経営陣に対し提言した。

女性が管理職を目指すために必要なこととは?

"意識"を切り口に研究した「Nk-SYSTEM」チームは、女性がやりがいを持って長く働き、管理職を目指すためには何が必要なのか発表した。

女性が管理職を目指すために必要な"意識"を探った「Nk-SYSTEM」チーム

メンバーが社内で実施したアンケートでわかったのは、「JALグループの女性はやりがいを持って長く働きたい、しかし管理職になりたいとは思っていない」ということ。なぜ管理職になりたいと思わないのか。個別インタビューを通して聞こえてきたのは、「結婚したら仕事と家庭の両立ができない」「今の部署のままでいい」「今の管理職を見ていてなりたいとは思えない」「身近に理想とする管理職がいない」という声だったそうだ。

そこからメンバーが見いだしたキーワードは、「ジョブローテーション(戦略的人事異動)」「ロールモデル」だった。

アンケートやインタビューを通して、ジョブローテーションの回数が多い人ほど成長意欲が高いことを発見。ジョブローテーションを通じて得られる経験や気付きから、環境の変化、ストレス、重圧に対して強くなると結論づけた。

さらに管理職に対して「目指したいロールモデルがいない」「育児や介護をしているような同じ境遇の人がいない」「目指したくない『アンチロールモデル』がいる」といった意見があることを紹介し、それに対し、さまざまな人から参考になるパーツを集めて自分なりのロールモデルを形成することを提案。「自分なりのロールモデルを形成するというマインドセットを行うことが、女性の長期継続及びキャリアアップを考えるきっかけになる」とした。

さらに、管理職へは部下とコミュニケーションを密に取り、管理職の仕事とは何か、働きぶりを見せていくことが必要だと訴え、キャリアステージ、ライフステージごとに「管理職パネルディスカッション」を行うことを提言した。

女性が管理職になる"壁"とは?

「ブレイク・シーリング」チームでは、"ポジション"を切り口として「女性が管理職になるには壁があるのか?」をテーマに研究を行った。このチームがグループ内で行ったアンケートでは、男性比率の高い職場では50%以上が「女性が管理職になるには壁がある」と感じていることがわかったという。

女性が管理職になる"壁"について調べた「ブレイク・シーリング」チーム

その壁の内容として女性側から挙がっていたのは、「時短勤務をすると評価が下がると感じる」「男性に有利な評価制度となっている」といった評価への納得感がないこと、「上司は部下に積極的に関わろうとしていない」「職場の人のプライベートをよく知らない」など職場内でのコミュニケーション不足、「育児休暇復帰に対して職場の理解がないと思う」「復帰の制度が整っているとは思わない」という育児休暇後の働きにくさなど。男性側のコメントからは、「重要な仕事は男性に任せるほうが安心だ」「女性が上司だと抵抗を感じる」など男性中心の社会風土が見えてきたそうだ。

どうやったら壁がなくなるか、その打ち手としてチームでは「(1)仕事と家事、育児をスムーズに両立させるための制度による両立支援」「(2)コミュニケーションの場所・機会の創出」「(3)多様性を理解し納得できる評価につながる評価者研修」「(4)フレックスタイムや在宅勤務など時間を有効に使うためのワークスタイル変革」を掲げた。

とくに「(2)コミュニケーションの場所・機会の創出」に対して、毎日朝行う簡単なグリーフィング「朝活」を紹介。この朝活により話しやすい環境をつくり、上司と部下の間でキャリアについて会話をしたり自分の気持ちを伝え合ったりすることでキャリアアップにつなげることを提言した。

介護と仕事を両立するためには何が必要?

「つむぎ」チームでは、長く安心して働くためには何が必要なのかという"継続性"を切り口に、介護問題に着目。「女性だけではなく男女問わず直面する可能性があり、日々懸命に介護に向き合っている人がいるにもかかわらず認知度が低い」と問題提起した。

介護と仕事の両立をテーマとした「つむぎ」チーム

調査の結果、JALグループで今後5年のうちに介護に直面する可能性がある社員の割合は75.3%。そのうち「実際に介護に直面した場合、今の職場で仕事を続けられる」と回答したのは、22.3%にとどまったという。今後も介護を必要とする人が増えることから、「介護を乗り越えることはグループの持続的な発展に必要」と強調した。

このチームが実施したアンケートによると、JALグループで現在介護中の社員は全体の8.5%、すでに介護経験のある社員は10.8%と、合わせて約20%の社員に現時点で介護経験がある。だが社内の介護支援制度の利用率は1割に満たなかった。制度を利用しない理由には、「同僚・上司の理解が得られない」(26.0%)、「制度が個々のニーズに即していない」(14.6%)などがあったという。

これに対し、仕事と介護の両立には「介護を担う社員の心身の健康維持」「社員の知識向上」「同僚、上司、家族の理解」「多様な介護や勤務にあう制度」の4つが必要だとし、それらに対する打ち手として、5年間のアクションプランを提示した。仕事と介護の両立に向けて「知識向上・理解醸成」「支援制度の再構築」「定着」の3つのフェーズに分けて行動し、さらにグループのサービス提供に生かす「社会貢献」へもつなげていくというものだ。

すぐ取りかかる具体的なアイデアとして挙げられたのは、コミュニケーションツール「介護サポーターバッジ」の普及。グループ内で、介護について関心がある人、応援したいと思っている人が自発的に着用するバッジだ。「介護問題について話しやすい・相談しやすい職場環境をつくることが、周囲の理解やサポート体制促進や介護者本人の精神的ストレス緩和となり、みんなで支えあって乗り切る介護が実現します」と締めくくった。

日本航空の植木義晴代表取締役社長

研究発表会の講評にあわせて、日本航空の植木義晴代表取締役社長は「女性のみんなが本気になって上を目指す、そんな会社をつくっていきたいと思います」と宣言した。