米マイクロソフト(米MS)は、クラウドサービスの新製品として、Microsoft Dynamics 365を発表。今年秋から出荷を開始する。同社のCRM製品である「Dynamics CRM Online」と、「Dynamics AX」をひとつのサービスとして、Microsoft Azure上から提供。営業、フィールドサービス、マーケティング、顧客サービス、プロジェクトサービスの自動化、内部管理などの特定ビジネス機能の管理のための新しい目的別のアプリを提供。「クラウドで利用できるエンド・トゥ・エンドなインテリジェントなビジネスアプリケーション」と位置づける。

マイクロソフト Dynamics アジア地域担当バイスプレジデントのサイモン・デイビス氏

マイクロソフト Dynamics アジア地域担当バイスプレジデントのサイモン・デイビス氏は、「業務プロセスを変革したいという要望に応えることができるのがDynamics 365。それぞれの機能が分離したサイロ型ではなく、統合型製品として活用できるほか、デジタル変革のためにプラットフォームにもなりうる」と語る。

Dynamics 365の主な特徴として、現状のビジネスにあった状況からスタートし、自社の成長にあわせて拡張できる柔軟性を持つほか、業務プロセスを見直しする上で、生産性の高いツールを活用した従業員の変革支援を実現。標準装備のインテリジェント機能の活用や、柔軟性および拡張性を持ったアプリケーションとプラットフォームの実現により、成長にあわせた迅速な対応が可能になるという。

Dynamics 365の特徴

また、新たに提供されるマーケットプレイスであるAppSourceとも連携。AppSourceには200以上のビジネスSaaSアプリ、アドイン、コンテンツパックが提供され、活用の幅を広げることが可能だ。さらに、共通データモデルの採用により、Office 365やPower BI、Cortana Intelligence、Azure IoT、サードパーティーのビジネスアプリケーションと連動する環境を整え、「AppSourceを使って、新たなソリューションを探すことができ、パートナーが持っている深く、広範囲なソリューションとの連携も図ることができる。予測的な洞察、規範的助言、行動指針を提供することが可能になる」(マイクロソフトのデイビスバイスプレジデント)という。

AppSourceの画面

例えば、Cortana Intelligenceでは、営業担当者に顧客が次にどの商品やサービスを必要とするかを予測できるよう支援するクロスセルの分析を実現。Dynamics 365 for Field Service内のIoTデータにアクセスすることで、現場サービス担当者は資産モニタリングと異常検知を結び付けて、障害が起こる前に対策を取り、顧客サービスにおいてとくに費用のかかる問題を回避できるようにもなるという。

また、営業担当者がメールを受信し、Office内で財務とセールスアプリから得た情報に基づいて正しい価格と値引きなどを適用し、作成した見積書を返信し、適切なアプリに記録することができ、担当者はこれらのすべての作業をOutlookの外に出ることなく行うことができるといった活用が可能だという。

さらに、ソフトバンクが提供しているPepperとの連動では、Dynamics 365で管理している顧客データをもとに、よりパーソナライズした顧客サービスが店頭などで行えるようになるという。

Dynamics 365には、中堅・中小企業向けの「ビジネス」と、大手企業向けの「エンタープライズ」が用意されるが、中心なるのは、中堅・中小企業をターゲットとした取り組みとなりそうだ。

同社によると、Dynamics 365アプリは、容易に、そして、個別に展開可能なように設計されており、まず小さく始めて、必要なだけの機能分の料金を支払えるという。また、各アプリはシームレスな連携を行うため、ビジネスの要件に応じて容易に機能を追加することができる。機能群のなかには、組み込み型の分析、予測インテリジェンス、ワークフローの最適化などの機能が含まれており、これらはいずれもシンプルで使いやすさを追求し、オフライン機能も備えたモバイルな体験を通じて提供されるという。

そして、既存のDynamics CRMからの移行プロセスも用意し、「新たな環境への移行の際には顧客やパートナーに負担を強いることはない」とした。

米マイクロソフト ワールドワイドコマーシャルビジネス担当のジャドソン・アルソフエグゼクティブバイスプレジデント

米マイクロソフト ワールドワイドコマーシャルビジネス担当のジャドソン・アルソフエグゼクティブバイスプレジデントは、「Dynamics 365の特徴は、Office 365との深い統合により、比類のない生産性を実現。Power BI、Cortana Intelligence、Azure IoTとの双方向での情報連携や高い柔軟性、強固なセキュリティと、高い信頼性を提供することができ、デジタルトランスフォーメーションへと導くことができる点にある。これは、Salesforceにはない、Dynamics 365ならではの特徴だ」とする。

視認性の向上、ワークフローの自動化、そして予測分析などのために追加料金が発生することがないのも、Dynamics 365のメリットだとする。

また、わずか10カ月前まで、セールスフォース・ドットコムに在籍していたというマイクロソフトのデイビスバイスプレジデントは、「これまでにも、Dynamicsは、Salesforceに負けていたとはいえない。CRMに関わる3つのソリューション分野においてリーダーのポジションにあり、顧客がその価値を高い評価している」と前置きし、「Salesforceは、カスタマエンゲージメントのためのツールであり、そこで高い評価を得ている。しかし、カスタマエンゲージメントだけでは、企業のデジタルトランスフォーメーションは実現できない。Dynamics 365は、様々なソリューションとの組み合わせが可能になり、データ連携が可能だ。また、ハイパースケールのクラウドインフラの上で利用でき、高い拡張性と柔軟性を持つ。Office 365との連携や、Cortana Intelligenceとの連携も可能だ。企業の変革を視野に入れるのならば、選択肢はDynamics 365しかないといえる」と自信をみせる。

昨年、マイクロソフトは、唯一独立していたDynamicsの組織を統合。その結果が、今回の製品につながっているといえる。

これまでDynamics 365は、明らかにSalesforceの後塵を拝していた。だが、Dynamics 365によって、Salesforceにはない特徴が明確に打ち出せるようになったともいえそうだ。