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精度編

9. 精度にまつわるトラブル

「あれ?寸法がおかしい」。3Dプリント品を受け取った多くの人が寸法に関するトラブルに見舞われていると思いますが、3Dプリント品にCNCや射出成型品クラスの精度を求めるのは現時点では出来ません。要求精度が厳しい場合、製造装置として3Dプリンタを使用すること自体が根本的な間違いかもしれません。しかし、3Dプリンタの選び方によっては、要求仕様を満たす場合もあることを覚えておくと良いと思います。

・根本的に幾何公差は大きい
3Dプリンタは古くは積層造形方式と呼ばれていました。造形する際には3Dデータを最下部から最上部までスライスした2次元データを1層ずつ作り、それを積み重ねることで最終造形物を作成します。

もし1層1層にわずかでもずれが生じていると、下図のように幾何公差は良くなりません。

・レーザーで材料を固める方式の精度
材料を紫外線で硬化させる光造形機や粉末を焼結させるSLS方式など造形にレーザーを用いる3Dプリンタの場合、レーザーのスポット径が精度に影響を与えます。

光造形機やSLS方式ではレーザーのスポット径が精度に影響を与える

3Dプリンタによって異なりますが、スポット径よりも細かい部分は描画しない為、"造形されない"か、"描画してしまい設計値よりも造形物が太ってしまう"ということが起こります。

またレーザーが固める材料には厚みというものも存在します。その厚みはプリンタごとに異なるため、サービスビューローのスタッフがプリンタに合わせて3Dデータを補正しますが、わずかなずれは生じてしまいます。

・ノズルから噴射する方式の精度
バインダー方式やインクジェット方式のようにノズルから接着剤や材料を噴射する方式の3Dプリンタは紙のプリンタと同様にドットで構成されている為、精度はdpi値で示されます。

もちろん最小ドット以下の精度は出せませんし、紙のプリンタ同様に滲みが発生し、それが精度の悪化を招きます。

・2次加工が必要な方式の精度
鋳造用のワックスを造形したり、造形物を焼成し完成品とするポストプロセスが必要な造形方式では、ポストプロセスでサイズが変動してしまいます。

ほとんどの場合、3Dプリンタの出力物よりポストプロセス後の完成品の方が収縮します。このようなプリンタは形状の再現性は高いですが、寸法の再現性は低い場合が多いです。

10.可動パーツを作るとき

複数のパーツで構成された可動する構造物を一度に出力できるのは3Dプリンタの醍醐味の1つです。

このような可変パーツも3Dプリンタで一度に造形できる

ただ、これは全ての3Dプリンタでできるわけではありません。可動パーツが作れるかどうかは3Dプリンタに依存する為、注意が必要です。多くの造形サービスは、どの素材が可動パーツを作成できるかの情報を公開していますので、初心者の方が可動品を作る場合は必ずその情報を入手しましょう。

もう1点、組み合わせるパーツ同士のクリアランスも非常に重要です。

前項に記載しましたが、3Dプリンタの精度はあまり高くありませんのでクリアランスがあまりに小さいとパーツとパーツがくっついてしまいます。

また造形方式によってはパーツ間のサポート材が除去できなくて、くっついていなくても、可動しないという事態が発生します。

必要なクリアランスもやはり3Dプリンタごとに異なるため、各造形サービスが提示している値を頼りにデータ作成を行いましょう。


多くのことに注意を払う必要がある3Dプリンタですが、それを上回る魅力を備えています。欠点を理解することでより多くの利点も見えてくると思いますので、積極的に活用していってください。

著者紹介:川岸孝輔(かわぎし こうすけ)

株式会社DMM.com 3Dプリント部門サービスマネージャー
前職は星野楽器株式会社で約9年間にわたって製品企画から外装設計、電子回路設計にコーディングとマルチエンジニアとして働き、複数の製品を世に送り出した。