近年の円安、周辺諸国の所得の上昇、ビザ交付条件の緩和などで、外国人観光客が来日しやすい条件が整備された。増加する訪日外国人旅行者(海外から国内に来るという意味でインバウンド)に向け、国内関連企業はどのようにビジネスを拡大させていくべきか。本稿では、データや訪日外国人旅行者が抱える不満を基に、ITを活用した対策を考えてみたい。

現在の訪日外国人旅行者の消費動向

観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、平成27年(2015年)の訪日外国人旅行消費額が3兆4771億円(前年比71.5%増)、旅行者数が1974万人(前年比47.1%増)、1人当たりの旅行支出が17万6167円(前年比16.5%)だったという。

国籍別に旅行消費額の内訳を見ると、首位の中国が40.8%、台湾、韓国、香港、米国の2位以下を合わせて、トップ5で全体の4分の3超を占める構成である。費目別に消費額を見ると、「買い物代」の構成比が拡大している(図1)。

また、同報告書によれば、この買い物代の多くを占めるのが、中国(8088億円)、台湾(2188億円)、香港(1100億円)である。購入商品の内訳は、品物の単価も安いものから高いものまでさまざまであり、お菓子などの食品から、化粧品・医薬品、電気製品、衣料品まで多岐にわたる。購入場所も免税店だけでなく、百貨店、家電量販店、コンビニ、スーパー、ドラッグストア、観光地の土産物店までありとあらゆる商業施設に立ち寄るようだ。

図1:費目別に見る訪日外国人旅行消費額の内訳 資料:「訪日外国人消費動向調査 平成27年年間値(確報)」

訪日外国人旅行者の不満に見るインバウンド対策の課題

海外からの観光客が2000万人を超える時代を目前に迎え、小売、旅行、観光業はどのような課題を抱えているのだろうか。

今年1月に総務省と観光庁が発表した「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査」の結果によれば、訪日外国人環境客の不満として最も多いものは、「無料公衆無線LAN環境」「施設等のスタッフとコミュニケーションがとれない」であった(図2)。

また、図2を詳しく見ると、聞く・話すのコミュニケーションだけでなく、「他言語表示(観光案内板など)」「他言語地図、パンフレットの入手場所が少ない」「他言語で表示されている内容がわかりにくい」といった、読むコミュニケーションをサポートする方法にも問題があることがわかる。

図2:訪日外国人旅行者が体験した課題 資料:「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査」

整備が急務の「公衆無線LAN環境」

筆者が海外旅行に行く際、目的地は東南アジア、北米、欧州が中心であるが、空港や鉄道駅、宿泊施設、美術館や博物館など、大抵の観光施設で無料のWi-Fiが提供されている。場合によってはカフェや飲食施設でも、パスワード(毎日変わる)を書いた小さい紙をもらって、インターネットに無料で接続することができる。

しかし、日本国内では、宿泊施設のWi-Fi環境は有料のところが少なくないし、無料でWi-Fi環境を提供する観光施設自体が少ないようだ。無料のWi-Fiがあったとしても、事前登録を求める方式が主流であり、特別な設定を必要としない方式を採用している海外とのギャップを感じる。短期滞在の外国人観光客ならば、日本語の登録画面を見て途方に暮れるかもしれない。

海外旅行の前から、自宅のPCで日本のことをよく調べている旅行者は多い。従来は、ネットカフェのように、PCを使える場所の情報を提供するニーズが大きかったが、最近のスマートフォンの普及で、旅行者の情報源はモバイルにシフトした。旅行者としては、移動中にその場でモバイルアプリを用いて、交通機関のルート検索や、飲食店情報を得たい。こうしたその場の状況に応じた情報収集に最低限必要なインフラが、無料のWi-Fi環境であり、改善の余地が大きい分野となっている。

コミュニケーションと他言語対応

言葉が通じないことに関しては、「英語が通じない」ことが問題視されやすい。確かに、公共交通機関の案内所や宿泊施設などでは、担当者が英語でコミュニケーションができることが望ましい。しかし、昨今の訪日外国人旅行者の国籍で目立つのは、英語圏よりむしろ近場の中華圏や韓国である。ガイドが付くツアー旅行者であれば、言葉の問題は少ないかもしれないが、リピーターが多い個人旅行者の場合、看板や印刷物の表記が母国語であればうれしいと思うのが本音だろう。

かつての日本への観光旅行と言えば、成田空港から入国し、東京、箱根・富士山を経由し、名古屋・京都・大阪を観光し、関西空港から帰国する「ゴールデンルート」が定番であった。だから、コミュニケーションの問題は、こうした主要観光地の関係者のみが対応するべきものと考えられていたかもしれない。しかし、UNESCOによる日本の世界遺産登録数は19(文化遺産14、自然遺産4)と、ゴールデンルートから少し足を伸ばした地方にも多くの観光資源がある。リピーターを楽しませるためにも、地方の観光資源の開拓と認知度向上活動は欠かせない。

他言語対応に関しては、観光庁が2014年3月に発表した「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」が参考になる。使用言語は英語が基本であり、禁止・注意を促す内容については速やかに、また、名称・案内・誘導・位置を示す内容や、展示物などの理解を促すための解説を行うものについては、できる限り早期に、多言語対応などの措置を講ずることを勧めている。