プロジェクト「Digita Vaticana」

バチカン教皇庁図書館とNTTデータ、キヤノンの三者がウェルギリウスの叙事詩"アエネーイス"の最古の写本「Vat.Lat.3225」を最新の技術を用いて再現し、賛同金500ユーロ以上の寄付者に対して200部限定で配布することに合意した。賛同者は、プロジェクト「Digita Vaticana」のWebサイトから申し込める。9月から順次配布される。

このウェルギリウスの叙事詩"アエネーイス"の最古の写本「Vat.Lat.3225」は、Vergilius Vaticanus(バチカン版ウェルギリウス)として知られ、世界最古の図書館の一つであるバチカン教皇庁図書館が所蔵する貴重な人類史のひとつ。西暦400年ごろに作成された写本ということだが、トロイア戦争から逃れた主人公が新天地でローマ建国の礎を築いていくという壮大な叙事詩は、カエサルやクレオパトラからアウグストゥスたちが活躍した時代にウェルギリウスによって書かれており、刊行には初代ローマ皇帝アウグストゥスの意向もあったといわれている。

バチカン図書館には、キリスト教のみならず、イスラム教、ユダヤ教、ヨーロッパだけに留まらずコロンブス発見以前のアメリカ大陸から中東、日本にいたるまで、世界の歴史を数多くの蔵書が保存されている。NTTデータは、2014年4月からバチカン図書館所蔵の貴重文献電子化プロジェクトを開始しており、同社のデジタルアーカイブソリューション「AMLADR(アムラッド)」やこれまでに培ったノウハウを提供、バチカン図書館の公式デジタルライブラリーサイト「DigiVatLib」では、それらが公開されている。オープンなメタデータ基準、関連APIを採用し、インターオペラビリテイー(相互運用性)を実現し、国際的なデジタルアーカイブ基準IIIFに準拠した形で提供している。

IIIF(International Image Interoperability Framework)では、IIIF Image API、IIIF Presentation API、IIIF Search APIなど、HTTPやHTTPSのリクエストに応じた画像読み出しの最適化や、豊かなオンライン表示環境を実現するためのAPIなど各種情報を提供しており、学術や研究機関を念頭に高精細で大量にある画像をスムーズな動きで見やすい仕様を策定している。IIIFの公式サイトには、APIの仕様やデモ、各種オープンソースのイメージサーバーなどの情報も置いてある。

実際に「DigiVatLib」を訪れてみると、高精細な貴重な画像が並び、マウススクロールで縮小から拡大、拡大から縮小とサーバーにあることを感じさせない軽快な動きを見せる。左右のボタンを押すと、ページをめくる動作で次々にページを進んでいける。向かって右端に表示される小口のウィンドウには、拡大表示している場合の閲覧位置が赤枠で表示される。この赤枠を左右上下、回転させることでメイン表示の画像もそのまま連動して操作できる。PCのブラウザで動かしていることを忘れてしまうくらい、操作性が良い。

「DigiVatLib」にアクセスし、マニュスクリプト - Urb.lat.1を開いたところ。

拡大や縮小はマウススクロールで自在に。図は拡大したところ。とても高精細な画像であることがわかる

右下に現れる小口のウィンドウでは表示画像の操作が柔軟に行える

回転も迷うこと無くスムーズに行える。PCのブラウザで操作していることを忘れてしまう操作性だ

オセ社

さて、今回賛同者に対して限定配布される予定の「Vat.Lat.3225」には、キヤノングループのオランダはオセ(Océ)社のプリント技術も使われる。オセ社は、オランダのフェンロー(Venlo)市に本社を構える企業だが、その起源は1877年にまでさかのぼる老舗。現在はキヤノングループカンパニーとして、世界を相手にビジネスを展開する同社だが、バターやマーガリンのカラーリングマシーンの製造からはじまり、数年後のジアゾーコーティング(diazo coating)の発明など"イノベーション"から生まれてきた企業であることが同社のWebサイトに掲げてある。研究開発重視、技術志向の強い会社として文書/産業用印刷システム、高速大判デジタルプリントシステムの開発製造で名を馳せ、2010年にキヤノンの連結子会社となっている。

複製する「バチカン版ウェルギリウス」の対象ページ(キヤノン資料より)

今回の合意では、キヤノン独自の質感画像処理技術を用いてプリンターで出力できる"質感情報"に変換、これをオセ社の隆起印刷技術を用いることで「Vat.Lat.3225」の素材や表面の凹凸などの質感を再現する。西暦400年ごろに作成されたものだ。最新の技術の結集が、約1600年前の古く貴重な文献を質感まで含めて再現し、デジタル化により半永久的に人類のために保管されていくことになる。

キヤノンは、"共生"をその企業理念として、掲げている。文化、習慣、言語、民族などの違いを問わず、すべての人類が末永く共に生き、共に働き、幸せに暮らしていける社会を目指すことを意味している。同社のWebページには、それを阻むものが多いことも記してある。しかし、それでも「世界の繁栄と人類の幸福のために貢献していくこと」それが真のグローバル企業に求められると。バチカン図書館所蔵の貴重な蔵書は、東西を問わず、人類の歴史を刻んだもののひとつである。その保存行為は、まさに共生のための寄与する活動であると言える。

同社は、今回このプロジェクトにバチカン教皇庁図書館とNTTデータとの三者で覚書を交わし、「Vat.Lat.3225」を複製する。賛同金500ユーロ以上の寄付者に対して200部限定で9月より配布される予定だ。プロジェクトサイト「Digita Vaticana」のWebサイトから申し込める。