ブラザー販売は5日、インクジェットプリンター「PRIVIO」(プリビオ)の新モデルとして、「印刷コスト約2分の1」「最長3年の安心」を実現した「DCP-J983N」を発表。店頭予想価格は税別34,880円で、発売は8月上旬を予定している。大量の印刷需要に耐えるランニングコストに優れた製品で、同日には発表会も開催された。

印刷コスト約2分の1、最長3年の安心を実現した「DCP-J983N」

ビジネスモデルを見直す時期に

ブラザー販売 代表取締役社長の三島勉氏

発表会の冒頭では、ブラザー販売 代表取締役社長の三島勉氏が新製品の狙いと販売戦略を説明した。

国内におけるインクジェット複合機の市場規模は、2011年をピークに減少傾向が続く。これは年賀状の印刷需要が減少したことや、スマートフォン・タブレットの普及による個人のペーパーレス化が進行した影響によるものだ。

三島社長は「国内の家庭用プリンター市場は、販売数量ベースで規模の縮小が続き、年々厳しさを増している」と述べる。同社でも、販売戦略の見直しを急ピッチで進めているという。

国内のインクジェット複合機の市場規模は2011年をピークに減少(左)。これを受け、ブラザーでも販売戦略の見直しを進めている(右)

ブラザーの調査では、家庭用インクジェット複合機の利用者は「あまり印刷しない」か「毎月50枚以上の印刷を行う」で二極化しつつあるとの結果が出た。これを受け、同社は「機能性」を軸に製品ラインナップを充実させてきた従来の方針を見直し、今後は「印刷枚数」という観点でもユーザーに分かりやすく製品を提案していく考えだ。新製品のDCP-J983Nは、毎月50枚以上の印刷を行うユーザー層をターゲットにしている。

家庭用インクジェット複合機の利用者は「あまり印刷しない」か「毎月50枚以上の印刷を行う」で二極化

「印刷枚数」という観点でもユーザーに分かりやすく製品を提案していく。新製品のDCP-J983Nは、大量の印刷ニーズに応える家庭用機というポジショニング

また、ブラザーではDCP-J983N利用者の限定サービス「Brother Online ハイプリ」を開始する。通常の1年保証に加えて、1年保証が終わってから2年間で1回だけ無償修理サービスが受けられる。さらに外出先からでもインクカートリッジの型番や残量を確認でき、外出のついでにインク残量とカートリッジ型番を確認して、量販店で買って帰る……といった行動が可能だ。そのほかも機能も拡充される予定としている。三島社長は「印刷枚数でターゲット層を絞ることで、より具体的で確実な訴求ができる。ハイプリのような購入後のサービスを提供することで、長期利用を促せる」として、今後の販売戦略に期待を寄せた。

利用者限定サービス「Brother Online ハイプリ」には、無償修理サービスなどの特典を用意。長期利用を促していく

印刷コストが約1/2に

ブラザー販売 マーケティング推進部長の伊藤英雄氏

続いて、ブラザー販売 マーケティング推進部長の伊藤英雄氏が登壇して、DCP-J983Nの詳細を説明した。

まずはその利用シーンについて、伊藤氏は「在宅勤務で個人ビジネスを行う方、会社勤めだが仕事を持ち帰ることも多く、また家族全員で使いたいという方、学習塾や英会話教室、ピアノ教室などを経営されている方、自治体など地域の活動で利用したい方」といった具体例を提示していった。

では、日々たくさん印刷する人が重視するものとは何だろうか?

それについて、ブラザーは「インクカートリッジの価格」よりも「1枚あたりのランニングコスト」であると認識している。そこでDCP-J983Nでは、従来機と比較して印刷コストを約半分に低減させた。A4カラー文書1枚あたりのインクコストは、従来製品(DCP-J963N)では約8.5円だったが、DCP-J983Nでは約4.6円となっている。

ブラザーが想定するDCP-J983Nの利用シーン(一例)

インクカートリッジの容量も、従来比でブラックは約6倍、カラーは約2.5倍の大容量となり、印刷枚数が格段に増加している。伊藤氏は「インク代を気にせず、たくさん印刷していただけたら」とアピール。ちなみにインクカートリッジは大きくなったが、本体サイズは、従来比で横幅がわずか2cm増えただけだという。

DCP-J983Nでは印刷コストを約1/2に低減させた。インクカートリッジの大容量化も実現している

ブラザーが実施したグループインタビューでは、「多少は値段が高くても、保証が充実している方が良い」「保証期間は大抵の場合1年間だが、2年目以降にも利用したい」といった声が聞かれた。これを受けて、既述の「Brother Online ハイプリ」サービスを2016年11月に開始する予定だ。

大容量インク搭載、コンパクトな本体、安心の保証サービスが3大ポイントのDCP-J983N。ブラザーでは、販売目標を「PRIVIO全ラインナップで約50万台」としている

伊藤氏は、DCP-J983Nについて「従来モデルで充分にカバーできていなかった機能とサービスを補った製品」とも語る。販売目標については「PRIVIO全ラインナップで約50万台を目指す」と言葉に力を込めた。

消耗品の値上げについて

発表会の最後には、質疑応答の時間が設けられた。PRIVIOの販売目標50万台に対して、DCP-J983Nが占める割合について聞かれた三島社長は「ターゲット層そのものが小さいので、DCP-J983Nの販売台数が占める割合も小さい。ただ全体の採算という意味では、そこの部分でシェアを取ることが大きな意味を持つと思っている」とした。

質疑応答で記者団の質問に回答する、(左から)ブラザー販売 代表取締役社長の三島勉氏、マーケティング推進部長の伊藤英雄氏、マーケティング推進部の柳原隆男氏

記者説明会の最後に、インクカートリッジなど一部の消耗品について価格が改訂される見通しがアナウンスされた

「ハイプリ」という名称の由来について、ブラザー販売 マーケティング推進部の柳原隆男氏は「ハイプリントボリュームと、ハイタッチの意味をかけている」と説明。また、DCP-J983N利用者の想定印刷枚数について聞かれると「月100~200枚を印刷される方を、メインのお客さまと想定している」と回答した。

なお今回、インクカートリッジなど一部の消耗品についての価格改定もアナウンスされた(平均で約5%の値上げ。2016年9月1日からを予定)。説明を求められた三島社長は「プリンター製品を購入後、(年賀状などの印刷機会を除くと)日常的にはほとんど印刷しないというお客さまが多くなった。こうした背景から、ハードウェアの販売シェアを拡大してインクカートリッジの販売で利益を回収する、という従来のビジネスモデルが成り立たなくなってきた。そこで、製品と消耗品における収益の見直しを図っている。ただ消耗品を含めても、ブラザー製品がお得であるというポジショニングに変わりはないと認識している」と理解を求めた。