どんなにITが進もうと、企業にとって最も重要な資産は人材だろう。ましてや、日本は深刻な少子高齢化を迎えようとしており、日本企業にとって人材不足は大きな課題だ。とはいえ、自社がどのような人材を抱えているのか、きちんと把握できている企業は少ないのではないだろうか。

日本オラクルは人材管理クラウド「Oracle HCM Cloud」を提供しているが、ここにきて、人材採用活動と社員の目標・評価管理を支援するクラウドを中堅企業向け専用パッケージとして提供開始した。

そこで、日本オラクル 執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括 HCMクラウド統括本部長の首藤聡一郎氏に、日本の中堅企業が抱える人材管理における課題、それを解決するための策について話を聞いた。

日本オラクル 執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括 HCMクラウド統括本部長 首藤聡一郎氏

社員の離職を促す帰属意識の低さをどう解決するか

首藤氏は「企業にとって人材が重要なことは言うまでもないが、昨今、人材管理は優先度の高い経営課題となっている。例えば、ある大手金融機関では、グループ会社がそれぞれ独自に人材管理を行っていても、グループ全体ではその情報が管理されておらず、どのような人材がいるのかということが把握できない状態にある」と話す。

国内の中堅企業においては、「グローバル化への対応」「優秀な人材の獲得」「社員の多様化への対応」「優秀な社員の流出防止」が経営課題となっているが、これらに対し、人事領域では「採用チャネルの多様化」「社員のやりがいの醸成」「データに基づく迅速な意思決定」「採用コストの削減」に取り組むことによって解決を支援できるという。

こうした状況を踏まえ、同社は、今後の中堅企業の人事業務を支える柱として、「従来の『待ち受け型』採用からの脱却」「社員と組織が共に成長する仕組みの実現」を打ち立てている。

「厚生労働省の調査では、雇用消失率が最も高い企業は社員数が300人から999人の企業で、やめる理由は自己都合が70%という結果が出ており、帰属意識の低さが離職につながっている。そこで、社員の強みや希望を理解して、目標管理と評価を適切に運用することで、やりがいや存在意識を持たせ、モチベーションや帰属意識を経営に反映させる必要がある」(首藤氏)

同社は、中堅市場に向けた取り組みとして、中堅企業向け人材管理クラウドの販売、選任組織の整備、パートナーとの協業強化を行っている。

待っているだけではダメ、攻めの採用を

前述した、中堅企業の人事業務を支える柱「従来の『待ち受け型』採用からの脱却」を支援するのが、人材採用活動を支援するクラウド「Oracle Talent Acquisition Cloud for Midsize」だ。

Talent Acquisition Cloudは、社員による人材紹介プロセスを支援する機能、ソーシャル・メディアを通じた人材募集情報の発信、応募を受け付ける機能に加え、採用作業のプロセス管理、入社手続きを支援する機能、採用活動に役立つ分析機能などを提供する。

同社が言う「攻めの採用」とは、応募してくる人を待っているだけでなく、自社が求める人材に適した潜在層を見つけだし、関係を継続し、獲得するという「マーケティング」の考え方に即した採用を意味する。

そこで、社員は価値のあるつながりを持っていることに目をつけ、SNSを活用して、社員の人脈や自社のファンから人材を獲得することをサポートする。

Talent Acquisition Cloudでは、認知度の低さや面倒といった理由から企業で活発に利用されていない「社員紹介プログラム」をデジタル化によって活性化する。例えば、優秀な社員に自社の採用ポジション情報を適宜提供していくことで、社員紹介制度の定着と効果的な実行を支援する。また、社員が自身の知人に採用情報を教えたい場合は、数クリックでLinkdIn, Facebook、Twitterといったソーシャルメディアを介して知らせることができる。

友人に自社の採用を知らせる画面。紹介リンクの取得、メッセージの送信など、簡単に行える

また、現在の業務を一目で把握できるチャート機能、表・円グラフ・棒グラフなどにより出力できるレポート機能を活用して、業務状況をリアルタイムで把握・分析することで、業務の効率化と採用のスピードアップを実現する。

円グラフ、棒グラフなど、さまざまなグラフを出力できるレポート機能

データが最新の「使えるデータベース」を実現

もう1つの柱「社員と組織が共に成長する仕組みの実現」を支援するのが、社員の目標・評価管理を支援するクラウド「Oracle Talent Management Cloud for Midsize」だ。

Talent Managementは、組織の目標と整合性ある個人目標の設定を可能にし、目標に対する進捗の確認、直属の上司だけでなく任意の社員等が多面的に評価できる機能を提供する。

その特徴の1つが「人材育成につながる目標設定と評価プロセスの実現」だ。昨今、多くの会社が社員の業績評価を行うために、各社員に対し、目標を与えていることだろうが、それが必ずしも人材育成につながっているとは限らない。Talent Managementでは、組織と個人の目標の整合性をとり、進捗状況を容易に管理できる仕組みを提供することで、適切な評価をフィードバックする仕組みを実現する。

また、人材情報を蓄積したデータベースを評価プロセスと連動させることで、常に最新の情報に保ち、「使えるデータベース」にできる点も特徴だ。実際、人材データベースを持っていても、更新が滞っている企業が多く、いざ使おうとした時に役に立たないケースもあるという。

Talent Managementは、社員が自分の強みやキャリアの希望などを自己申告する「キャリア・プランニング機能」、管理職が部下のスキルや能力特性、離職のリスクや影響などを管理する「タレント・プロファイル」機能を備えている。評価シートにキャリアプランニング情報を組み込むことで、評価プロセスの中で情報の棚卸しが行われる。

管理職のレビューのコメント欄は、入力した評点から適切な候補が自動で表示される

さらに、ある業務に割り当てる人材を探している時、社員自身の希望と管理職による人材評価を組み合わせることで、柔軟な条件の下、適切な人材を探し当てることが可能だ。

同社は中堅市場に向けてパートナーとの協業を強化しているが、人材管理クラウドにおいても、既にパートナーによる販売が始まっている。

同社のパートナーであるNTCは、 「Oracle Talent Acquisition Cloud for Midsize」と「Oracle Talent Management Cloud for Midsize」のセットアップ、トレーニングのサービスを提供する。サービスの価格は55万円(税別)からだ。

NTC ソリューション事業推進部 コンサルティング部 部長の和田正明氏は、「大企業が使っている機能が豊富なオラクルの人材管理サービスをリーズナブルで利用できるのは、中堅・中小企業にとって魅力的」と話す。オラクルが設定している1ユーザー当たりの月額料金も両サービスを含んで約500円となっており、導入の敷居が低くなっている。

企業の最大の資産である人をいかにして効果的に活用していくかが、これからの企業の競争力となることは言うまでもない。人材管理の仕組みを持ちながらも、適切に運用できていない企業にとって、オラクルの人材管理クラウドは一助となるだろう。