KDDIと三菱東京UFJ銀行の共同出資で2008年に設立されたじぶん銀行は、独自の「戦略=Mobile Centric」と「ポジショニング=通信×金融」に基づき、先進的なサービス展開により事業を拡大させている。スマートフォンをメインチャネルに据えた同社のマーケティング戦略について、じぶん銀行 経営企画・マーケティング担当 執行役員 吉川徹氏に話を聞いた。

じぶん銀行 経営企画・マーケティング担当 執行役員 吉川徹氏

日本の"スマホ銀行"のトップランナー

"携帯電話にビルドインされたお客さま専用の銀行"という経営理念の下、設立からこれまで順調に成長を続けているじぶん銀行は、預金、決済、ローン、証券、FXと幅広い金融サービスを提供する総合型のネット銀行だ。携帯電話時代からスマートフォン時代へと変わった今、同社はスマートフォン・アプリの活用に注力しながら、既成概念にとらわれないビジネス展開を目指している。

吉川氏は言う。「親会社はどちらも日本を代表する企業であり、われわれに対する期待も高く、われわれ自身も日本を代表するネット銀行を目指しています。そのために、モバイルテクノロジーとともに、CRMやアナリティクスソリューションなどを駆使したマーケティング戦略に力を入れています」

同じ銀行という名称でも、メガバンクなど従来型の銀行とじぶん銀行ではビジネスモデルが大きく異なる。従来の銀行が支店店舗を基点としているのに対し、じぶん銀行ではモバイルバンキングを基点としているからだ。そのため既存のビジネスプロセスやシステムでは無理が生じてしまうため、柔軟性と敏捷性、そして創造性を兼ね備えた新しいブランドの銀行として独自の事業戦略を構築し、ビジネス展開を図ってきた。

「KDDIと三菱東京UFJ銀行の経営資源を活用し、通信と金融の融合による、また、ネットとリアルの利点を生かした、銀行サービスの提供と事業展開を進めています」(吉川氏)

じぶん銀行の顧客属性を見ると、20~40代の顧客が8割を占めており、男女比率は男性58%、女性42%となっている。他のネット銀行と比べて女性比率が高いのも同社の特徴である。モバイルをメインチャネルとした新しい銀行ビジネスモデルを日本で展開、成功しているとして、海外からの評価も高く、2013年11月には、米国の銀行・金融業界団体BAIから「革新的ビジネスモデル特別賞」を邦銀としては初めて受賞している。

「"スマホ銀行"の先行者として、世界からも認められていると自負しています」と吉川氏は言う。

KDDI・auとの連携強化、エコシステム構築を目指す

じぶん銀行では今後、「auスマートフォンユーザーのためのプライムバンク」を合言葉に、"au連携"を強めていく戦略を描いている。

KDDIでは、通信だけでなく電気や保険など、顧客の生活を支えるサービスを複合的に提供する「auライフデザイン」戦略に力を入れている。一方、プリペイドカードやクレジットカード、ネットとリアルの店舗などから成る"au経済圏"において、バリューポイントなどの経済的ベネフィットを顧客に提供することによる"au WALLET活性化"も進めている。

KDDIが狙っているau経済圏の最大化 ※KDDI 2016年3月期決算説明会の資料より引用

つまり、顧客はau携帯電話を契約していれば、生活を支えるさまざまなサービスを利用しながら、ポイントや金利優遇など金銭的なメリットも享受できるという構図である。じぶん銀行は、そうした"au WALLET活性化"やリテンション強化といったKDDIの戦略の要になっており、au・KDDIとのエコシステムが形成されつつある。

「実際に、当行のお客さまはauの解約率が低い傾向があることが、データ分析により判明しています。この先、KDDIが持つビッグデータと合わせて分析することなどで、どのようなお客さまがじぶん銀行を使ってくれているのか、よりはっきりと見えてくるようにしたいと考えています」(吉川氏)

UXを追求したスマホ・アプリ、設立当初からFintechを実践

じぶん銀行のネットバンキングのチャネル別アクセス比率を見ると、スマートフォン経由のアクセスが全体の8割を占めている。メガバンクや他のネット銀行ではPCの経由が大半を占めているのとは対照的だ。こうした高いスマートフォン比率を可能としている要因の1つが、使い勝手の良いスマホ・アプリの存在である。

すべての銀行サービスを、スマートフォンから取引できる同社のスマホ・アプリは、機能の多様性だけでなくUX(ユーザー・エクスペリエンス)にも配慮がなされている。

今年6月20日には、「じぶん仕様プロジェクト」を立ち上げた。同プロジェクトは「スマートフォンによる先進性と心地よい使い勝手」「わかりやすくタイムリーなコミュニケーション」「お客さまお一人おひとりに応じたサービス提供」「継続的な新機能追加とサービス改善」を目指しており、SASのデータアナリティクス製品を活用している。

「SASの製品は内外で実績が豊富なので、調査機関やコンサルティング会社などにも分析ノウハウが蓄積されています。製品のバリエーションも豊富なので、やりたいことや投資規模に応じてフレキシブルにシステムを構築できるのも重要なポイントでした」と吉川氏はコメントする。

同プロジェクトの第1弾として、スマホ・アプリを全面的にリニューアルした。新アプリの最大の特徴は、顧客のお金の動きが一目でわかるインタフェースを採用していること。ソーシャルメディアで採用されている「タイムライン」の導入により、顧客とのコミュニケーションやお金の流れを可視化するほか、預金状況や入出金の様子がグラフ化されて口座状況を直感的につかむことができる「サマリー」、顧客自身でよく使うメニューを設定してすぐにアクセスできる「マイメニュー」などを新たに提供開始した。

「一度口座を開いていただいたら、あとはスマートフォンで勝負するというのがわれわれの方針です。最近はFintechという言葉が流行していますが、当社は設立当初からFintechを実践していると言えるでしょう」と吉川氏は言う。

リニューアルされたスマホ・アプリの画面。左から、マイメニュー、タイムライン、サマリーの画面

アプリ開発とCRMを一体でプロジェクトを推進

じぶん銀行では、今後もスマホ・アプリを段階的にレベルアップしていく計画だ。第2弾として「お金のことがよくわかる」コンテンツのリリース、第3弾として「細かなことにも気の利く機能」のリリースを予定している。同社はIT戦略部がアプリ開発を担い、CRMに関してはマーケティング部が担当している。

「よりよいサービスを提供するためには、両部署が緊密に連携することが不可欠です。現在では、アプリ開発とCRM施工実行を一体で考え、1つのプロジェクトとして進めるようにしています」(吉川氏)

つまり、IT部隊とマーケティング部隊を束ねてプロジェクトをリードしていくことが求められているわけだ。

「経営戦略として大きなゴールを示してプロジェクトメンバーのベクトルを同じにし、道筋を整えることが重要と考えています。そこで具体的に何をやるかは、それぞれの部隊に考えてもらうようにしています。これから機能をどんどん拡張していくので、スピードを意識して、アジャイルな開発体制を取り入れるなど、チャレンジしていきたいですね」と吉川氏は語った。