【レポート】

バニラエアCA竹内さんの「一風変わった機内アナウンス」はこうして生まれた

何度も飛行機に乗っていると、離陸前の機内アナウンスをつい聞き逃してしまう人もいるかもしれない。しかし、時にはくすりと笑いながら、耳を澄まして聞き入ってしまうような機内アナウンスを披露してくれる客室乗務員がいる。"一風変わった機内アナウンス"としてメディアでも話題となったその人、バニラエアのシニアフライトアテンダント(チーフパーサー)・竹内幹さんだ。

ここが"一風変わった空の旅"の入り口だ(写真はバニラエアのシニアフライトアテンダント・竹内幹さん)

他社の最上級クラス会員からも好評

離陸前の機内アナウンスでは通常、搭乗便名、フライト時間、到着地の天候や気温、操縦士・副操縦士・客室乗務員の紹介等をし、その後、シートベルト着用の確認や緊急時の避難方法の説明をしてテイクオフ、となる。時間にすれば数分程度。しかし、その限られた時間の中で、「お客さまに喜んでいただきたい」という想いを込めて、竹内さんは"一風変わった機内アナウンス"をしている。

説明するよりも、まずは見てもらった方が早いだろう。以下の動画は2016年6月の807便(成田→那覇)の様子だ。よどみのない、実に見事なアナウンスである。


竹内さんがバニラエアに経験者採用で入社したのは2012年9月(当時は前身の旧・エアアジアジャパン)。訓練が終わってすぐに、シニアフライトアテンダントとして乗務に入ったそうだが、実はその頃より、この機内アナウンスを実施していたという。

「バニラエアには機内アナウンスのマニュアルがありますが、お客さまからご意見をいただかないというのを前提に、ある程度の裁量を現場の乗務員に与えてくれています。もちろん、非常用装備品や救命道具、シートベルトの使い方等の説明は法律で定められているので、それを網羅した上でですが。それでも、初めは社内から『どうだろう』という声がありましたが、すぐにお客さまからの反響があり、『問題がなければこのままでもいいのでは? 』と言う意見が社内で上がり、認めてもらえたんだと思います」(竹内さん)。

機内アナウンスで盛り込むべき情報は網羅した上で、お客を楽しませる演出を心がけている

竹内さんのアナウンスを聞いた乗客からは、「面白い」「楽しい」という声が届いているという。また、大手航空会社のマイレージ会員の最上級クラスの人から、「堅苦しいものより、こうしたものの方がいいよね」という声もあったそうだ。

「飛行機が若干遅れている時は、搭乗中のお客さまの顔を見て、『今日のアナウンスはどうしようかな』と考えます。自分の主観にはなりますが、『それでも、楽しそうな雰囲気のお客さまが多そうだな』と思った時は、あえてお詫びの挨拶をせず、あのアナウンスをすることもあります。

最近では、5分程の遅れでもお詫びのアナウンスをする航空会社も多いですが、そのアナウンスで逆に遅れていることを認識してしまい、イライラしてしまう人もいると思うんですよね。『それよりかは、明るくポップにやってくれた方が心が楽になる』、と言っていただけたこともあります」(竹内さん)。

実際にこのアナウンスをすることで、機内アナウンスの後に行う非常用装備品の使い方の実演も、しっかり見てくれる人が増えたと竹内さんは言う。なお、バニラエアは機内アナウンスに対して、特に何分以内にとは定めていないとのこと。空港によっては駐機場から滑走路までが近いところもあり、どの滑走路を使うか、また、航空管制から待機指示があればその時間も含め、「どのくらいの長さがちょうどいいかな」と考えながら、竹内さんは機内アナウンスの内容を柔軟に調整しているという。

「木村拓哉」から「櫻井翔」になるまで

バニラエアには2016年6月現在、客室乗務員は205人おり、ごくまれに、そのフライトで初めて顔を合わすというケースもあるという。竹内さんの機内アナウンスは、客室乗務員の生い立ちや趣味、特技、近況についても触れられているのだが、そうした情報はどうやって仕入れているのだろうか。

演出のためにはネタの仕入れも必要。それは同じ客室乗務員も心得ているようだ

「初めて顔を合わす乗務員には、当日の出社した時に本人に聞きます。何回も一緒に乗務している乗務員の場合は、特に改めて聞くことはしませんが、他の乗務員も自分があのアナウンスをすることを分かっているので、たまに『変えてほしいです』と申告してくる場合もあります。『私は最近、○○の免許を取りました』とかですね。

実際に、同様のアナウンスをしたいという乗務員もいましたが、まだ挑戦者はいません。結構、まとめ力が必要になるんですよ。短く完結にやらないと、お客さまも飽きてしまうので。でも、今後は自分が育てていけたらいいなと思っています」(竹内さん)。

竹内さんのアナウンスの中では特に、「そして私は客室を担当させていただきます、責任者の櫻井翔」というくだりに、前のめりになってしまう人も多いのではないだろうか。聞くところによると、実は初めは「木村拓哉」だったとのこと。

「『木村拓哉』は全国的に有名ですし、老若男女、多岐に亘って知られている人だと思いますので、まずは『木村拓哉』を使っていました。ですが、しばらくしたら次のバージョンを期待する声もあり、『嵐の櫻井翔が人気だな、小学校の同級生だな、使おうかな』ということで、半年~1年前から『櫻井翔』を使うようになりました。実際、同級生を介して、本人からもいい反応の意見がありました」(竹内さん)。

あえて竹内さんに声をかける乗客も多いよう

また、「これ見よがしにボタンを押してください」というフレーズも気になるところだろう。

「実際にお客さまから声をかけられたことはありますが、"これ見よがしにボタンを"ということはなかったと思います。……あっ、でもこの前、アナウンス中に押されたことがありました。その時は、『お客さま、今ではないですよ(笑)』とお伝えしました」(竹内さん)。

後輩から見れば「鬼教官」!?

こうした人柄が表れたサービスを通じて、竹内ファンになる人も多いようで、一般の人から空港内等で声をかけられることも多いそうだ。そんな竹内さんはチームリーダーとして指導に当たる立場にあり、客室乗務員のOJTにも対応している。その時の竹内さんは、機内で見かけるようなにこやかな姿とは打って変わり、後輩から「鬼教官」として恐れられるほどの厳しい顔つきになるそう。

「安全が第一ですので、ちゃんと理解して対応できているか、しっかりチェックします。お客さまの前では、自分は割と細かい方だと思います。普段はそんなこともないんですけど(笑)」(竹内さん)。

安全という絶対欠かせないサービスを厳守するために、「鬼教官」として指導に当たっている

2016年6月現在、バニラエアの男性客室乗務員は16人だという。男性ならではのサービスとしては、荷物の上げ下げを積極的にサポートできるということが挙げられるが、2016年のホワイトデーには、竹内さんの立案で男性客室乗務員だけが乗務する、2便限定の特別フライトを実施したそう。その際、全員が白のジャケットをまとうというサービスも披露。「毎年同じなのはつまらないので、何か別のことができれば」と、今後もサプライズを考えているそうだ。

2016年のホワイトデーには男性客室乗務員だけの特別フライトを実施

取材後の帰り道、「見送りでしたら、ここまででも大丈夫ですから」と伝えたところ、「いえ、"保安要員"として最後まで見送らせてください」という心意気まで見せてくれた竹内さん。バニラエアの客室乗務員は、全路線を対象にして乗務に当たっているという。つまり、どの路線でも竹内さんが乗務する機会に巡りあえるというわけだ。

もちろん、竹内さんに限らず、各客室乗務員がそれぞれのスタイルで機内アナウンスを行っている。今まで機内アナウンスを何となく聞き逃していた人は、ぜひ次のフライトでは注意して聞いてみていただきたい。

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