映画監督に出演役者の印象を伺っていく「監督は語る」シリーズ。今回とりあげるのは、2014年に公開された映画『愛の渦』で注目を受けて以来、独特の存在感で世間を魅了する女優・門脇麦(23)。第6回TAMA映画賞最優秀新進女優賞、第36回ヨコハマ映画祭日本映画個人賞最優秀新人賞、第88回キネマ旬報ベストテン新人賞など様々な評価を受け、芥川賞小説を映像化したNetflixオリジナルドラマ『火花』ではヒロインに抜てきされるなど、幅広い活躍を見せている。

初主演作となる映画『二重生活』(6月25日公開)では、研究のために見ず知らずの男性・石坂(長谷川博己)を尾行する大学院生・白石珠を演じるが、この非日常的なシチュエーションにおいて、役者・門脇麦は監督の目にどう映ったのか。

岸善幸監督(右)
1986年、テレビマンユニオンに参加以降、数々のドキュメンタリー番組を手がける。演出の他プロデュースでも、多くの優れた映像作品を生み出す。綿密な取材に基づいた構成、演出には定評があり、各局から指名を受ける数少ないディレクターである。NHK「少女たちの日記帳 ヒロシマ 昭和20年4月6日~8月6日」は放送後に多くの反響を呼び、サンダンス映画祭ではノミネートこそ逃すものの国内外の選考委員に高く評価された。2012年元旦から放送されたNHK大型ドキュメンタリードラマ「開拓者たち」(全4話)や東日本大震災被災地でロケを敢行した「ラジオ」など、ドキュメンタリーで培った独自の演出方法は、俳優陣からも絶大な信頼を得ている。

門脇麦の印象

現場でも、オフの時は本当に普通の人なんですよ。でもカメラを前にするとトップギアに入る人で、今まで会った俳優さん、女優さんの中でもギャップが大きい方だと思います。今回の現場ではベッドシーンもあったんですが、僕が濡れ場を撮影するのが初めてだったので、門脇さんのいつもと変わらぬ雰囲気に逆にほぐしてもらいました。ただ、現場では普通にしているように見えますが、おそらく心の中では演技について熟考しているんだと思います。頼れる女優です。

門脇さんは台本を読む力、つまり読解力が優れた役者さんなんだと思います。今回出ていただいた俳優さんたちは、演じていないと死んじゃう人たちだと思いますが、門脇さんはそれが抜きんでている(笑)。俳優になるべくしてなったような、気質や能力を備え持っている人だと思います。それが、"実力派俳優"という表現になるのかもしれないですね。

撮影現場の様子

今回は 哲学を学ぶ大学院生という設定で、実際に院に通ってる方に取材もしました。門脇さんは、哲学を学ぶ学生に対して世捨て人みたいなイメージを持っていたらしいのですが、実際に会ってみるといたって普通だということに納得し、ようやく自分が演じる珠の内面をどう捉えるかにシフトできたみたいです。尾行をする哲学科の学生という突飛な設定にとらわれなくなったのだと思います。

元々勘は鋭い役者さんだと思うのですが、難しい役どころだと本人も分かっていて。取材をしたおかげで、台本にあるキャラクターに、正面から向き合えたんじゃないでしょうか。

映画『二重生活』おすすめシーン

菅田将暉さん演じる卓也との同棲シーンで見せる、もどかしさをぜひ観ていただきたいです。自分の内面に抱えているものを自分でも捕まえきれず、大切な人に伝えられないでいるもどかしさが、すごく痛々しくて。本人は演じていて苦しかったと言っていましたけど、門脇麦じゃないと出せない切なさだったと思います。

■作品紹介
映画『二重生活』
大学院で哲学を学ぶ珠(門脇麦)は、修士論文の準備を進めていた。担当の篠原教授(リリー・フランキー)は、ひとりの対象を追いかけて生活や行動を記録する"哲学的尾行"の実践を持ちかける。同棲中の彼(菅田将暉)にも相談できず、尾行に対して迷いを感じる珠は、ある日、資料を探しに立ち寄った書店で、マンションの隣の一軒家に美しい妻と娘とともに住む石坂(長谷川博己)の姿を目にする。作家のサイン会に立ち会っている編集者の石坂がその場を去ると、後を追うように店を出る珠。こうして珠の「尾行する日々」が始まった。6月25日公開。

(C)2015『二重生活』フィルムパートナーズ