博多湾に浮かぶ能古島は、コスモスや水仙など四季の花で有名なアイランドパークがあり、海水浴や釣りを楽しめる観光地として年間70万人の行楽客を集める。島への唯一の公共交通機関は福岡市が運営する定期船で1日23便、能古~姪浜航路を運航しているほか、同市は博多~志賀島、玄界島~博多、小呂島~姪浜の4航路(7待合所)で渡船事業を展開している。博多~志賀島航路は1日15便、年間利用客は20万人の行楽客を集めるが、小呂島~姪浜航路と玄界島~博多航路は地元住民が利用する生活航路の色合いが強い。

福岡市が運営する能古~姪浜航路の定期船「フラワーのこ」

福岡市港湾空港局客船事務所 所長 前田修氏

「福岡市交通局が運営する地下鉄では2009年に独自の交通系電子マネー『はやかけん』を発行し、ICカードをかざすだけで運賃が精算できる自動改札機を導入していますが、地下鉄に比べて渡船事業は採算性が低いため、導入コストが高い電子マネー決済への対応は慎重でした」と振り返るのは、福岡市港湾空港局客船事務所 所長の前田修氏である。

しかし電子マネー決済の普及が進むにつれ、運賃支払いの電子マネー対応を要望する利用者の声が高まっていた。また、行楽シーズンには現金による発券機に行列ができることもあり、利用者の利便性向上という観点から電子マネー決済の導入による混雑緩和も期待されていた。

「当初は駅の改札と同様にICカードをタッチして精算するシステムを検討しましたが、導入および運用コストが高額だったため、電子マネーに対応した券売機を待合所に設置することにしました。2015年12月には小呂島を除く6つの待合所に電子マネー対応の券売機を導入したのですが、小呂島だけは券売機を設置するスペースがないため電子マネー非対応となってしまい、この状況を改善することが次の課題となりました。また、券売機では発券できない貨物券や自動車航送券、障がい者等の割引券は引き続き窓口の職員が現金で収受しており、釣り銭の受け渡しなどに時間を要していました。行楽シーズンに多くの乗客で混雑するときでも窓口の発券業務をスムーズに行うことも目指し、窓口業務にも電子マネー決済を導入するソリューションを検討しました」(前田氏)

2015年12月に導入された電子マネー対応の券売機