今、必要なマーケティングテクノロジーを整理し、データ統合を行うために重要なテクノロジーの1つとして、タグマネジメントシステム(Tag Management System:TMS)が注目を集めている。

前編では、技術的な視点から、TMSがマーケティング・ミドルウェアとしての役割を期待されるまでに成長したことを説明した。後編となる今回は少し視点を変え、マーケティング・ミドルウェアを活用し、顧客データ統合基盤を整備することが求められている理由について説明する。そして、数多くのマーケティングテクノロジーを導入している企業に向けて、TMSがどのようなビジネス価値をもたらすか、そしてどのような観点からTMSを選ぶべきかについてまとめてみたい。

データドリブン・マーケティングと顧客データ統合基盤

従来、マーケティング業務に関連するデータと言えば、基幹情報システムに格納されている顧客や商品に関するデータや取引に関連するトランザクションデータが中心であった。ところが、Webの検索キーワード、メールの開封、広告のクリック、Webのページ閲覧履歴といったWebページでの振るまいもデータとして蓄積されるようになり、顧客をより深く理解するためのデータの種類が増加した。

このようなシグナルデータを、トランザクションデータと組み合わせて利用するという発想が出てきたのは、マルチチャネルキャンペーンの実行プロセスを支援するMAの登場がきっかけだろう。最近では、「データドリブン」という言葉からも示されるように、マーケティングにおけるデータの重要性が認識されるようになり、顧客をよく知るために得られるデータはすべて使い倒そうという機運が高まっている。

データドリブン・マーケティングとなると、これから整備しようとする顧客データ統合基盤とDMP(Data Management Platform)との違いが気になるところだ。

DMPもマーケターが使いたいデータを集めた顧客データストアである点は共通する。だが、ファーストパーティーデータに加え、大量のサードパーティーデータを集約し、より詳細な顧客プロファイルを得るために用いられるのがDMPであるのに対し、TMSを導入して整備する顧客データ統合基盤は、ファーストパーティーデータに特化している点で異なる。

ベストオブブリード調達と顧客データ統合基盤

さらに、大企業において、マーケティング・テクノロジーのマルチベンダー調達が、現実的な選択肢となったことも、顧客データ統合基盤の整備を後押ししている。マーケターとしては、マーケティングスイートが存在すれば導入したいところだが、実際には、マーケターが望む機能全てを提供できるスイート製品は存在しない。そして、各種マーケティング・テクノロジーはバラバラに発展してきたため、SFA、MA、SRM、アナリティクスなど、デジタルマーケティングに積極的な企業ほど、さまざまなアプリケーションを別々のベンダーから導入している。

このベストオブブリード戦略は、分野ごとに必要なタイミングで自社に最適のテクノロジーを導入するという現実的な意思決定の結果である。だが、この調達戦略は、マーケティング・システム全体としての複雑性が増大し、運用負担が増加するという問題を引き起こす。

問題の原因は、それぞれのアプリケーションがサイロ化し、データの相互利用ができなくなっていること。このような縦割りの弊害をなくしたいというニーズから、テクノロジーごとに蓄積された顧客に関するデータをリアルタイムにかつ一元的にまとめる必要性が生じている。

どのようなポイントでTMSを選ぶべきか

TMSの技術的優位性は前編で説明したが、最後にTMSのビジネス価値や導入の場合の選定条件を考えてみたい。

TMSのようなミドルウェアは、SFAやMAのようなマーケティングアプリケーションではないため、売上に直接的な効果をもたらすわけではない。このようなテクノロジーはどのような条件で選ぶべきか。一般に、ミドルウェアのビジネス価値は、ビジネスプロセスに俊敏性をもたらすことであり、TMSの価値もこれに倣う。TMSを導入すれば、マーケターは煩雑なWebサイトのメンテナンス負担から解放され、マーケティングキャンペーンのプロセスに集中できるようになる。IT部門やWeb制作会社にこうしたメンテナンス作業を委託していたのであれば、コスト低減という面でも効果がある。

そして、TMS選定にあたり、マーケターが気になるのは、使いやすさ、パフォーマンス、サポートといったポイントだろう。だが、これらの要素に加えてもっと重要なのは、TMSが中立的なテクノロジーを採用しており、クロスチャネルマーケティングのための顧客データ統合基盤整備に役立つかだ。企業規模が大きくなるほど、今は規模が小さくてもビジネスが成長するにつれて、必要になるマーケティングアプリケーションの種類は増える。どんなベンダーが提供するテクノロジーのデータであっても将来の顧客データ基盤に統合できるよう、独自テクノロジーに依存しているベンダーの製品は避けたほうがよい。

TMSはもはやWebサイトのアクセス解析のためのテクノロジーではない。企業は、中長期的な視点から、自社独自のマーケティングクラウドを構築する上で不可欠なミドルウェアソリューションとしてTMSを選定することが求められる。