ビジネスシーンでも、ちょっとした雑談でも、思うように会話が続かず「もっとうまく話せたら……」と考えたことがある人は少なくないだろう。木暮太一さんの新刊『「自分の言葉」で人を動かす』(文響社/1,240円+税)では、人を動かせるのは決して難しいテクニックではなく、ごくシンプルな方法で引き出す「自分の言葉」だと語られている。かつては自身も人に伝えることが苦手だったという木暮さんが、長い年月をかけてたどり着いたメソッドとは。

「正解」を探したら、言いたいことが言えなくなる

木暮太一(こぐれたいち)さん
経済入門書作家、経済ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。学生時代から難しいことを簡単に説明することに定評があり、著書に『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)、『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)など多数

――「自分の言葉」で伝えることの大切さを教えてください。ご自身の子ども時代や営業マン時代の”苦い経験”を踏まえたエピソードも著書の中で紹介されていますね。

僕自身、昔から「言葉にすること」があまり得意ではありませんでした。小さいころは本当に作文が書けなくて……。作文だけじゃなく、国語自体がすごく苦手でしたね。高校3年生のときなんか、一応東大を目指してるのに、国語だけ偏差値が38でした(笑)。読むのも書くのもイヤだったんですが、苦手意識があると、つい正解を探してしまうんですよね。「これが間違いなら、じゃあ何が正解なの?」って。

そんな感じが働き始めてからも続きました。初めての営業でやり方が分からないから、本を読んで勉強したんです(笑)。まぁくだらない本で、「テクニックでなんとかしよう」とか、「キャッチコピーを変えれば1億円なんて軽く稼げる」みたいな、言ってみれば詐欺みたいなものにまんまと乗せられてしまった。こうすればいいという「正解」に従って話をしていたので、なんにも感情が入ってないから、やっぱり相手には響かないし伝わらない。キレイなプレゼンをしようとして、「言ってることは分かるけど、ウチはやりません」って断られることがほとんどでした。

僕と同じように「正解」を探してしまい、「言いたいことを言いましょう」と言われてもできない子どもはきっとたくさんいます。でも、それはなぜなんだろうと考えたとき、いわゆる「いい子」現象がそうさせてるのかもと思ったんです。つまり、相手が求めていることを言おうとするんだけど見つからなくて、結局何も言えなくなるという悪循環に陥っているんじゃないかなと。

僕は4年ほど前から「説明力講座」というのをやっているのですが、そこでは、難しいことを分かりやすく伝えるためには「結論を先に言いましょう」と教えています。すると一定割合で「結論が分かりません」という人が出てきた。自分の話の結論が何なのか、自分で分からないって言うんです。言い方を変えて、「言いたいことを先に言いましょう」と言うと、「言いたいことが分からないので、何も話ができません」と。それを言ったらオシマイよ……と思いつつ(笑)、よくよく考えてみたら、言いたいことがないんじゃなくて、言いたいことを”言葉にできない”んじゃないかなって思ったんですね。それが彼らの課題なんだとしたら、言葉にする方法を教えてあげたらいいんじゃないかと考え始めました。

自分も相手もテンションが上がる「教えたいこと」

では、それを突破するためにどうすればいいかと考えたときに、「教えたいこと」というキーワードが出てきました。僕は小学校のときから友だちに勉強を教えたりしてたんですよ。教えたとき、「分かった」と言われると僕もうれしかったんです。「教えたいこと」を相手に向けて発すると、自分もテンションが上がり、なおかつ貢献意欲も満たされる。しかも、「教えたい」という気持ちは、相手を必ず意識した目線になるんです。飲み会でおじさんがずっと、自分が言いたいことだけ延々としゃべってる、みたいなことにはならない(笑)。

――話の焦点が絞れるということでしょうか。

焦点が絞れるということもあるし、相手のテンションが上がりそうなことにしか目が向かなくなるので、自然と筋の良い話題を選べるようになります。しかも、自分がよく知っていて「教えてあげたいこと」だから、強引に言えば全部”正解”なので、自信を持って発言ができるようになるんです。