東京都台東区入谷。北に千住、南に上野にはさまれた、昭和通りを境に東側一帯のエリアである。広くは下町然とした住宅地であるが、毎年7月に入谷鬼子母神を中心として開催される「入谷朝顔まつり」で耳馴染みのある土地かもしれない。今回の銭湯はそんな入谷の銭湯、東京メトロ日比谷線「入谷」駅徒歩3分にある「快哉湯」だ。

「快哉湯」が積み重ねてきた歴史を感じる門構え

床の質感からも歴史が伝わる

ご覧の通り、なんとも渋い江戸の銭湯。創業は明治末、昭和初めには今の姿であったとか。短いのれんをくぐると正面に傘ロッカー。梅雨時の訪問だったので使用した。開くと丸い穴があって、そこに水平に差し込む仕組みになっている。両側には板鍵の下足箱。男湯左、女湯右に進む。

快哉湯は番台式。天井は高く、格天井になっている。そこから三枚羽の天井扇が吊られている。ロッカーは横幅が広い形で、中央と壁側にある。境目は一面鏡。ドライヤーは無料だった。境目の上には屋号の入った大きな柱時計。背側には、池のついた坪庭があり、小さいが縁側もついている。

脱衣所内にはほかに、はかり、丸型脱衣カゴ、小さな洗面台など。余分な物は全く置かれておらず、非常に綺麗に整頓されている。90年近く使われてきた建物だが、愛情を持って毎日掃除されているのだろう。足元は板張りだが、長年使い込まれているためか、継ぎ目を全く感じないほどツルツルとした肌触りで、とても気持ちがいい。木製でできたサッシの引き戸から浴室へ入る。

ダイナミックな壁画は今も健在

男湯のイメージ(S=シャワー)

奥に浅風呂と深風呂、両側にカランと、中央の島カランはシャワーなし、という正統派の東京銭湯スタイル。正面には、富士山と波が岩にぶつかって砕けるさまをダイナミックに描いた、故・早川絵師による西伊豆のペンキ絵が残っている。サインは平成20年10月2日とあり、年月が経過しているのでベストコンディションとは言えないが、それでも早川絵師独特の濃い青色と力強い飛沫を楽しむには十分の状態だった。天井も高い。

壁側にしつらえた窓のサッシも木製。さすがにこちらの木や壁、天井には経年相応の傷みは見られるが、床タイル、カランを見れば、浴室内ももちろん清掃が行き届いていることが分かる。桶は無地で黄色のもの。イスは緑色のコの字型。湯はそれぞれやや熱め。体感では44度くらいだろうか。長湯をするような銭湯ではないので、さっと入って、さっと出る。

2016年の入谷朝顔まつりは7月6日~8日に開催される。朝顔と夕暮れの銭湯で、夏の訪れをぜひ感じていただきたい。

※記事中の情報は2016年6月時点のもの。イメージ図は筆者の調査に基づくもので正確なものではございません

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。