NTTドコモは16日、株主総会を開催し、新社長に吉澤和弘氏が就任するなどの役員人事を可決した。ここでは株主総会後に設けられた吉澤新社長の就任会見の様子について伝える。

加藤体制を引き継ぎ、さらなる事業拡大への意気込み

吉澤新社長は会見の冒頭で、モバイル市場はポテンシャルが高いと同時に、強力なプレーヤーが居並ぶ市場であり、大変身が引き締まると同時に闘志が湧いている、とモチベーションの高さをアピール。国内初となる携帯電話の実用化など、入社以来、移動体通信の開発に携わってきた過去を振り返りつつ、スマートフォンの普及で世界中の知識やデータをどこでも即座に入手できるようになったと現状を分析。「スマートフォンが成熟期を迎えたのではないかと言われているが、実際にはそんなことはない。まだまだこれからも進化を続ける」と見解を述べた。

株主総会で新社長就任が決まったばかりの吉澤和弘新社長

その上で、吉澤体制におけるドコモの目標として「『さらなる価値』をお客様・世の中へ」というキャッチフレーズを発表。ネットワークやデバイスの進化によるモバイルICTの高度化、パートナー企業との協業などによる新たなアイデア、スピード感のある経営、という3つを掛け合わせて経営を進めていくとした。

キャッチフレーズをより具体的に実現するものとして「サービスの創造・進化」「+dの促進」「あらゆる基盤の強化」という3つの柱を例示。「サービスの創造・進化」では人工知能(AI)を利用し、生活に溶け込むパーソナルエージェントといった技術を使って、一人一人のユーザーや家族にとっての、楽しさや便利・安心を確保すること。「+dの促進」では、法人パートナーと一緒にそれぞれの強みを生かした付加価値サービスを提供し、社会課題の解決をすること。「あらゆる基盤の強化」という点では、回線や通信技術といったインフラ面の強化・進化はもとより、社内のコスト構造改革や研究開発などあらゆる点において聖域なく取り組むこと。また、顧客基盤拡大の観点では、高付加価値なサービスや家族契約の強化などと合わせ、他キャリアのユーザーにもキャリアフリーなサービスを提供していく方針を表明。回線契約ビジネスではなく、会員ビジネスとして捉えていくことを明らかにした。

図中の「サービスの創造・進化」にあたる内容として、人工知能(AI)が挙げられた

最後に、ドコモを「パートナーから様々なアイデアを取り入れるオープンな会社」「社員が生き生きと楽しい会社」「お客様サービスの健全な会社」にしていきたいとする目標を掲げ、会見をまとめた。

LTEガラケー登場か

質疑応答では、加藤薫前社長時代に掲げられていた携帯料金の値下げ第3弾(第1弾は0円端末の販売中止、第2弾は「ずっとドコモ割」の拡充と「フリーコース」の追加)は、いつ提供されるのかという質問が投げられた。これについては財務的な問題でもあり、即答はできないと回答。7月末に行われる第1四半期の決算会見で発表されるとみられている。そのため、事前に内容を匂わせることは避けたようだ。

スマートフォンの普及が6割前後で止まっていることについては、当初予測ではすでに8割程度になっていると思っていたが、フィーチャーフォンユーザーが予想以上に多く留まっているとし、それらのユーザーは「低価格」「ロングバッテリー」「片手で操作できる操作性」を評価していると分析。だが今後は、前述した3本の柱を実現すべくスマートフォン比率を高めていきたい考えだ。そのためにも、LTEが利用可能なAndroidフィーチャーフォンの提供や、タブレットとの2台持ちなどの推進をしていきたいとしている。

MVNOについては、接続料の値下げなど、ドコモが最も積極的にMVNOに取り組んでおり、市場拡大に寄与していることをアピール。通信事業としての競争もあるが、ビジネス面ではMVNO事業者との協業も可能であるという認識を表明した。例えばソリューションとして携帯回線を使いたい企業に対して、「+d」の枠組みからMVNO事業をシステムごと販売するといったこともありうるとした。

基本的な経営方針としては、すでに大幅な上積みが難しい通信ビジネスの比率を下げ、+dに代表される異業種コラボやスマートライフ事業の拡大を目指しており、加藤薫前社長の経営方針を引き継いだ形になると言っていいだろう。また今後は個人ユーザー(BtoC)向けサービスよりも企業・法人ユーザー(BtoB・BtoBtoB・BtoBtoC)を重視するようなニュアンスもあり、収益構造を大きく組み替えてドコモという会社自体の体質を変えていきたいという思いがうかがえた。

一方で、携帯事業としては大きな変化はなく、総務省のタスクフォースによる影響も一段落といった感じだろうか。フィーチャーフォンユーザーの乗り換え需要としてAndroidフィーチャーフォンが挙げられていたが、保守的なユーザー層をどこまで移行させられるかに注目していたい。