「軍港の街」として知られる神奈川県三浦半島にある横須賀市。東京湾の入口に位置した横須賀市は、"首都防衛"を考える上で重要な場所であることから、明治から太平洋戦争時にかけて要塞が築かれ、海軍港として発展してきた歴史がある。その地で今話題なのが、「軍港めぐり」のツアー、そして、"カレーの街"としても知られる横須賀の新名物「海上自衛隊(海自)カレー」だ。

「軍港めぐり」でイージス艦隊に遭遇。圧巻の一言に尽きる

潜水艦にイージス艦、巨大な空母の姿も!

このツアーは、アメリカ海軍の基地がある横須賀本港と、日本の海上自衛隊の司令部がある長浦港を船でめぐる「YOKOSUKA 軍港めぐり」というもの。トライアングルが実施する人気ツアーで、筆者が取材した日も平日にも関わらず、出航の10分前に船の発着場である汐入ターミナルに到着すると、すでに行列ができていた。チケットには予約枠と当日枠があるが、もしツアーに参加する日が決まっているのなら予約しておいた方が無難だ。

さて、早速乗船してみよう。現在、軍港めぐりに使われている船「シーフレンド7」は、2016年4月22日に就航したばかりの新造船で、定員は最大で約250人と従来の船に比べおよそ1.6倍のスケールになった。また、1階客室の窓を大型化するとともに曇りにくい特殊ガラスを採用し、2階デッキには屋根を設置するなどの改善がなされ、より快適なクルーズが楽しめるようになっている。

2016年4月に就航したばかりの「シーフレンド7」で出発

ターミナルを出発した船は、まずはアメリカ海軍第七艦隊の基地がある横須賀本港の中を進んで行く。最初に見えてきた潜水艦には、日の丸と旭日旗が掲げられており、どうやら日本の潜水艦のようだ。なぜ日本の潜水艦が米軍基地内に停泊しているのかといえば、海自の潜水艦司令部が米軍基地内にあるからなのだそう。

海上自衛隊の潜水艦と米海軍のイージス艦が並んで停泊中

潜水艦の先に停泊しているのは、小説や映画にも登場し、すっかり有名になった最新鋭装備を誇るイージス艦。そして、その奥に巨大な船影を現したのが、空母「ロナルド・レーガン」だ。全長およそ330mもあり、これは東京タワーの高さにほぼ匹敵する。他の艦艇と比べると、空母はやはり桁違いの大きさなのだ。

空母「ロナルド・レーガン」は大迫力

ロナルド・レーガンは、前任の空母「ジョージ・ワシントン」に代わり、2015年10月に横須賀港に配備された。しかし、演習などで出港していることも多く、常に横須賀で見ることができるわけではない。軍港めぐり案内人・岩澤博文さん(トライアングル所属)によれば、空母は例年のパターンだと、GW明けに出港し、一度出港すると半年くらいは戻らず、年末年始には帰港することが多いという。

やわらかな語り口でファンも多い軍港めぐり案内人の岩澤博文さん

もし、正確な情報を知りたければ、東京湾海上交通センターの大型船入航予定情報をチェックするといいとアドバイスをくれた。しかし、これも直前にならないと更新されないという。なお、艦艇の停泊状況などは軍港めぐりのフェイスブックページでも情報発信しているので、船が多めに停泊していそうな時を狙うのもオススメだ。

航行中のデッキの様子。シャッターチャンスは尽きない

海上自衛隊では木造の掃海艇も見逃せない

船は横須賀本港を出て外洋を航行した後、海上自衛隊の艦隊司令部が設置されている長浦港に入港する。長浦港では海自のイージス艦や護衛艦などを間近で見ることができるが、ひときわ印象に残ったのは木造の掃海艇「やえやま」だ。木造船といっても大昔に造られた船ではなく、平成5年(1993)に竣工した船だ。

木造の掃海艇「やえやま」は2016年6月に除籍予定

掃海艇は機雷などを除去するのを任務とするが、船体が鉄だと磁気を帯びて機雷が反応してしまうため、木造船が活躍したのだという。しかし、木材の高騰や木船建造技術者の減少を受け、次第に強化プラスチック(FRP)製の船に取って代わられるようになり、やえやまも2016年6月に除籍予定という。やえやまを軍港めぐりで見ることができるのも、もう少しの間だけかもしれない。

さて、長浦港を一周した船は、新井掘割水路という人工の水路を通って横須賀本港に戻る。次から次へと姿を見せる珍しい艦艇に見入っていると、あっという間に45分間のクルーズは終了する。

新井掘割水路を行く

●infomation
乗船時間: 約45分
料金: 1,400円(団体15名以上 1,260円)
アクセス: JR横須賀線の「横須賀」駅徒歩10分または、京浜急行線の「汐入」駅徒歩5分

「海軍カレー」の二番煎じじゃない!

横須賀といえば「海軍カレー」がすぐに思い浮かぶなど、すっかり"カレーの街"として知られるようになった横須賀だが、その横須賀に2015年9月に新たに誕生したのが、「海自カレー」だ。

「MIKASA CAFE」が提供している「掃海艇 はつしま」のポークカレー(税込1,620円)。食器も実際に海自で使用しているのと同じステンレスプレートを使用している

海軍カレーが明治41年(1908)に発行された旧海軍のレシピを元に復元されたカレーであるのに対し、海自カレーは現在の海自の艦艇で実際に提供されているカレーを、各艦艇の給養員長(料理長)のレシピを元に地元のお店が忠実に再現したものだ。レシピは、チキンカレやポークカレー、野菜カレーなど艦によって様々なのだそうだ。

現在、市内の16店舗で23種類の海自カレーを味わうことができるが、今回は汐入ターミナルからもほど近い「MIKASA CAFE」を訪れ、「掃海艇 はつしま」のポークカレー(税込1,620円)を食べてみた。

同店店長の一本和良(ひともとかずよし)さんによれば、掃海艇 はつしまのカレーは半日かけてつくった鶏ガラスープをベースにし、具材は大きめにカット、さらに秘伝のある"隠し味"を使うことでコクを豊かにしているという。ひとくち食べてみると、旨味たっぷりのカレーはどこか懐かしい感じのする味だ。

MIKASA CAFE店長の一本和良さん。「横須賀海上自衛隊カレー」認定店には認定証が授与される

筆者は今回取材に訪れるまでは、正直に言えば海自カレーは海軍カレーの二番煎じではないかと思っていた。しかし、実際に艦艇で提供されているものと同じものがレストランで食べられるというコンセプトは面白く、カレー自体の完成度もとても高いと感じた。また、MIKASA CAFEでは海軍カレーと海自カレーの両方を提供しているので、カップルや友達同士で訪れたなら、両方を注文して食べ比べてみるという楽しみ方も可能だ。

「MIKASA CAFE」店舗外観

●infomation
MIKASA CAFE
神奈川県横須賀市本町3-33-3
アクセス: 京急汐入駅から徒歩1分、JR横須賀駅から徒歩10分(ドブ板通り入り口)
営業時間: 9:00~19:00
定休日: 不定休

今回紹介したほか、横須賀には、小説『坂の上の雲』にも登場する日露戦争時に活躍した記念艦「三笠」が保存されている「三笠公園」や、東京湾唯一の無人島「猿島」に残る明治時代のレンガ要塞の遺跡など、軍港としての歴史を刻む様々な見所がある。横須賀の最大の魅力は、その歴史ゆえに他の街ではまず見ることができない景観が市内の随所に残されていることだろう。横須賀を訪れ、我が国の歩んだ近代史の道のりを観光を楽しみながら振り返ってみるのは、とても有意義なことではないだろうか。

※記事中の情報は2016年6月時点のもの

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に撮影・取材を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。