育休が取得できなくても不安がない理由とは

妊娠がわかり、初めて真剣に考える職場復帰後のキャリア。会社の制度が充実しているか、夫の理解はあるか、親や親戚のサポートが得られるかなど、人によって子育て環境が多様な今、キャリア観もさまざまだ。

このシリーズでは、それぞれ異なる環境に置かれた妊婦たちに職場復帰後の働き方についてインタビュー。今回は、IT系企業で総合職として働く大泉さん(仮名: 29歳)に話を聞いた。

転職したばかりで育休が取得できないという大泉さん。3カ月半の産休後、どのように子育てを進めていくのだろうか。驚きの戦略に満ちた周囲のサポート体制作りについて語ってもらった。


夫の育休取得「スキルアップにつながると信じてる」

――転職して間もなくの妊娠。不安はありましたか。

確かに転職して1年たっていないので、育休は取れないなと思っていたけれど、産休は国の義務だから絶対取れますよね。友人の話を聞いていて、自分の体は2カ月あれば回復しそうだとは思っていたので不安はなかったです。早く子どもが欲しいと思っていたので、妊娠して本当にほっとしました。

――育休がなく復帰して、子育てはどのように進めていく予定ですか。

夫が育休を3カ月取得して、その後は保育園にお世話になろうと思っています。親が近くに住んでいるので何かあれば頼れますし、一時的にお金がかかるかもしれませんが、ベビーシッターの活用も考えています。

――もともと夫は育休を取得する予定でいたのですか。

そうですね。夫の会社では家族を大事にする風潮があり、男性が1カ月ほど育休を取得するのは普通のようです。会社の価値観に影響されているのか、夫自身も「仕事ができても子育てに参加しない人はダサい」という価値観を持っています。もともと「18時には帰宅して家族と過ごし、残った仕事は家でするのがかっこいい」という話はしていましたから、育休を取ること自体に抵抗はなかったみたいです。

一方で、3カ月取得するということは想定していなかったようでした。しかし考えてみてください。私は3カ月半お休みを取るのに、夫はなぜ1カ月でいいのでしょうか。その理由を教えてほしいと尋ねたところ、夫も理解してくれました。

これまで職場で安定的にパフォーマンスを発揮していた夫にとっては、キャリアの転換期になるでしょう。私は夫に、休職期間を経て新たな領域にチャレンジしてほしいと思っているし、それができる人だと信じているんです。さらに、育児の経験を仕事にいかしてもらいたいと思っています。今後スキルを伸ばしていくにあたって、マネジメント能力は少なからず必要になってくるでしょうから。

親戚総出のサポートでキャリアの不安もなし

――産休後、すぐに職場復帰をするとなると、産前・産後の過ごし方も大切になってきますね。

そうですね。ですから、産前・産後は祖母の家で過ごそうと思っています。出産まで家に1人でいるのは孤独ですし、身の回りのお世話をしてもらえるのはありがたいですしね。祖母の家は自宅から近いので、週末だけ夫にも祖母の家に泊まってもらう予定です。夜泣きに付き合ってもらい、育児の大変さを知っておいてもらいたいからです。それがないままに夫が育休に入るのは大変だと思います。

祖母の家は、両親や妹、おばなどの親戚が日頃から集まる場所で、子育てを支えてくれる人たちがたくさんいます。親戚の誰かが出産すれば、親戚総出で子育てをサポートするというのが今までも普通でした。ですから、自分が産休中に1人になる想像が逆にできません。みんなで私を助けてくれると思っているし、みんなもやる気です。

――職場復帰後の働き方はどのようにイメージしていますか。

しばらくは時短勤務にしようと思っています。子どもが1歳にならないうちに保育園に預けてしまうので、なるべく子どもと過ごしたいですし、お世話も大変ですしね。さらに夫の育休中に早く帰宅することによって、「相手が早く帰ってきてくれると助かる」ということを理解してほしいという思いもあります。育休が明けて夫婦共に働きながら子育てをする段階になったときに備えてのことです。

仕事のパフォーマンスに関しては、時短勤務による影響はあまりないと思います。そもそも残業をほぼしないからです。女性総合職が子育てしながらキャリアを積むには、残業せずにパフォーマンスを発揮する必要があると聞いていたので、実践していました。

また、3カ月半休んでも、職場にあまり大きな影響はないのかなと。職場からも「半年休むとなると増員しなければならないが、3カ月半なら今いるメンバーだけでがんばるよ」と言ってもらえています。これなら、2人目、3人目もうめるなと希望が持てました。

――大泉さんにとって、妊娠によるキャリア観の変化はあまり感じられないように思います。

転職したことが大きかったと思います。前の会社は、年功序列でみんな横並び。育休を取るだけで出世コースからは外れ、それ以外は会社に来ていればパフォーマンス関係なく出世していけるという組織体制でした。女性は一般職がほとんどでしたし、女性の管理職も少なかったので、ロールモデルがいないと感じていたのです。出世でしか自分が認められたと思えるものがなかったので、苦しかったですね。

一方で今の会社は、人の出入りが激しいので、横並びじゃないし、変に隣の人と比べなくてよく、目の前の仕事に集中できます。ロールモデルもいらない、自分の働き方は自分に合うように変えられると思えるようになりました。自分がいい仕事ができるかどうか、自分が満足できるかが大切で、それに給料も出世もついてくるような気がしています。


職場環境と夫婦の信頼関係で自信が持てた「子育てしながら働く」

大泉さんの場合、夫婦が協力して子育てに取り組めるのは、それぞれが所属する職場の影響が大きいと感じた。子育てへの理解があったり、ブランクがあっても実力次第でキャリアアップを目指していけたりする環境が整っているようだ。

さらに印象的だったのは「何事に関しても、夫は当事者意識を持って課題に取り組んでくれる人」という大泉さんの言葉。2人ならば何があっても解決していけるという強い夫婦の信頼関係が、自信の持てる職場復帰につながるのかもしれない。

※写真と本文は関係ありません