三菱重工は5月31日、愛知県にある同社飛島工場(愛知県飛島村)で製造が進む、H-IIAロケットの31号機を公開した。このあとロケットは鹿児島県の種子島宇宙センターへ輸送。気象衛星「ひまわり9号」と子どもたちの夢を載せ、年内にも打ち上げられる予定となっている。

H-IIAロケット31号機のコア機体。中央に見えるのが第1段機体、その奥に見えるのが第2段機体と段間部

H-IIAロケットと、三菱重工 防衛・宇宙ドメイン技師長 H-IIA/H-IIBロケット打上執行責任者 二村幸基(にむらこうき)さん

気象衛星「ひまわり9号」を搭載、打ち上げは年内

H-IIAロケットは宇宙航空研究開発機構(JAXA、当時は前身の宇宙開発事業団)と三菱重工業が開発したロケットで、2001年に初めて打ち上げられた。以来、探査機「はやぶさ2」、「あかつき」や、東日本大震災で被災地を観測した「だいち」、そして今日や明日の天気予報にとって欠かせない気象衛星提「ひまわり8号」といった、数多くの人工衛星を打ち上げてきた。打ち上げ機数はこれまでに30機にもなり、そのうち成功は29機で、成功率は約96.7%。また7号機以降の23機は連続成功を続けている。

今回公開されたのは、そのH-IIAロケットの最新号機である31号機の、第1段機体と第2段機体、その間をつなぐ段間部の部分。これらをまとめて「コア機体」と呼ぶ。すでに製造や試験はほぼ完了し、公開時には種子島宇宙センターに向けた出荷準備中にあった。このあと、6月3日に飛島工場を出発し、同6日に種子島へ搬入された。

H-IIAロケット31号機は、ロケットの両脇に固体ロケット・ブースター(SRB-A)を2基装備し、人工衛星を宇宙まで守る衛星フェアリングは、直径4mで衛星1機向け(シングル・タイプ)である「4S」型をもつ、一番標準的な「H-IIA 202」型で打ち上げられる。SRB-Aやフェアリングは、他社が製造しているためこの場にはなく、種子島宇宙センターで初めて揃い、組み立てられる。

打ち上げ時期は現在調整中で、今のところは「年内」ということしか決まっていない。

H-IIAロケット31号機の第1段機体

H-IIAロケット31号機の第2段機体

H-IIAロケット31号機では、気象庁の気象衛星「ひまわり9号」を打ち上げる。

「ひまわり9号」は、2014年に打ち上げられ、毎日の天気予報でおなじみとなっている「ひまわり8号」の同型機で、「ひまわり8号」に何らかの問題が生じた場合に備えた、バックアップを務める。また2022年度からは立場が入れ替わり、9号がメインの観測を、8号がバックアップを務める。運用期間は8年以上と見込まれており、今のところ8号は2030年度まで、9号も2031年度までの運用が計画されている。

「ひまわり9号」を載せたH-IIAロケットは、打ち上げから27分57秒後に、ほぼ赤道上空で衛星を分離し、近地点高度約250km、遠地点高度約3万5800kmの静止トランスファー軌道に衛星を投入する。その後「ひまわり9号」は、自身のエンジンを使って、最終的な目的地である、東経140.7度の赤道上にある静止軌道へ移動する。

「ひまわり8号」と「9号」の想像図 (C) 気象庁

ちなみに「ひまわり8号」を打ち上げたのもH-IIAロケットであり、今回の打ち上げ方法や飛び方などは当時と瓜二つだという。

ところで、H-IIAロケットは29号機で「高度化」と呼ばれる改良が加えられ、その成果のひとつとして、静止衛星の打ち上げにおいて、衛星が自ら静止トランスファー軌道から静止軌道まで移動する際の負担を少なくできる飛び方ができるようになった。この飛び方はH-IIAロケット29号機で初めて使用され、カナダの通信衛星「テルスター12V」の打ち上げに成功している。

今回の「ひまわり9号」の打ち上げではこの飛び方は使用されないが、三菱重工の二村さんによると「お客さま(気象庁)からの要請がないため」だという。たしかに高度化は、衛星の負担が軽くなり、それによって運用期間が伸ばせるなどの利点はあるものの、一方でロケットのコストが高くなるといった欠点もあることから、すべての静止衛星の打ち上げにとって必ずしも、必要であったり全面的に利点があったりというわけではない。

気象庁はこうした利点や欠点を、「ひまわり9号」の性能や予算などから総合的に考え、「ひまわり9号」では29号機のような飛ばし方を依頼しないという判断をしたようである。

「飽くなきコストダウン」は今号機でも

H-IIAロケットは、連続打ち上げ成功や高度化改良などで高い成果を残す一方、他国のロケットと比べて少し高価という欠点があり、国内外の企業などからの発注を受けて人工衛星の打ち上げを行う「商業打ち上げビジネス」では苦戦を強いられている。

しかし二村さんがたびたび「飽くなきコストダウン」と語るように、H-IIAロケットの打ち上げコスト、また価格を、少しでも下げるための努力が続けられており、今号機でも細かい部分ながら、いくつかの手が加えられている。

そのうちのひとつは、段間部からの落氷を軽減する対策の方法である。これまではシリコン系の樹脂を手作業で塗っていたものを、あらかじめその部分の形状に合わせて形成したプラスティック・カバーを取り付ける方法に変更。これにより作業の手間が省けるため、コストダウンにつながるという。二村さんは「お客さまに提供できる価格を1円でも安くするという努力を引き続き続けていきたい」と語る。

もっとも、これもたびたび語られているように、1990年代の設計で造られたH-IIAロケットに小手先の改良を施すだけでは大幅なコストダウンは見込めない。二村さんは「H-IIAの改良だけでは、コストや価格を大幅に下げるのは難しい。そこで、今開発を進めているH3では、たとえば安い材料を使う、安い部品を使う、造り方を簡単にして作業時間を減らすといったことで達成したい。その内容について、今は詳しくは明かせないが、いずれ発表したい」と語った。

会見する三菱重工の二村幸基さん

開発中の「H3」ロケットの想像図 (C) JAXA

子どもたちの夢を乗せた打ち上げ

今回の打ち上げでは、新しい試みとして、ロケットの側面に人気漫画『宇宙兄弟』のイラストが掲載される。

これは日本宇宙少年団が主催している企画で、「夢」をテーマにした画像を広く募集し、その画像を使って『宇宙兄弟』の巨大なモザイク・アートを作成。それをロケットに貼り、「ひまわり9号」といっしょに宇宙へ飛ばそうというもの。

日本宇宙少年団の理事長を務める漫画家の松本零士さんは「すべての子どもたちの夢がひとつの作品となり、子どもたちの夢をかなえる力となることを願っています」と語る。

現在、WebサイトとTwitterで募集が行われており、締め切りは6月12日までとなっている(応募方法、応募先はこちらをご参照ください)。

イラストはロケットの段間部に貼られる。段間部にはこれまでも、搭載する衛星のミッション・ロゴや、運用機関・企業のロゴなどを貼っており、今回のイラストも気象庁などのロゴと並ぶように貼る。気象庁などのロゴはすでに貼られているが、イラストの貼り付け作業は種子島宇宙センターで行われる。

第2段機体と段間部。この段間部に『宇宙兄弟』のイラストが貼られる

【参考】

・気象衛星センター | ひまわり8号・9号 | はじめに
 http://www.data.jma.go.jp/mscweb/ja/himawari89/
・リーフレット「新しい静止気象衛星-ひまわり8号・9号-」
 http://www.jma.go.jp/jma/jma-eng/satellite/materials/Himawari89/himawari89_leafret2/201507_leaflet89.pdf
・三菱重工|MHI打上げ輸送サービス H-IIA/H-IIBロケット│打上げ輸送サービスとは
 http://h2a.mhi.co.jp/service/about/index.html
・JAXA | H-IIAロケット
 http://www.jaxa.jp/projects/rockets/h2a/index_j.html
・ドリームアートロケット プロジェクト DREAM ART ROCKET PROJECT supported by タウンワーク TOWNWORK
 https://dream-art-rocket.yac-j.or.jp