マイナーなのになぜ人気? 有名高級ホテルと並ぶ小規模"下克上"ホテルの魅力

ホテル探しに宿泊予約サイトは定番。何より、オンラインレビュー(口コミ)はホテル選びにとって不可欠という方も多いことだろう。そんな予約サイトでホテルを人気順に並べると、名だたる有名高級ホテルが並ぶが、最近、マイナーなホテルがランクインする"下克上"ともいうべき状況が話題だ。その"下克上"ホテルのひとつが、今回紹介する「HOTEL BAR グランティオス」(東京都品川区)である。

客室数は17室だけの宿泊主体型

予約サイト内でホテル人気ランキングを検索してみると、"ハイクラスマーク"が付く有名高級ホテルが並ぶ。ホテル激戦区である東京23区内のホテルならばなおさらだ。そんな中、グランティオスは日々変化するランキングにおいて、上位に食い込んでいる。筆者が2016年4月某日、楽天トラベルの「東京 人気ホテル・旅館ランキング」を確認した際、1位の帝国ホテル、2位の東京ステーションホテルに次ぐ3位という、にわかには信じがたい順位であった。

グランティオスには予約サイト内にハイクラスマークの表示もなく、料金も比較的手頃だ。品川から京浜東北線で2駅の大森駅から徒歩約3分と、アクセスも良好。羽田空港やJR駅から近いことは何かと便利である。外観もオシャレではあるが、それでも帝国ホテルや東京ステーションホテル等に比べずとも、総客室数17室というのは小規模ホテルに分類されるだろう。ドアマンもいなければコンシェルジュもいない、宿泊主体型のホテルだ。

バーも客室も天然木仕様のオシャレ空間

気になるのはホテル名にもある「BAR」。エントランスからフロントのある2階へ上がると、本格的なバーラウンジが広がる。これがホテル名の由来であるBAR「バローダの月」である。高級ホテルにバーはつきものだが、宿泊主体型ホテルに本格的なバーとは驚く。

スタイリッシュなバースペースを横目にゆっくり館内を確認すると、至る所に天然木の柱をはじめ、自然の素材が多く用いられている。3階以上に位置する客室フロアも同様。宿泊主体型といえば、ビジネスホテルのように合理性や機能性が優先されるイメージだが、グランティオスに一貫するのは「癒やしの空気感」だ。

客室は、全室レイアウトが異なる。最も狭い客室で約19平方メートル。これは、シティホテルクラスの客室面積といえる。インバウンドに人気という畳を用いた客室、バルコニーが設けられたタイプもある。

ルームサービスにも対応

客室へ入るとさらに驚く。パブリックスペースの電子レンジはビジネスホテルで好評のサービスだが、グランティオスでは客室に電子レンジを設置。ビジネス色がないホテルと前述したが、デスクの引き出しを開けると、ホチキスや修正テープといった文房具がセットされていた。

文房具のようなサービスは、「100人に1人でも役だってくれれば」という視点のサービスだろうが、ここではホテルの常識にとらわれずに提供している。そうしたサービスも含め、このホテルのデザイン性や快適性はビジネスパーソンのほか、カップルやファミリーにも支持されると思われる。

また、宿泊主体型ホテルでありながらルームサービスも提供。ホテルの運営会社が、周辺で飲食店を展開しているからこそできるサービスだ。なんと朝食までもルームサービスとして対応している。

インバウンドの高需要に支えられているホテル業界では、従来の常識では誕生し得なかったホテルも生まれ、宿泊主体型ホテルにおけるコンセプトの多様化が進んでいる。それでも、ホテルランキングには有名ホテルがランクインするのが常だ。一方で、独立系・小規模チェーンだからことできるストライクゾーンの狭いサービスも多くの人々に支持され始めている。グランティオスのように、まだ知名度が高くないホテルが突出した人気を得る現象は今後も続くだろう。

※記事中の情報は2016年5月取材時のもの

筆者プロフィール: 瀧澤 信秋(たきざわ のぶあき)

ホテル評論家、旅行作家。オールアバウト公式ホテルガイド、ホテル情報専門メディアホテラーズ編集長、日本旅行作家協会正会員。ホテル評論家として宿泊者・利用者の立場から徹底した現場取材によりホテルや旅館を評論し、ホテルや旅に関するエッセイなども多数発表。テレビやラジオへの出演や雑誌などへの寄稿・連載など多数手がけている。2014年は365日365泊、全て異なるホテルを利用するという企画も実践。著書に『365日365ホテル 上』(マガジンハウス)、『ホテルに騙されるな! プロが教える絶対失敗しない選び方』(光文社新書)などがある。

「ホテル評論家 瀧澤信秋 オフィシャルサイト」