COMPUTEX TAIPEI 2016

2016年5月31日~6月4日の5日間、台湾・台北で開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2016が閉幕した。2001年にスタートし、年々その規模を拡大するアジア最大のIT関連展示会だ。

今年のCOMPUTEXはどうだったかの印象は、人によって大きく異なるだろう。あいかわらずだったというイメージ、いや、VR一色だった、違うPOSかも、じゃなくてIoTだ、クラウドだ、スタートアップの聖地になったと…。

台湾という国は、1980年代からのPCシーンにおいて、そのマザーボード供給で重要な役割を持つ地域だった。今、中国の深センが担っている機能を想像すれば、当時の状況が理解しやすいだろう。たとえば、今年のCOMPUTEXにおけるMicrosoftはChina Technology Ecosystem(CTE)を紹介し、機器ブランドベンダーとODMベンダーとをマッチングさせることで、よりスピーディにエンドユーザー向け製品を完成させる仕組みの存在を明らかにした。いわばPCシーンの業界内出会い系システムだ。こうした仕組みの中では、すでに台湾勢はODMを探す側に回っているといってもいい。

こうした状況の変化の中で、COMPUTEX TAIPEIは模索を続けている。

IntelはKabylakeをチラ見せ

Intel基調講演のスライド。"Kabylake"と"Apollo Lake"について言及した

今年のCOMPUTEXで、目についたのはちょっとクールダウンしたように感じられるIntelだ。COMPUTEXは、街中の台北貿易センター展示場と、それに隣接する国際会議センター、そしてそこからは少し離れたロケーションに台北南港国際展示場を設けている。Intelは例年、台北南港国際展示場にブースを構え、コンシューマーへの訴求に熱心だったが、今年は、同会場から撤退し、国際会議センターに陣取っていた。

この建物はCOMPUTE併設の各種カンファレンスや、e21FORUM、Microsoft Forumといった基調講演などが開催される大ホールのあるところで、来場者はITプロフェッショナルが目立つ。台湾の有象無象の大小ベンダーと肩を並べて南岸会場でその存在をアピールしてきたIntelだが、エンドユーザーを相手にすることは巨大化したOEMとしてのACERやASUSに任せたといわんばかりだ。

それでもIntelは、COMPUTEXのカンファレンスパートとしてのe21FORUMで基調講演を担当し、台湾といっしょに「未来に向けて加油(かんばる)」ことをアピールしていた。

例年のことではあるが、COMPUTEXのタイミングは、新世代のCoreプロセッサがお披露目される時期でもある。今年はKabylakeこと、第7世代Coreプロセッサのデビュータイミングだったが、基調講演での紹介はチラ見せもいいところで、その概要や性能について深く語られることはなかった。おそらくは、8月の年次開発者向けカンファレンスIDFで詳細が説明され、9月のIFAが正式なデビューとなるのだろう。昨年のSkylakeこと第6世代Coreプロセッサのときと同じ段取りだ。

「今夏」にとどまったWindows 10 Aniverssary Update

Microsoftブース。Windows 10 Aniverssary Updateの機能が大々的に紹介されていた

一方、Microsoftは、見かけの上の態度では台湾シーンへの謝意が感じられる。こちらもカンファレンスパートとしてMicrosoft Forumを開催、その基調講演で、Windows Holographicのプラットフォームをパートナー向けに公開することを表明し、各社がHoloLensのようなハードウェアを開発できるような体制を進めていくことが明らかになった。ここでもきっとCTEの仕組みが有効に機能していくことになるのだろう。

基調講演のステージでは、この夏にリリースされるというWindows 10 Aniverssary Updateが大々的に紹介されたものの、そのリリース日を明らかにしたわけではなかった。Microsoftには、昨年のCOMPUTEX開幕前日にWindows 10の製品版配布開始となるGeneral Availability(GA)が7月29日となったことを発表するという前科がある。今年はそこまでではないが、Windows 10 Aniverssary Updateが「この夏」のいつかはわからないままだ。MicrosoftとCOMPUTEXとの距離感を感じる一幕だ。

ASUSはZenFone 3やZenboなど多くの新製品を発表

ASUSブース。Zenboのデモンストレーションでは毎回人だかりができていた

Intelプロセッサ搭載スマートフォンに熱心に取り組んでいたASUSは、プライベートの発表イベントを開催し、新製品としてZenFone 3をお披露目した。だが、その搭載プロセッサはQalcommのSnapdragon 625となり、Intel Atom 搭載は見送られている。もちろん、OSはAndroidだ。もっとも、同時に発表された未発表プロセッサ搭載PC製品では従来同様にIntelとの蜜月関係は続いている。イベントにはゲストとしてIntelのVPでクライアント・コンピューティング・グループ担当のNavin Shenoy氏も登壇していた。

こうした業界のスタープレーヤーの動向を見て、COMPUTEXの役割が終焉を迎えていると考えるのは早計だ。それよりも、各社それぞれが独自の方向性を見つつ、各社各様のスタンスで参加することを許容する懐の深さがCOMPUTEXにはあるし、それがこのイベントを象徴する特徴でもある。

COMPUTEXにはイベント全体を象徴するようなテーマがない。その混沌とした多様性こそがCOMPUTEXだ。「ないものはない」。それが今年の、いや例年通りのCOMPUTEXではなかったか。