天気予報専門サイト「tenki.jp」を運営する日本気象協会。実は効率的な食品の製造・流通・販売に、気象データを生かすプロジェクトに乗り出している。気象情報やPOSデータなどのビッグデータを解析し、食品ロスや不要に発生する二酸化炭素(以下、CO2)の削減を目指すというものだ。

このプロジェクトは経済産業省の「次世代物流システム構築事業費補助金」採択事業。正式な名称は「需要予測の精度向上による食品ロス削減および省エネ物流プロジェクト」(以下、同プロジェクト)という。初年度の2014年度には「データの見える化」、2年目の2015年度には「個々の会社での実証実験」、3年目の2016年度には「業種を超えた連携利用」と段階を踏んで進めている。並行して事業化も進め、2017年度には実用化する予定だ。

一般財団法人 日本気象協会の中野俊夫氏(写真右)と吉開朋弘氏(写真左)

今回話を伺ったのは、一般財団法人 日本気象協会で同プロジェクトを担当している中野俊夫氏と吉開朋弘氏。天気予報が食の流通にどんな影響を与えるのだろうか、そのインパクトについて聞いてきた。

幅広い産業に影響する気象

中野氏はメーカーを統括。初年度には協力してくれるメーカーがなかなかおらず、「大変でした」と振り返る

食品業界では、メーカー(製)と卸売業者(配)、小売店(販)がそれぞれ独自に需要量を予測。その結果、生産量や注文量が食い違い、廃棄や返品といった"ムダ"が生じてしまう。それを減らすためには高精度な需要予測が必要となるが、製・配・販の1業態だけでは解決できない問題。そこで役立つのが気象情報だ。

中野氏は「将来を物理的に予測する有効な手段が気象なんです。なおかつ、幅広い産業に関わってくる。食品業界においては、気象情報を用いて製・配・販で連携すれば、最適な物流を実現できるかもしれない、と着手しました」と説明してくれた。

つまり、より正確な気象情報や需要予測を製・配・販で共有できれば、3者それぞれにメリットがある。メーカーではロスを削減でき、配送では天候に左右されやすいフェリーなどでも荷物を運べるようになり、小売店では発注数量に生かして売上アップを狙えるというわけだ。

ツイートを需要予測に生かす

吉開氏は小売店を統括

日本気象協会は、需要予測の精度を上げるために「体感気温」を利用。この体感気温こそが購買に直結するが、主観的なものであり客観的には観測しにくい。そこで、用いたのがSNSのつぶやきだ。位置情報付きのツイートから、どのような気象のときに「暑い」「寒い」と感じるのかを分析し、体感気温を客観的に導き出せるようにした。

さらに気象データや小売店のPOSデータも用いて、需要予測をより高度化。膨大なデータ量なので、解析には人工知能を用いている。「気象が売上に関係するかどうか」も商品によって大きく異なるが、吉開氏によれば、そのふるいわけにも人工知能が活躍した。その結果、気象が売上に関係してくる商品が「だいたいみえてきた」(吉開氏)とのことで、今後はそういったカテゴリの商品(飲料や鍋物など)で優先的に需要予測を進めていく。

2015年度の実証実験でどんな結果を残したのか、次ページで豆腐とペットボトルコーヒーの実績を紹介しよう。