日本マイクロソフトは2016年5月24日から2日間、都内で開発者向けカンファレンス「de:code 2016」を開催している。今年で3回目を数えるイベントだが、年々開発者向けのコンテンツが増えている。日本マイクロソフト 執行役 デベロッパー エバンジェリズム統括本部長の伊藤かつら氏によれば、その数は151にもおよび、「Ruby」を開発したまつもとゆきひろ氏や、システム自動構築用OSS(オープンソースソフトウェア)フレームワーク「Chef」のVPであるJames Casey氏などによるセッションが行われた。今回は基調講演で述べられた内容から、OSSに関する話題を取り上げてご紹介する。

日本マイクロソフトの榊原彰氏

OSSに関して最初に熱く述べたのは、2016年1月1日付けで日本マイクロソフト 執行役 最高技術責任者に就任した榊原彰氏だ。元日本IBMのITアーキテクトとして活躍してきた同氏は、Build 2016を訪れた感想として「Microsoftのオープンソースへの傾注は凄まじい。(Build 2016のキーノートで)Bash on Ubuntu on Windowsを紹介した時の会場は大興奮そのものだった。『ls』コマンドを打っただけで絶叫の声もあがっていた(榊原氏)」と説明。筆者も同じキーノートをオンデマンドで視聴していたが、確かにあの場面は大興奮という表現も納得できる。

「MicrosoftがなぜOSSにコミットする?(伊藤氏)」という質問を投げ掛けると、榊原氏は「クローズドな時代じゃない。Microsoftは古い概念にとらわれない企業となった。Microsoft(のプロダクト)かOSSかという判断ではなく、我々は世の中の役に立つか否か、という基準で動いている(榊原氏)」と説明した。また、Xamarin無償提供やWindows 10とUbuntuの関係に触れつつ、「Microsoftはソフトウェア開発者やコミュニティが好きな会社である。皆さんと一緒に未来を作っていきたい(榊原氏)」と強調。前CEOであるSteve Ballmer氏の時代には考えられなかった発言である。

Microsoft CEOのSatya Nadella氏

そのMicrosoftを大きく変えたMicrosoft CEOのSatya Nadella氏も、「WindowsやLinux、Java。何でもいい。確実にオープン性と柔軟性をサポートするすべてのプラットフォームにフレームワークを提供したい(Nadella氏)」と発言した。現在MicrosoftはVisual Studioを前述したXamarinと同じく無償化し、オープンソースコミュニティへのコミットを強めている。Microsoft GitHubで公開している数々のコードもその1つだ。Nadella氏は「開発者がアプリケーションへ自由に機能を追加できるようにするため、Microsoft Cognitive ServicesのAPIを使ってほしい。新たなプラットフォームは大きな変化を起こしている(Nadella氏)」とソフトウェア開発者にアピールした。

Windows 10 Anniversary Updateの特徴を語るMicrosoftのSteve Guggenheimer

続けて登壇したMicrosoft CVP & Chief EvangelistのSteve Guggenheimer氏も、ソフトウェア開発者に対するアピールは大きかった。「開発者同士が助け合う方法を長年議論してきたが、"モバイルファースト、クラウドファースト"ビジョン以降は話が変わってきた。古い時代は終え、デバイスやプラットフォームの増加に開発者は対応を求められている(Guggenheimer氏)」と現状を分析する。その1点において大きな変化を感じるのが、Microsoft Senior Technical Evangelist DevOps ITProの牛尾剛氏による開発者へのアピールである。

Visual Studio Team Service+Jenkins 2.0環境からDC/OSで1,000コンテナーを展開するデモンストレーションを披露

スライドには「DevOps」のキーワードが並び、Mesosphereのクラスタ管理ソフトウェア「Mesosphere DC/OS(Datacenter Operating System)」を会場で1000ノード展開するデモンストレーションを披露。良い意味で開放的なプレゼンテーションは、以前のMicrosoftでは考えられなかった内容だ。「OSSのパートナーシップを組み、フィードバックを受けてMicrosoft Azureを成長させていく(Guggenheimer氏)」と語るように、MicrosoftはWindows 10にこだわりつつもLinuxなどOSSやオープンソースコミュニティへ門戸を開き、共に未来を作ろうと訴えている。

コンテナー数をハート上のドットに見立てて、埋まっていくさまをセッション登壇者たちがカウントダウンしていた。ちなみに1番左がMicrosoftの牛尾剛氏

既にOSSは1つのプラットフォームとして市場を形成し、ブロックチェーンを始めとするビジネスソリューションでも独自の地位を築いてきた。Microsoftの柔軟性と企業体力はOSSへ一定の影響を与えつつ、Microsoft Azureというビジネスプラットフォームの確立を目指している。Microsoft/日本マイクロソフトの面々が語る未来は魅力的であり、研究機関によって裏付けられた機械学習や深層学習といった技術も素晴らしい。技術と体力を持つMicrosoftとOSSが持つ、自由闊達な世界観との融合が実現するのか、否かを予測することはできないが、MicrosoftがOSSと本気で手を取り合おうとしている。それだけは確実だ。

阿久津良和(Cactus)