米国では今、ABM(Account-Based Marketing)が熱く、ABMはマーケティングテクノロジーで最も期待されている分野である。前編では、B2Bマーケティングの戦略的アプローチとして、ABMが登場した背景と期待される理由について解説した。本稿は、後編として、ABMテクノロジーを活用したB2Bマーケティングのプロセスと活用の取り組み方法を考えてみたい。

ABMとリードジェネレーションの相違

リードジェネレーションに苦労しているB2Bマーケターは、ABMでやりたいことは、既存のマーケティングオートメーション(MA)テクノロジーでもできると考えるかもしれない。実際、現在のABMテクノロジーが提供するソリューションは、リードジェネレーションからナーチャリングまでのプロセスを支援するMAソリューションと似ている。

では、ABMと従来型のリードジェネレーションの相違はどこにあるのだろうか。ABMテクノロジーベンダーであるEngagioのCEO兼共同設立者のJon Miller氏は、次の3点を指摘する。

  1. リードジェネレーションを支援する製品がリード志向であるのに対し、ABMはアカウント志向である。
  2. リードジェネレーションが特定のセグメントを対象にしたキャンペーンを展開するのに対し、ABMは選び抜いたアカウントを対象にキャンペーンを展開する。
  3. リードジェネレーションが新規のリード(見込み顧客)にフォーカスするのに対し、ABMは既存顧客のアップセルやクロスセルにもフォーカスする。

この見解は、ABMが新規の顧客関係の構築だけでなく、既存の顧客関係の拡大にまでフォーカスしていることを踏まえたものであるが、従来型のリードジェネレーションの効果を否定するわけではない。階層化したターゲットアカウントリストにおいて、比較的下位に位置付けられている規模の小さな不特定多数のアカウントについては、従来型のリードジェネレーションは依然として有効である。

一方、戦略的に上位の階層に位置付けられているアカウントについてはABMのほうがより高いリターンが期待できる。つまり、ABMはこれまでのB2Bマーケティングを強化する追加的な戦略アプローチであり、MA製品が支援してきたプロセスを補完するものと考えることができる。

ABMテクノロジーが支援するプロセス

ABMテクノロジーが提供するソリューションを理解するため、プロセスの側面からリードジェネレーションとABMを比較してみよう。リードジェネレーションは、コンテンツが先にあり、コンテンツに適したチャネルを選び、どんなターゲット層にコンテンツ(あるいは製品・サービス)を提供するかを決めるプロセスである。

これに対して、ABMはターゲットアカウントを先に決め、提供するべきコンテンツを用意し、どのチャネルが適しているかを決めるプロセスである。下に示すように、ABMテクノロジーソリューションの特徴は、WhatではなくWhoから始まる3段階プロセスを進めていけるよう設計されている点にある。また、マーケターに対しては、ABMテクノロジーは、誰が何を本当に必要としているかを可視化するソリューションを提供するととらえることができる。

Who

●ターゲットアカウントリストの作成
●ターゲットアカウントへの接点の特定

What

●ターゲットアカウントに関連する情報、購買意欲を掻き立てる情報の特定
●ターゲットアカウント向けにパーソナライズしたコンテンツの準備

How

●ターゲットアカウント向けコンテンツ提供チャネルの選定とコンテンツ提供
●ターゲットアカウント単位でのキャンペーンのコーディネーション

ABMの実践を成功させる鍵

前編でも解説した通り、ABMの成功にはセールス部門とマーケティング部門の協働が必須である。

MAソリューションを用いたリードジェネレーションにおける両部門の連携は、マーケティング部門が質の高いリードをセールス部門に引き渡す際に成立する。一方、ABMの場合、最初にターゲットアカウントにフォーカスするアプローチであるため、初期の段階から両部門は「アカウント」という共通言語を用いる。マーケティング部門とセールス部門の両方が歩み寄り、新規顧客獲得と既存顧客からの売上増大というゴールを共に達成していくため、2つのプロセスが分断することは少なくなる。

言い換えると、ABMに取り組もうとする企業にとって、セールス部門とマーケティング部門がゴール設定を共同で行い、ターゲットアカウント計画を共有するチームワークが重要ということだ。

また、前述したABMのプロセスのうち、ターゲットアカウントリストの作成が鍵であり、計画に落とし込むには時間がかかる。そのため、MAソリューションを活用する時以上に、社内のあらゆるデータを徹底的に活用し、データドリブンでプロセスを進めることが求められる。データの活用にはデータの質と量の充実が不可欠である。企業規模や業種といった属性データを用いてターゲットアカウントを明確にしようとした経験のあるマーケターは少なくないだろう。購入目的でWebサイトを訪問しているか否かの判断材料として、IPアドレスを利用するソリューションも登場している。

ABMでは、Webサイト訪問者とのリアルタイムなインタラクションデータの活用を含め、あらゆるデータを使い倒すスキルが求められる。さらに精度の高いターゲティングを行うため、社外からのデータ購入やプレディクティブ・アナリティクスの活用も視野に入ってくるだろう。

現時点のABMテクノロジーソリューションは、3段階のプロセスを完全に統合したものではない。しかし、リーディングベンダーは、近い将来に向けて、ABMプロセスのマネジメントとアカウント単位でのキャンペーン効果の測定が可能なプラットフォーム製品の提供実現を目指すことになると見ている。