5月28日公開の映画『ヒメアノ~ル』は、古谷実原作同名コミックを映画化した作品。森田剛が演じる殺人者・森田正一と、濱田岳が演じるフリーター・岡田進の日常の対比が描かれており、公開前からマスコミ試写を見た人の間で大きな話題となっている。吉田恵輔監督に話を伺った。

吉田恵輔
1975年5月5日生まれ、埼玉県出身。東京ビジュアルアーツ在学中から自主映画を制作しており、塚本晋也監督の作品制作では照明を担当。現場では、映画の他にプロモーション・ビデオ、CMの照明も経験。2006年に『なま夏』を自主制作、本作で同年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭・ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門でグランプリを獲得。その後も、塚本作品などで照明技師として活動する傍ら、2008年に小説『純喫茶磯辺』を発表、同年自ら映画化した。自身が手掛ける作品では監督の他、脚本を自ら執筆し編集も手掛けている。

年齢不詳の人をあつめた

――今回の企画としてのはじまりを教えて下さい。

仲の良いプロデューサーが、「また一緒にやろうよ」と言ってくれたところから始まりました。元々僕がダークトーンの映画を撮っていたことを知っている人なので、「そちらの方が得意じゃない?」と言われて、古谷実先生の『ヒメアノ~ル』を映画化させていただくことになりました。

――森田役が森田剛さんというのは、構想にあったのですか?

脚本ができて、配給会社も決まって、だいぶ経ってから「森田剛くんはどうかな」という話になったんです。原作にあわせて23~4歳位の俳優を探していたので、30代の森田くんは想定してませんでした(笑)。たまたま、舞台『鉈切り丸』での森田剛のすごさについての話になって。あの舞台は時代劇なのでフォーマットは違うけど、人をいっぱい殺す役で今回に通ずるし、「いいかもね」とオファーさせていただきました。

――舞台を観て森田役に?

もともと森田くんの舞台はたくさん見ていたんです。『鉈切り丸』は観に行けなかったのですが、DVDを観て「すごいね」「森田くんで考えようか」と話が進みました。同級生の岡田役の濱田岳くんとは10歳以上離れてるけど、岳くんも年齢不詳だからいいかなと。ムロツヨシさんも年齢不詳だから「年齢不詳の人を集めておけば大丈夫じゃない?」と(笑)。

――吉田監督は、森田さんのドラマも観られていたんですよね。

ジャニーズの方と仕事をするのはこれで3本目ですが、仕事したいと思ったきっかけは深夜ドラマ『演技者。』シリーズ(フジテレビ系列 2002年~2006年)の、森田くんや国分太一くんでした。『演技者。』シリーズを見た時にジャニーズ観が変わって、仕事してみたいと思うようになったんです。

「自分が一番原作のファンだよ」と言える作品で

――原作がコミックですが、最近は漫画原作でファンが怒ったりすることも多いですよね。

自分も嫌な気持ちはわかります(笑)。漫画はキャラクターの髪の毛の長さからスタイルから洋服まで見せているから、それを映画でもう1回やるの? しかも短く? という点で、抵抗はありますよね。それでも、面白いものは面白いですから。

撮っている方としては、覚悟はいりますね。少なくとも、映画界の中では「俺が一番原作のファンだよ」と言える、リスペクトのある作品でないと、できないです。

――表現の違いについてはどのように気を配っているのですか?

一番は、「ダイジェスト映画にならないように」という点です。その上で、漫画の本質を受け継がないといけない。でも今回の『ヒメアノ~ル』は、少し本質を受け継げていないかもしれません。原作では殺人者である森田の内面が描かれていますが、そこはちょっと違うアプローチの仕方をしています。

――その決断にはどういった理由があったのでしょうか。

森田の内面を描いて面白い映画にできるかもしれないとは思ったんですが、それをやっていいのかという葛藤はありました。2時間の映画で薄っぺらく見えてしまわないか。アンチヒーローぽく仕上がってしまったら、本当に被害にあった方の家族が見たらどう思うのかと。

――映画の中で見た森田さんは体型的に少年のような印象もありました。

細いですよね。でも、わかりやすくガタイが良くて明らかに怖い人より、細い人が急にずぶっと刺したり、火をつけたりする方が、何をするかわからないから怖い。映画の「森田」は弱いんですが、物理的な強さではなく、「やる気になったやつが一番怖い」というところを見せています。戦えば体格がいい人が勝つけど、後ろから待ち伏せして刺したりする人が一番怖いでしょう。