東南アジアなどの海外で流通する「低価格スマホ」にサービスを載せて収益を上げる企業がある。シンガポールに本社を構える、グート(Gooute)という日本人によるスタートアップ企業だ。同社は19日、海外のスマホ利用者を対象にした新たな動画配信サービスを発表した。事業の狙いはどこにあるのだろうか。本稿で紹介していく。

東南アジアなどの海外で流通する「低価格スマホ」にサービスを載せて収益を上げる、グート(Gooute)。同社の狙いは?

グートの目指す収益モデルとは?

低価格スマホのビジネスモデルは薄利多売。特に東南アジアの端末メーカーには、充分に利益を確保できずに苦しんでいる企業も多い。そこでグートでは彼らと組み、新しい収益モデルの構築を目指している。事業の3本柱に掲げるのが、凝った筐体のデザインが売りの低価格スマホ「ARATAS DEVICE」、使い勝手の良さを目指したユーザーインタフェースが特徴の「ARATAS UI」、スマホにプリインストールして提供するサービス「ARATAS NET」だ。この”アラタス”は造語で、語源は日本語の”新た”に由来している。

事業の3本柱のうち、「ARATAS DEVICE」は凝った筐体のデザインが売り(左)。「ARATAS UI」では使いやすいユーザーインタフェースを提供する(右)

同社CEOの横地俊哉氏によれば、来年5月までの1年間で約5,500万台の低価格スマホにこれらのサービスを載せていく計画だという。その割合は、ARATAS DEVICEが30万台ほど、ARATAS UIが数百万台レベル、残りがARATAS NET。この割合だけ見ても、端末の販売でビジネスをしようとは考えていないことがよく分かる。

スマホにプリインストールして提供するサービス「ARATAS NET」(左)。同社CEOの横地俊哉氏によれば、向こう1年間で約5,500万台の低価格スマホにサービスを載せるという(右)

同氏は「日本のユーザーさんは通信キャリアから端末を買っているが、海外ではそういったケースは少ない。どんなアプリを入れるかは端末を開発するメーカー次第で、メーカーの権限が強い」と説明。中国をはじめとする、東南アジアの端末メーカーと強いコネクションをもつグートの強みを活かして、メーカーとグート双方の収益になるようなUI、プリインサービスを展開していくと意気込んだ。

どんなサービスを載せる?

では実際に、ARATAS NETではどのようなサービスを展開していくのだろうか。19日に発表されたのは、動画配信サービス「1000i」(ワン・オー・アイ)だった。この1000iでは契約したモデル、タレント、一般ユーザーが出演者(動画クルー)となり、国内外の人々に情報を配信するプラットフォームを目指している。なお動画配信にはYouTubeを利用。YouTubeの「1OOOi」公式チャンネルからも視聴できるように設計した。2016年度は在日外国人を中心に協力を募り、日本の情報を海外へ拡散。それ以降は、海外に暮らす人たちが自国の情報を国内外に向けて拡散する動画を提供予定だという。

動画配信サービス「1000i」(ワン・オー・アイ)。契約したモデル、タレント、一般ユーザーが出演者となり、国内外の人々に情報を配信するプラットフォームを目指している

スマホでの見やすさに配慮して、動画は縦方向で撮影したものを提供。再生の際には動画広告が流れる仕様で、ここで得た収益は投稿者にも還元していく。サービスの提供開始は6月1日を予定。日本語、英語、中国語(簡体字、繁体字)からスタートし、以降、ヒンディー語、インドネシア語、マレー語、ベトナム語、タイ語などに順次対応させる。この後、会場には動画の出演者が登壇して挨拶した。モデルの森理世さんは「世界中の皆さんに日本の素晴らしさを発信していきたい」と笑顔で話した。

動画に出演するモデルたちが登壇して挨拶した。動画は多言語化され、世界中に配信される

このほか、グートでは日本のテレビ番組のリメイク動画や、マンガをローカライズして配信することも考えている。テレビ番組のリメイクについては、すでに製作会社との話が進んでおり、今年9月には配信が開始される見込みとのこと。またマンガのローカライズに関しては、海外の漫画家に書いてもらうことを想定している。日本のマンガを翻訳して配信する方法もあるが、横地氏は「現地では漫画家になりたいという人も多い。日本の漫画家さんの協力を得ながら、彼らに活躍の場を与えたい」と説明していた。

何故いま動画配信サービス?

発表会後、横地氏は囲み取材に対応した。グートがいま、動画配信サービスに注力する理由はどこにあるのだろうか。同氏によれば現在、東南アジアには日本以上にテレビ離れが進み、オンライン動画の視聴機会が増加している国も多いという。「インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムなどでは、安価な1GBや2GBの料金プランに加入している人がほとんど。その一方で、街中にはWi-Fiスポットが増えている。電車の中にもWi-Fiが飛んでいる状況。そこで皆さん、スターバックスなどで長居をしてオンライン動画を楽しんでいる」と横地氏。こうした背景を受け動画広告が日本以上に発達しており、「それなりのインプレッションも稼げている」(同氏)と話していた。

ARATAS NETのサイト内にバナー広告、動画広告、ネイティブ広告を展開して収益化を図る(左)。日本の祭を海外に紹介するなど、クールジャパンの取り組みにも協力(右)

既述の通り、今年度は日本の情報を海外に発信する。自治体などと連携してクールジャパンの取り組みに協力することも考えている。「インバウンドで来日される方は、日本の祭に興味を持たれる。そこで、いつ何処で何の祭がやっているかなど、動画を交えてリアルに紹介できたら」と横地氏。それと平行して、国内で動画クルーを募集するなどプロモーション活動に力を入れていく。

東南アジアのスマホ市場に注目して、ユニークな事業を展開するグート。その取り組みに、今後も注目していきたい。