夫婦への影響についても語った

妻のキャリアや夫婦関係にも影響

次に妻への影響を見てみると、「育児不安・育児ストレスの軽減」があります。これにより、妻の養育態度がポジティブになるということもわかっています。キャリアについては、夫の労働時間が長いと、妻の労働力率が低下し、継続就業を断念させる効果があります。

反対に、夫が早く帰宅し、家事に参加すれば、妻の正規就業を促進します。一方で好影響ばかりではなくて、夫が育休を取得することで、夫の収入やキャリアはどうなるのかという不安を抱くという側面もあります。

夫婦関係でもコミュニケーション頻度が高くなったり、協働関係が増えたりといった効果があります(ただし、コミュニケーション頻度が高いから育休を取得したのか、育休取得したからコミュニケーション頻度が増えたのかはわからない)。しかしここで注意しなくてはならないのは、お互いに「ハッピーになっているか」と言えば、微妙だということです。

例えばコミュニケーションを取る中で、妻が家事・育児の指示をすることで、不満を感じる夫も多いからです。日本人はあまり夫婦間の幸福や愛情について考えていないのかなと思っています。そのようなバックグラウンドがないので、父親の育児参加が多いことが夫婦間の幸福に直接つながるといえる研究はありません。

育休は自分のキャリアの一環

父親自身に対してももちろん影響があります。育休を取得した父親は同情心が強くなったとか、自分のやっていることに誇りを持てたとか、感謝の心が増えたと言っています。子育てをすることによって自分が成長したとも感じています。ほかにも父親たちの語りとして、「思いやりが深まった」「他人に迷惑をかけないように心がけるようになった」「物事に対する考え方が柔軟になった」「人間関係が広がった」「仕事に対する意欲がわいた」という声が聞かれました。もちろん父親も、育児不安や育児ストレスを抱えます。しかし反対に、育児に喜びを感じているという人も多いです。

職場に対する影響もあるようです。「同僚に感謝する気持ちが強くなった」「全てにおいて柔軟な考え方ができるようになった」という声があるほか、仕事のやり方も変化しています。私の研究では、段取りの重要性を認識し、時間のマネジメントができるようになったという効果がわかりました。育児期の社員への理解が深まるというのも、他の社員への好影響といえます。「育休も自分のキャリアの一環」と考える父親もいました。

研究者なので客観的に研究をしているわけですが、さまざまなポジティブな結果が得られています。子ども、妻、夫婦間、父親自身、職場に対してのポジティブな影響を考えれば、父親の育休取得は「Win-Win」どころか「Winの5乗」と言えるのではないでしょうか。