2016年5月の定例更新プログラムが物議を醸している。KB3156421はInternet ExplorerやWindowsシェルなどの脆弱性11カ所を修正するセキュリティホール更新プログラムだ。そこには、最大深刻度を「緊急」としたKB3156987(MS16-057)などが含まれている。

2016年5月の更新プログラム適用で、Windows 10のビルドは10586.318に更新される

だが、KB3156421を適用すると一部の環境で、Windows 10の動作が非常に緩慢になるという指摘が相次いだ。本件に関するMicrosoftの公式発表はないものの、海外のインターネット掲示板「Raddit」に、Microsoft社員を名乗るJohn Wink氏が「この問題を修正中」と投稿している。また、Wink氏はCortanaによるパーソナルアシスタント機能を一時的に無効化することで、問題発生を回避できると述べた。

Cortanaを開き、<ノートブック> → <設定> と進み、<Cortanaは、おすすめの~> のスイッチをクリックしてオフに切り替える

現在はシステム要件を定めて設計や実装を行う従来型のウォーターフォールではなく、情報収集やアイディアを創出して実装の流れを繰り返すアジャイル開発が主流となっている。FacebookのMark Zuckerberg氏が述べた「Done is better than perfect (完璧を目指すよりまずは終わらせろ)」はそれを象徴する有名な言葉だ。

しかし、セキュリティホールを塞ぐ一方でバグが発生し、ソフトウェア全体に悪影響を与えては元も子もない。Microsoftに限らないが、ソフトウェア品質が軽視傾向にあると述べるのは言い過ぎだろうか。

以前のWindowsであれば、更新プログラムを抑止する方法はあった。Proエディションに限ればWindows 10でも不可能ではない。だが、Windows 10 Homeエディションは基本的に更新プログラムの適用を止められない。そのため、今回のKB3156421に関してはアンインストールを実行し、「Show or hide updatesトラブルシューティングツール」を使うことで導入を一時的に抑止できる。

KB3156421をアンインストールして、「Show or hide updatesトラブルシューティングツール」を使うことで、導入を抑止できる

だが、Windows 10 Insider Preview ビルド14328以降では、Cortanaを無効にできなくなっている。2016年夏リリース予定のAnniversary UpdateでCortanaが切り離せなくなるのは確実で、今後のWindows 10で同様の問題が発生したら目も当てられないだろう。また、Windows 7やWindows 8.x時代も似たトラブルが散見されたことを踏まえると、今後も更新プログラムが原因で安定性が損なわれる可能性は拭い切れない。

アジャイル開発の本質は超短期リリースを繰り返すことであり、フィードバックによる素早い仕様変更と、新機能の早期提供にメリットがある。まさにWindows 10 Insider Previewがそれだ。

しかし、筆者の愚考に過ぎないが、Windowsの細部や全体を把握する開発者が減っているのではないか、という懸念がよぎる。Windows NTの父でもあるDavid Cutler氏は従心を数え、現場全体を指揮したSteven Ballmer氏もMicrosoftを去った。Windowsはバージョンを重ねることで成長してきたが、基幹であるOS開発はウォーターフォールでもなくアジャイルでもない、新たなプラクティスパターンが必要ではないだろうか。

阿久津良和(Cactus)